「ポスト・モダニズム」の旗手とよばれるフランスの哲学者。1924年ベルサイユに生まれる。パリ第八大学哲学科教授、国際哲学学院の学院長を歴任した。
メルロ・ポンティの哲学的影響のもとに書かれた、クセジュ文庫の『現象学』を最初の著作として思想界にデビューした。その後マルクス主義の反スターリン主義グループの雑誌『社会主義か野蛮か』に参加し、アルジェリア解放運動に身をおいた。
一方、彼は絵画・美学を中心とする芸術に関心を示し、『ディスクール、フィギュール』(1971)では、芸術は無意識のフィギュール(姿、顔つき、形などの視覚的な意味を帯びた形象)のありようであり、リビドー(性的欲動エネルギー)と同じように調和を解体する力であるとする。したがって芸術のフィギュールはディスクール(言説)の次元にはない。つまり、芸術、無意識は言語の外部をさし、言語化に反発するものである、とする。
『リビドー経済』(1974)では、さらにこの考えを推し進め、現実のすべてを「リビドー身体」としてとらえ、世界を考察する。この書は、ポスト構造主義的思考への転回点を示し、ドルーズの「ノマドロジー」(遊牧論)を誘導する。リオタールは、現代は「大きな物語」grand récitが消え、歴史の終焉(しゅうえん)に入ったと考える。普遍性が破壊されたこの状況下では、「小さな無数のイストワール(物語=歴史)が、日常生活の織物を織り上げ」(『ポスト・モダン通信』)、言説は多様化する。
こうした「言説の多様性」の主張は、『ポスト・モダンの条件』(1979)で、「言語ゲーム」という、リオタールのキーワードとなって表れる。ウィットゲンシュタインの「ゲームの理論」に由来するこの主張によれば、多様化した言説は、テクノロジーの発達により、コンピュータを通して「情報ゲーム」となるだろうと予測している。
『ポスト・モダン通信』(1986)は、リオタールがしたためた10通の手紙を編集したものである。「ポスト・モダンとは何か?」という問いに対する答えで始まるこの書は、社会通念を打ち破る「アバンギャルド(前衛的)な思想」を追求する。「モダニティ」(近代性)とは「崇高の美学」を提供するものであり、一つの時代ではなく、「思考」「言表行為」「感受性」のあるモード(様式)を示すものであるが、「ポスト・モダン」とは、何よりも「モダン」という「大きな物語」の終焉を宣言することであった。つまり、「モダン」モードである「規定的判断」によっては判断されえない、複雑化した、行き着く先のわからない漂流のなかにいる様態がポスト・モダンであるとするリオタールは、この様態に対する問題を提起し続けてきたのである。
[平野和彦 2015年6月17日]
『ジャン・F・リオタール著、今村仁司他訳『漂流の思想――マルクスとフロイトからの漂流』(1987・国文社)』▽『管啓次郎訳『ポストモダン通信――こどもたちへの10の手紙』(1988・朝日出版社)』▽『ジャン・F・リオタール著、睦井四郎他訳『文の抗争』(1989・法政大学出版局)』▽『小林康夫訳『ポスト・モダンの条件』(1991・水声社)』▽『ジャン・F・リオタール著、本間邦雄訳『リオタール寓話集』(1996・藤原書店)』▽『杉山吉弘・吉谷啓次訳『リビドー経済』(1997・法政大学出版局)』▽『ジャン・F・リオタール著、三浦直希訳『言説、形象(ディスクール、フィギュール)』(2011・法政大学出版局)』▽『高橋允昭訳『現象学』(白水社・文庫クセジュ)』▽『マンフレート・フランク著、岩崎稔訳『ハーバーマスとリオタール』(1990・三元社)』
スイス出身の画家。パステルおよびエマイユを用いて主として肖像画を描いた。ジュネーブに生まれる。出生地およびパリで絵画を修業し、1736年放浪の旅に出る。ローマおよびギリシア各地を経てイスタンブールに5年間滞在し、さらにウィーンにも足を伸ばした。これら各地で彼は高貴な顧客に恵まれ、教皇クレメンス12世やオーストリア皇女マリア・テレジアの肖像画をはじめ多くの作品を残した。48年パリに帰ってからも肖像画の注文客は減少しなかったが、アカデミー会員となることを拒まれ、このため58年ジュネーブに帰って同地で没した。
[野村太郎]
フランスの哲学者。1950年に哲学のアグレガシオン(教授資格)を取ったのち,アルジェリアの高校,パリ大学ヴァンセンヌ校,パリ第8大学,国際哲学コレージュ,アメリカ合衆国の大学などで教えた。彼の名を世界に知らしめた『ポスト・モダンの条件』(1989年,原著1979年)は,カナダ・ケベック州政府の大学評議会の依頼で書かれた知のあり方をめぐるレポートである。近代にフランスとドイツで語られた普遍的なるもの(正義,真理)をめぐる物語は,19世紀末以降になると失効し(モダンの終焉),科学の正当化の物語としての哲学も崩壊する。しかし科学者が専門知に閉じこもり,大学が自治を失って経済的・政治的要請に振り回されるようになるなか,リオタールはあえて哲学者として,正義と真理がともに成り立ちうる政治のための「条件」を考えた。その影響は,「廃墟」となった大学で「不同意の共同体」を構想するビル・レディングスや,「ポスト・モダンの条件」をとり払って「条件なき大学」について語るジャック・デリダにも及んでいる。
著者: 岡山茂
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
1924 -
フランスの哲学者。
ポスト構造主義哲学を代表する哲学者で、最初現象学とマルクス主義から出発、「主体」の概念の乗り越えを企図し、1970年以降言語学と精神分析の影響を受け独自の哲学を展開。著書「ポスト・モダンの条件」(’79年)の中で、パーソンズのシステム理論を批判、他に「リビドー経済」(’74年)等を著す。
出典 日外アソシエーツ「20世紀西洋人名事典」(1995年刊)20世紀西洋人名事典について 情報
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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