日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
リュウキュウヤライイシモチ
りゅうきゅうやらいいしもち / 琉球矢来石持
large toothed cardinalfish
[学] Cheilodipterus macrodon
硬骨魚綱スズキ目テンジクダイ科コミナトテンジクダイ亜科ヤライイシモチ族に属する海水魚。日本では伊豆諸島、小笠原(おがさわら)諸島、伊豆半島から南西諸島にかけての海域から知られているが、世界では台湾南部、南シナ海、アンダマン海、東アフリカなどインド洋、太平洋に広く分布する。体は比較的細長く、側扁(そくへん)し、体高は体長の約29%。頭は大きく、頭長は体高よりすこし大きい。目は吻長(ふんちょう)よりも大きい。口は大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の後縁下付近に達する。上主上顎骨は非常に退化的。上下両顎に数本の牙(きば)状の犬歯がある。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)と口蓋骨に絨毛(じゅうもう)状の歯がある。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の後縁は鋸歯(きょし)状。鰓耙(さいは)は上枝に5~6本、下枝に15~16本。頭部と体は櫛鱗(しつりん)で覆われる。側線はよく発達し、尾びれ基底に達する。側線有孔鱗数は24~25枚。背びれは胸びれ基底上方から始まり、よく離れた2基で、第1背びれは6棘(きょく)、第2背びれは1棘9軟条。臀(しり)びれは第2背びれ起部下方から始まり、第2背びれとおよそ同大で、2棘8軟条。胸びれは13軟条。腹びれは胸びれ起部下付近から始まる。尾びれの後縁は湾入する。体は銀白色で、頭の前縁から尾柄(びへい)にかけて8本の細い暗褐色の縦帯が走る。各帯の幅は、普通はそれぞれの帯と帯の間隔よりも広い。そのうち第1帯は背びれの基底部に沿って、第3は目の上縁から、第5帯は吻端から目を横切って、第6帯は下顎端から目の下縁を通り、そして第8帯は下顎の後端から、それぞれ尾柄に向かって伸びる。幼魚には尾柄部中央に眼径大より大きい黒色斑(はん)があるが、成長に伴って斑紋は薄く白っぽくなる。尾びれ基底部近くは黒ずむ。尾びれの上下縁は黒い。第1背びれは暗色。水深0.5~40メートルのサンゴ礁や岩礁域の斜面、礁湖内外の穴や割れ目にすみ、普通は単独で中層域をホバリングしているか、対(つい)あるいは数対の小さい群れを形成する。産卵期には雌雄は対を成して求愛行動をして産卵し、雄が口内保育を行う。おもに小魚を食べる。体長8センチメートルほどで成熟する。もっとも大きくなる種で、最大体長は20センチメートルほどになる。
ヤライイシモチ族は、魚類研究者の馬渕浩司(まぶちこうじ)(1971― )らによる2014年(平成26)のDNAの分析結果から、本種が属するヤライイシモチ属のみに対して創設された。本種によく似たスダレヤライイシモチC. intermediusは、幼魚では本種より尾柄の黒色斑が小さく、成魚では尾柄の斑紋が消失し、尾柄部全体が白くなることで区別できる。
[尼岡邦夫 2023年9月20日]