改訂新版 世界大百科事典 「ディレクトアール様式」の意味・わかりやすい解説
ディレクトアール様式 (ディレクトアールようしき)
style Directoire
フランス大革命期の総裁政府(ディレクトアール)時代(1795-99)の室内装飾,家具,衣装の様式。〈メシドール(収穫月)様式style Messidor〉ともいう。ルイ16世様式(ルイ王朝様式)とアンピール様式の間にあって前者の様式を反映し,また後者への過渡的推移を示す。この時代の不安定さのため建築の実例はなく,室内装飾の残存例も少ない。
もっとも典型的な実例は家具に見られ,すでにルイ16世様式の趣味を導いた古典主義的理想が,いっそう簡素で明快な形態への指向となり,ギリシア,ローマ,エトルリア,エジプトなどの装飾形式が随所に取り入れられ,方形,直線が様式の基礎となる。たとえば椅子では,しばしばギリシア風の三脚椅子が制作され,四脚の座椅子では前脚がシカのひづめの脚部をもち,ひじ掛けはヤギの頭部の装飾,そして後脚と背は反り,全体としては方形と直線のきびしい形態感が支配的である。木材は果木などの比較的廉価な素材が用いられ,めっきブロンズの使用も少ない。衣装は,大革命期のいわゆる〈サンキュロット〉の後だけに,いっそう簡素で自由となり,女性は,古代風のチュニック・ローブのゆるやかな着付け,男性はおおげさな燕尾服に,ひだの多い胸飾りをつけるという流行が支配した。
執筆者:中山 公男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報