ラトゥール(英語表記)Georges de la Tour

デジタル大辞泉 「ラトゥール」の意味・読み・例文・類語

ラ‐トゥール(Georges de La Tour)

[1593~1652]フランスの画家。ろうそくの光で闇の中の情景を浮かび上がらせる独自の手法で、宗教画を多く描いた。

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精選版 日本国語大辞典 「ラトゥール」の意味・読み・例文・類語

ラ‐トゥール

  1. ( Georges de La Tour ジョルジュ=ド━ ) フランスの画家。確実な写実と大胆な明暗表現により、深い精神性を秘めた風俗画・宗教画を描く。特に「大工の聖ヨセフ」など、蝋燭の光に照らし出された宗教的情景の表現にすぐれた。(一五九三‐一六五二

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改訂新版 世界大百科事典 「ラトゥール」の意味・わかりやすい解説

ラ・トゥール
Georges de la Tour
生没年:1593-1652

フランス,ロレーヌ地方の画家。1616年以後に記録が存在するので,それ以前にイタリアに行ったとする推測がされる。しかしその画風の単純性や主題の宗教性からはその可能性は少ない。20年からナンシー近郊のリュネビルLunévilleに工房をかまえ,死ぬまでそこを離れなかったと思われる。この都市は交通の要衝でブルゴーニュ地方やメッス,ナンシーといった都市との連絡が密であるとともに,三十年戦争の舞台ともなったところである。38年から43年までリュネビルでの記録がないが,たぶんパリに行っていたのであろう。38年に〈フランス王の画家〉となる。それ以前はロレーヌ公の宮廷画家の一人であった。作品は少なく30点もない。これは,しばしば戦場となった地方に生きた画家の宿命ともいうべきかもしれない。それらはほぼ,ろうそくの光をかざした〈夜の光景〉の宗教画と,カラバッジョ派的な民衆像を描く風俗画とに分けられる。前者では《聖誕図》や《セバスティアヌス》が代表作であり,後者では《いかさま師》《盲目の絃琴師》が名高い。ともに微妙な光の反射を写実的に表現している点や,イタリア的な肉体の量感性が抑制されている点では共通しているが,前者の宗教性と後者の風俗性とはその対照性にとまどわされるほどである。1972年パリでの〈ラ・トゥール展〉においてソ連のリボフ美術館から《借金返済》やイギリスミドルズブラから《さいころ遊び》も出品された。しかし前者はラ・トゥールの師匠のドゴツClaude Dogoz,後者は息子のエティエンヌÉtienneによるものと思われるが,まだ定説はない。この画家自身20世紀に入って発見され,まだ研究の年月が浅いせいか,彼に帰せられる作品についても議論が多い。北方のテルブリュッヘンやファン・ホントルストと夜の場面で共通性をもつものの,その深い宗教性が,ラ・トゥールを17世紀の最もすぐれた画家の一人にしている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラトゥール」の意味・わかりやすい解説

ラ・トゥール(Maurice Quintin de La Tour)
らとぅーる
Maurice Quentin de La Tour
(1704―1788)

フランスの画家。サン・カンタンに生まれる。1723年パリに出て、当時ジョセフ・ビビアンJoseph Vivien(1657―1735)、ロザルバ・カリエラRosalba Carriera(1675―1757)たちによって流行し始めたパステル画の刺激を受け、もっぱらパステル画によって肖像画を描く。1746年には「パステル肖像画家」としてアカデミーに入会。とくに1743年以来、王室、宮廷の公的な肖像を制作し、青、真珠色に輝く灰色を主調とし、若干のバラ色や黄を混じえた繊細で魅惑的な色彩、モデルの心理的な機微を表す精密な描写によって人気を得、1748年のサロンに出品された王や王妃を含む14点の肖像のうち8点がルーブル所蔵となったほどである。ほかにジャン・ジャック・ルソーポンパドゥール夫人など多くの同時代人の肖像が残されている。ロココ人の自由で屈託のない相貌(そうぼう)を示す『自画像』(アミアン美術館)も代表作。1773年までサロンに出品し、1784年以降は故郷に隠退。その死後アトリエに残された多くの作品がサン・カンタン美術館の基盤となった。

[中山公男]



ラ・トゥール(Georges de La Tour)
らとぅーる
Georges de La Tour
(1593―1652)

