リージョナリズム(その他表記)regionalism

翻訳|regionalism

デジタル大辞泉 「リージョナリズム」の意味・読み・例文・類語

リージョナリズム(regionalism)

地域主義。地方主義。普遍主義あるいは中央集権を排して、地域ごとの特殊性や主体性を重視しようとする考え方。

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精選版 日本国語大辞典 「リージョナリズム」の意味・読み・例文・類語

リージョナリズム

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] regionalism ) 地域主義。地方主義。普遍主義あるいは中央集権を排して、地域ごとの特殊性や主体性を重視しようとする考え方。

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改訂新版 世界大百科事典 「リージョナリズム」の意味・わかりやすい解説

リージョナリズム
regionalism

地域主義と訳される。中央あるいは全体に対して,地域regionの主体性,自治性を尊重する考え方。政治,行政,経済,文化等々さまざまな領域で地域主義が論じられるので,その意味するところは多義的である。また地域の範囲も一義的に確定できない。国民国家の内部で,狭域的・広域的に地域が問題になる場合もあるが,いくつかの国民国家を統合した次元で地域をとらえる場合もある。
執筆者:

イギリスのE.W.ギルバートは,リージョナリズム(地域主義)という概念の従来の使用例を次のように整理している。(1)中央集権国家が,その行政上の権限をある程度まで地方へ委譲する方式。(2)地域の指導者たちが中央政府に対して,より多くの権限の委譲を要求する運動。(3)独立運動の指導者たちが,その国家に対して彼らの地域の完全な主権を要求する運動。(4)経済的ならびに文化的に最強の影響力をもつ首都の標準化作用に反発する地域の精神的・啓蒙的運動たとえば地方小説,農民文学,地方文化の自己主張。(5)国際主義,普遍思想に対する民族主義運動,ナショナリズム

 リージョナリズムの概念は,一応上のように区別されるが,実際にこの言葉が使用される場合には,その意味内容は複雑であって,上記のカテゴリーのいくつかにわたるのが普通であり,あるいは,もっと別の枠組みが必要な場合もある。リージョナリズムの運動もまた国により時代によってさまざまな形態をとる。

 アメリカのF.フランクフルターは,リージョナリズムの根源を人間と地域の多様性に求め,その認識に基づいてよりよき地域社会の建設と文明の創造を追求する過程としてとらえている。

 現代におけるリージョナリズムは,未来社会の理想像と,それへ向けての創造的行動原理に基礎をもつものでなければならない。また,自立性と自主性こそは,地域主義の別の表現である。リージョナリズムは人間と自然との共生の理論,すなわちエコロジーの本質に根ざし,歴史と伝統を誇る複数的個性の地域から成り立つ〈地方〉において,新しい地域共同体の構築をめざすことである。

 リージョナリズムは,人間一人一人の個性尊重の精神が地域集団へと拡張された自然な主張であり行動であるが,それは閉鎖的なセクショナリズムとかプロビンシャリズムや地域エゴイズムに逆戻りする危険性をもはらんでいる。
執筆者:

最近の日本で注目を集めている地域主義は,〈地方の時代〉論という形で一般化された考え方である。すなわち,地域を単位にして全体社会を再組織化しようという考え方で,地域の自律性を重視し,国民国家を相対化する立場である。この場合,地域の範囲は,比較的狭域的な生活圏,やや広域的な経済圏,いくつかの経済圏の集合体である程度自立的な再生産圏(あるいは文化圏)といった三重の構成によって理解できよう。こうしたさまざまなレベルの地域を前提にして,それぞれのレベルに応じた諸機能の分散化,政治・行政の分権化,地域経済の可能な限りでの自立化などを推進しようというのが,このタイプの地域主義である。たとえば,行政のレベルでは,基礎自治体を重視し,その意思決定を尊重する。基礎自治体間の利害調整が必要なことあるいは広域的な視点からの処理が不可欠なことについては,都道府県が担当する。都道府県間の利害調整が必要なことや都道府県を超えたレベルで処理が必要なこと,あるいはマクロ的な視点から処理の必要なことは,国にゆだねる。要するに,国は国でなければできないことだけ担当すればよい。しかも,国が意思決定を行う場合でも,下意上達を徹底させることが必要である。こうした地域主義は,日本では1973年ころから主張されるようになった。環境制約,資源制約がクローズアップされ,産業化の限界が露呈されたからである。

