改訂新版 世界大百科事典 「リージェンシー様式」の意味・わかりやすい解説
リージェンシー様式 (リージェンシーようしき)
リージェンシーRegencyは一般には摂政制の意。美術では英国王ジョージ4世の摂政および在位時代(1811-30)の建築,家具の趣味を包括的に示す語として用いられる。年代的にはジョージアンの最終的局面と重なるが,様式的にはその直前のクラシック・リバイバルの第2段階をなすものであり,フランスのディレクトアール様式からアンピール様式に至る様式変遷と並行する。すでにギリシア,ローマ,エジプト,中近東,中国などの文化・風俗への関心は高まっていたが,自由奔放な皇太子として知られたジョージ4世は,独創的な建築家J.ナッシュを起用し,この異国趣味を推進した。ナッシュはブライトンの離宮の改築(1815-23)にあたって前代未聞の構想を実現した。すなわち鉄材を自由に用い,外観はインド・イスラムの宮殿様式を採り,内部装飾には中国風の華麗な色彩と文様を施し,変化に富んだプランを展開して世人を驚かせたのである。この折衷的オリエンタリズムの産物は,1800年に刊行されたトマス・ダニエルの《インド建築図集》に依拠したものであったが,同時にナポレオン戦争での勝利に酔う,当時のイギリスの風潮を反映するものであった。この夢幻的な折衷主義は,前代流行したアダム様式の優美な単純性とは対立的な方向を歩むものである。それを家具において実現したのは,リージェンシー様式にパトロンとしても大きな影響力をもったT.ホープであった。この時代の家具は赤褐色のマホガニー材を用い,渦巻文様を主体とした剛健な形態を特徴としたが,ビクトリア時代の中流階級に広く受け継がれ,今日でもイギリスの家具の最も一般的な様式となっている。また1811年より,ナッシュは皇太子の居館カールトン・ハウスからリージェンツ・パークに至る都市計画に当たっていたが,ここでも,従来にない大規模な構想を展開して,多様な屈折と曲面をもつリージェント・ストリートを実現した。一方,T.リックマンは中世建築の考古学的研究に従事してセント・ジョンズ・カレッジにゴシック復興の兆しを示した。
執筆者:友部 直
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報