主体性(読み)しゅたいせい(英語表記)Subjektivität ドイツ語

日本大百科全書(ニッポニカ)「主体性」の解説

主体性
しゅたいせい
Subjektivität ドイツ語

主観ないし主体と訳されるSubjektのもつ性格の意味。サブジェクトはもともと「下に置かれたもの」、すなわち性質や働きの担い手を意味していた。その点で、現在用いられている客体や基体と同義であった。その意味が逆転したのは、中世風の他律的なものから解放され、認識や道徳の原理が人間知性のなかに存するとした近世的人間の自主性の自覚から始まったと解せられる。とくにカントは、認識作用において主観が客観を構成するという超越論的主観性を主張した。ここでは主体性よりむしろ主観性という意味が強いが、ヘーゲルが「真なるものは主体である」と絶対的主体性を主張するとき、それは共同存在、すなわち精神の生命的運動の原理として存在論的意味をもってくる。さらにヘーゲルの普遍主義を否定し、状況に束縛されつつ生きる具体的個人を問題にし、キルケゴールが決断によって真の自己を回復する宗教的実存を、あるいはマルクスが社会的実践を行う人間の能動性を主体性とよぶとき、自らの生きている場において、既成の権威や思想に頼らず自覚的に決断し行為するという現代的意味が確立した。日本で主観と主体との差異を明確にしたのは三木清(みききよし)であるといわれている。主観が知識の次元で客観と対立的に用いられるのに対して、主体は行為の立場にあり、それに対立するのはやはり主体にほかならない。戦後、日本では、文学者や哲学者の間で主体性論争が闘わされた。

[海老澤善一]

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デジタル大辞泉「主体性」の解説

しゅたい‐せい【主体性】

自分の意志・判断で行動しようとする態度。「主体性のない人」「主体性をもって仕事に取り組む」

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「主体性」の解説

主体性
しゅたいせい
subjectivity

主体であること,主体的であることの。主体性は現代的概念の一つであり,哲学的に新たな意味でとらえ直されたのは,主観が新カント学派にみられたように認識主観としてその形式的側面が主として問われたのに対して,生の哲学実存主義哲学,弁証法的唯物論などの現代哲学では実践,行為との関係において問題にされたことによる。 W.ディルタイでは主体は主観と区別され,S.キルケゴールでは主体と実践との関係を問うことにより主体的であることが真理であるとされ,M.ハイデガーでは主体性とは実存性のことであり,エッセンティアとしての主観から区別された。 K.マルクスでは客体や直観の形式性を重視した従来の機械的唯物論に対して,実践面における人間活動として主体的であることが主張されている。日本では第2次世界大戦前,西田哲学の系統において主体と主観とが意識的に区別され,また戦後では 1948年前後にいわゆる主体性論争が活発に行われた。

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精選版 日本国語大辞典「主体性」の解説

しゅたい‐せい【主体性】

〘名〙
① 行動する際、自分の意志や判断に基づいていて自覚的であること。また、そういう態度や性格をいう。
※ドン・ファン論(1949)〈花田清輝〉「われわれの主体性は、われわれ自身が、客体の状態にまで追いつめられたとき、はじめて確立する」
② 現代哲学で、存在論的に意識と身体をもつ存在者であるとともに、倫理的、実践的に周囲の情況に働きかけていく個体的な行為者であること。自己の意志で行為しながら、真の自己自身を実現していく態度。実存であること。
※ベルリンにて(1957)〈竹山道雄〉三「人生の実存的不安とそれの中での主体性を、ここほどはっきりと生きている人間はいない」

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世界大百科事典 第2版「主体性」の解説

しゅたいせい【主体性 subjectivity】

主体性ということばは,通常,自主性個性アイデンティティ自己実現自己決定,本来性authenticityなどとほぼ同義に用いられている。これらのことばに共通する含意は,個人あるいは集団が,外的・内的諸条件によって,当然〈あるべき自己〉であることを妨げられている状態を克服して,認識のレベルでも行動のレベルでも,本来的な〈自己になる〉ということである。したがって,このような解放的認識関心に根ざすこのことばが,人間解放運動とのかかわりのなかで用いられてきているのも不思議ではない。

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