 第2次大戦後の日本では,社会を組織化する主要な原理として昭和20年代には階級主義,30年代から40年代には産業主義があった。すなわち,20年代には資本か労働か,マルクスかケインズか,資本主義か社会主義かといった二者択一,あるいは両者の立場からの修正主義が社会を組織化する原理として追求された。しかし,30年代以降の経済の高度成長によって産業化が進展し,国民の所得水準は飛躍的に上昇した。それによって階級主義は後退し,産業化の進展を是認する立場,すなわち産業主義を支持する者が増えた。だが,環境制約,資源制約がクローズアップされるに及んで,とくに石油ショックを契機にして,産業化が石油文明にほかならないことが明らかになり,産業主義を相対化する立場が地域主義という形で登場したといえる。すなわち地域を単位として産業主義を制御することによって,生態系を保全し,資源の浪費を阻止することを意図するものである。制御の具体的な方法は地域住民による参加民主主義を活用することになるが,人間の労働生産物でない財の利用は計画にゆだね,人間の労働生産物の配分,利用は市場経済にゆだねる。すなわち,人間の労働生産物ではない土地や水などの利用は市場からはずし,計画(地域レベルでの社会的管理)にゆだねる。いわば生産要素の利用・配分は計画にゆだね,生産物の利用・配分は市場経済にゆだねるのである。また,経済循環についても,可能な限り地域内循環を拡大していくことが望ましい。実際,石油コストが上昇すれば,財によっては地域分散的な生産・流通のほうがかえって効率的になろう。技術についても,生態系になじみ地域資源を活用する適正技術の開発が必要になろう。さらに,エネルギーも,地域のソフトエネルギーの利用が重視されよう。とにかく,都市規模,経済循環の規模,企業規模,技術の投資単位などについて,ヒューマン・スケールに戻すことが検討されなければならない。

 以上のように,最近注目されている地域主義は地域の側からの社会改革論であって,一つの思想であり,理論であり,実践の手法であるが,まだ完成された体系ではない。主張する論者により,見解も異なり,評価についても,保守主義復古主義という批判がなされている。しかし,地域主義は既存の保守・革新という軸で割り切れない。また地域主義が産業主義の相対化を意図するものであれば,それは当然に特殊日本的な考え方ではない。現に地域主義はE.F.シューマッハーおよびその後継者たちによって提唱されている。先進工業国における問題解決および発展途上国の開発について,地域主義の適用が主張・実践されている。ただ,多民族国家や連邦においては,地域主義の主張は複雑に屈折している。また,国民国家の枠を越えた地域と地域のトランス・ナショナルな協力関係も現実に展開しはじめている。
執筆者:

現代国家における行政職能の拡大は,国と地方との効果的な協力関係の必要性を増大させる。社会経済の発展により地方の利害は多様化し錯綜する。地方分権が求められる背景もここにあるが,他面,相対立する地方の利害を調整し,かつそれを国の利害と総合するシステムが必要となる。この場合,リージョナリズムは,この要請にこたえて国と地方との中間に広域的行政システムを形成することを意味する。このような構想が近代的制度として整えられるのは,第2次大戦後である。しかし制度の実態は,その国の政治行政構造,自治の伝統等に規定され多様である。

 フランスでは1956年に大統領命令により県を越えた22のレジオンRégion活動区域が設置され,64年にレジオン知事の設置と国家計画への参画権限が定められた。73年,レジオンには法人格が与えられ,上記区域は団体としてのレジオンとなった。また議決機関としてレジオン議会が設置された。レジオン知事は中央政府の代理者としてその統治と開発計画の執行にあたり,議会は資金調達や支出に議決権をもつ。

 イギリスでは,第2次大戦時に戦時リージョン民間防衛広域圏)が設置されたが,1964年の経済計画省発足時に九つの広域圏に全土が区分され,広域圏計画庁と広域圏計画会議が設置された。だがこれは,中央各省と地方政府の協力を欠き機能しなかった。70年内政省庁の多くは環境省に統合され,広域圏には大幅な権限が委譲され環境省広域圏庁が設置された。さらに74年の地方制度改革により45のカウンティcountyが設置され,これら広域自治体との協力関係のもとに,広域圏は地域計画,住宅,環境保全等を統合的観点から取り扱っている。

 アメリカは連邦制国家であり州は主権国家である。だが,連邦職能の拡大は連邦政府地方支分局を増加させた。1969年,ニクソン政権は州政府との協調関係のために全土に10の連邦リージョナル・カウンシルを設置し,内政省庁と州,地方政府の計画調整,連邦事務の遂行にあたらせることになった。日本でも第2次大戦後リージョナリズムの追求には根強いものがある。府県制の廃止による地方ないし道州制構想が1950年代から提唱されているが実現をみていない。だが首都圏,近畿圏,中部圏等の圏域設定をともなった開発関係法が多数施行されており,また65年には地方行政連絡会議の設置が法定され,府県行政の調整が図られることになった。
広域行政
執筆者:

国際連合においては,地域的紛争の解決について,地域的特殊事情をふまえた地域的な安全保障の取極やその機構の役割を積極的に認めている(国際連合憲章第8章〈地域的取極〉)。ただしそこでは,一般的安全保障機構としての国際連合の枠を越えないように,それとの有機的な関係に配慮がなされている(たとえば,安全保障理事会の許可がなければ,いかなる強制行動もとることができない)。一般的機構の枠がないと,地域的な取極や機構同士の対立によって,安全保障を危うくするおそれがあるからである。しかし,国際連合憲章は別に〈集団的自衛権〉を規定しているため(51条),地域的取極に集団的自衛権の規定をもりこむことによって,安全保障理事会の統制を免れて行動することが可能となっており,憲章第8章で構想されているリージョナリズム(地域主義)の理念はほとんど生かされていない。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「リージョナリズム」の意味・わかりやすい解説