フランスの画家。ロレーヌ地方のビク・シュル・セイユにパン屋の息子として生まれる。1610~1616年ころ、ローマで絵の修業をしたと考えられる。1620年にロレーヌ地方のリュネビルに居を定めて活躍を始め、ロレーヌ公アンリ2世の宮廷画家となるが、フランス国王ルイ13世などからも注文を受けた。初期には風俗画が多く、登場人物の心理的緊張感を主題とした『クラブのエースを持ついかさま師』(フォート・ワース、キンベル美術館)、『女占師(うらないし)』(ニューヨーク、メトロポリタン美術館)などがある。後期にはカラバッジョからの影響を発展させて、独特な宗教画の様式を確立し、ろうそくの光を中心とした強い明暗の対照、深い精神性と臨場感を特色とする。『大工の聖ヨセフ』(1645ころ、ルーブル美術館)、『聖セバスチャン』(1650ころ、ルーブル美術館)など。リュネビルで没。死後その名は忘れ去られ、作品だけが他の画家の名で知られていたが、20世紀前半にようやく復活した。

[宮崎克己]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラトゥール」の意味・わかりやすい解説

ラ・トゥール
La Tour, Georges de

[生]1593.3.19. ビック
[没]1652.1.30. リュネビル
フランスの画家。その生涯についてはあまり知られていないが,同時代のロレーヌ地方の画家とは交遊があったと考えられる。ろうそくの光による夜の作品を得意とし,古典的な静けさのなかにも,形の単純化や色彩などから現代絵画に近い明確さや個性がみられる。宗教的主題の作品が多い。息子エチエンヌも画家で父親とよく似た作品を描き,両者の絵は近年まで混同されることが多かった。作品は寡作で,確かなものはわずか 21点しかない。主要作品『キリスト生誕図』 (レンヌ美術館) ,『ヨブ』 (エピナール,ボージュ県立美術館) ,『女占い師』 (ニューヨーク,メトロポリタン美術館) 。

ラ・トゥール
La Tour, Maurice-Quentin de

[生]1704.9.5. サンカンタン
[没]1788.2.17. サンカンタン
フランスの画家。パステル画の創始者で,主としてパステルによる肖像画を描いた。パリでフランドルの画家 J.スポエドに師事。ランス,カンブレー,イギリス各地を旅行し,1727年頃パリに定住。 37年に『ブーシェ夫人像』『笑う画家』をサロンに出品して名声を得た。 46年にアカデミー会員,51年に同評議員となり,50年以降王室の肖像画家として仕えた。 150点以上の肖像画を残したが,主要作品は『ポンパドゥール夫人』 (1756) ほか,ルソー,ボルテール,ルイ 15世などの肖像画。

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百科事典マイペディア 「ラトゥール」の意味・わかりやすい解説

ラ・トゥール

フランスの画家。ロレーヌ地方のビク・シュル・セイユに生まれ,一時イタリアに滞在したほかはもっぱら同地で活動。明快な形態把握とカラバッジョ風の鋭い明暗対比とにより,独特の情感と静けさをたたえた夜の光景を好んで描いたが,現在確実に真筆と認められているものは少ない。代表作に《大工のヨセフ》(1640年ころ,ルーブル美術館蔵),《悔悛するマグダラのマリア》(1640年ころ,ニューヨーク,メトロポリタン美術館蔵)などがある。

ラ・トゥール

フランスの画家。エーヌ県サン・カンタン生れ。もっぱらパステルによる肖像画を制作,繊細な心理描写で名声を博し,1746年アカデミー会員,1750年,王室画家となった。代表作は《読書するユベール師》(1742年,ジュネーブ,歴史美術館蔵),《ポンパドゥール夫人像》(1755年,ルーブル美術館蔵)など。

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世界大百科事典(旧版)内のラトゥールの言及

【バロック美術】より


[フランス]
 フランスでは17世紀の初頭まで,マニエリスムのフォンテンブロー派が尾を引いていた。カラバッジョ派のバランタン・ド・ブーローニュがまず清新の気を伝え,風俗画のル・ナン兄弟,明暗様式のG.deラ・トゥールなどが〈プロト・バロック〉を代表する。彼らはカラバッジョやリベラと同じく,極度に技巧化したマニエリスムを克服し,現実生活に眼を向けた精神の革新のモメントを代表しているといえよう。…

※「ラトゥール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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