日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラングランド」の意味・わかりやすい解説
ラングランド
らんぐらんど
William Langland
(1330ころ―1400ころ)
イギリスの詩人。中世イギリス文学の大作『農夫ピアズの幻(まぼろし)』の作者とされる。伝記は不詳であるが、この作品から、イギリス中西部に生まれ、グレート・モールバンの修道院で教育を受け、ロンドンに出て聖職についた人物と推定される。『農夫ピアズの幻』The Vision of William Concerning the Piers the PlowmanにはAテキスト(1362~63)、Bテキスト(1376~77)、Cテキスト(1393~98)の三種のテキストがあり、作者複数説もあるが、順次一人の作者によって改訂されたものとされている。敬虔(けいけん)な農夫ピアズ(ときにこれが聖ペテロやキリストの意味に転化する)の、キリスト者としての祈りと、真理への希求のうちに、人間の理想的な生き方をみ、人間の生きるべき正しい道を説いた、神秘主義的説教文学の傑作であると同時に、当時のさまざまな階層・職業の人物を登場させ、その道徳的腐敗を非難した、痛烈な社会批判の書でもある。
[安東伸介]
『池上忠弘訳『農夫ピアズの幻想』(1974・新泉社)』