リージョナリズム
りーじょなりずむ
regionalism

地方主義。この語が最初に使われたのは、1872年のフランスの一詩人の作品であるといわれ、1890年代からフランスで一般に用いられた。その後、各国でも使われるようになったが、各国の特殊事情により、その意味や内容は異なっている。この語の母国ともいうべきフランスでは、パリ中心主義に反対して、伝統あるプロバンス(農村地帯)への郷愁、地方的文化の助成の主張として使われ始めた。ドイツでは、規模の大きいプロイセンを分割し、他の国と均等な形で連邦国家を構成しようとするためのものであった。アメリカでは、TVAのように、数州にまたがる大規模な総合開発などを推進する単位として主張された。イギリスでは、地方自治体の区域再編成という観点から取り上げられ、1965年には経済計画のための広域単位が設けられた。このような相違はあるが、現代の社会経済的諸条件の変化に対応するため、既存の地方行政単位よりも広域な単位が要請されるようになったことから、これが主張されている点では、いずれの国においても似通っている。しかし、実際にはリージョンの範囲の決定が容易でないことや、その単位を地方自治体とするか、国の地方行政区画とするかが大きな問題となっている。

 日本では、1970年代の中ごろ以降における「地域主義」の考え方のように、大都市中心、国家中心の政治・経済・文化に対して、地域の自立的な再建方向や構想にリージョナリズムの訳語をあてる場合もあるが、1940年代以降、主として道州制という形で府県制度を再編成する方向として主張されてきた。第二次世界大戦後では、1957年(昭和32)に地方制度調査会が知事公選制の廃止をねらった「地方」制案を答申、70年に日本商工会議所が経済開発を推進する観点にたって地方自治体型の道州制構想を発表し、その後も繰り返しその実現を主張している。

[高木鉦作]

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百科事典マイペディア 「リージョナリズム」の意味・わかりやすい解説

リージョナリズム

地域主義,地方主義と訳され,本来は国家による中央集権化に反対し,一定地域の文化的独自性,経済的自立,政治的自治を追求する主張や運動を指すが,他方では国際的な地域主義(地域統合,地域協力)の意味で用いられることも多くなっている。前者の例としては,フランスのブルターニュコルシカ,スペインのバスクなど,近年ではイギリスのスコットランド,ウェールズでも地域主義の運動が見られる。このような既存国家の枠組みのなかでの自立性の回復をめざす運動を,フランスでは〈ナシオナリテールnationalitaire〉と呼ぶ。後者の例では,EU(ヨーロッパ連合),NAFTA(北米自由貿易協定),ASEAN(東南アジア諸国連合)などをはじめ,冷戦後にはバルト海地域や中欧などで従来の枠組みを超えた地域協力が始動している。
→関連項目民族自決ヨーロッパ

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知恵蔵 「リージョナリズム」の解説

リージョナリズム

地域主義」のページをご覧ください。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リージョナリズム」の意味・わかりやすい解説

リージョナリズム
regionalism

一般には,地方政府の区域を越える新たな行政区域の創設をいう。世界的に課題となっているが,その内容は必ずしも一定ではない。イギリスの場合は,都市化の進展に伴い実情に合わなくなった自治体の区域の再編を中心とする。アメリカでは,州際問題の解決のために新たなリージョンを設定すること,地方政府間に特別の行政体をつくることを中心としている。日本では道州制案などが論議されている。

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世界大百科事典(旧版)内のリージョナリズムの言及

【アメリカ美術】より

…以後,フォービスム,キュビスム,表現主義等を消化した世代がアメリカ独自の近代美術を形成する(マリン,ウェーバーのほか,S.デービス,シーラーCharles Sheeler(1883‐1965),E.ホッパー,マン・レイら)。しかし第1次大戦の勃発によりヨーロッパからの影響が薄れて,中西部を拠点とする写実主義的なリージョナリズム(地方主義)が台頭した(T.H.ベントン,ウッドGrant Wood(1892‐1941),カリーJohn Steuart Curry(1897‐1946)ら。アメリカン・シーン・ペインティング)。…

【アメリカン・シーン・ペインティング】より

…前者の舞台になったのは主としてニューヨークで,ブルックリン橋や高層建築をモティーフとして,近代文明を謳歌するステラJoseph Stella,シーラーCharles Sheeler,大都市のバイタリティを抽出したデービスがおり,後者には都会の底辺の日常の光景をとらえたマーシュReginald Marsh,孤独と疎外を描いたホッパー,ソーシャル・リアリズムsocial realismの立場を貫いたシャーンがいる。また,中西部の広大な農村風景を描きつづけたベントン,ウッドGrant Wood(1892‐1942),カリーJohn Steuart Curry(1897‐1946)などの提唱したリージョナリズムRegionalism(地方主義)も写実的な系列を代表する。彼らは中西部こそアメリカの心のふるさとだとして,反ヨーロッパ・モダニズムの姿勢をとりつづけた。…

【ベントン】より

…1930年代アメリカのリージョナリズムRegionalism(地方主義)の代表的画家。ミズーリ州ニオーショ生れ。…

※「リージョナリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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