既存の地方自治体や州などの境界を越えて広がる、共通の行政課題を処理するために、広域の行政単位を設けて行政を行うこと。日本の場合に即していえば、従来の固定的な市町村や都府県の行政区域を越えて、より広域的に行われるべき行政ということになろう。広域行政への要請は、経済の発展に伴って、経済活動の範囲や人々の社会的活動が既存の行政区域を越えて広がっていくことに対する行政の対応の一つとして生じる。日本の場合には、第二次世界大戦中に、戦時行政の必要に対応するため、府県を廃止して全国をブロック単位に再編する道州制が主張されたことがある。
第二次大戦後になると、知事が公選となった府県の制度改革の方向として、府県の廃止、全国を7~9のブロックに分けての「地方」の設置、その長の国による任命案が提案された(1957年の地方制度調査会の提案)。1960年代になると、地域開発政策を進めるうえで、自治体の財政能力の強化、関係自治体間の利害対立の解消をねらいとして、都市合併の実施、近畿・東海などでの府県合併などが財界筋から提唱された。その後、経済の高度成長がもたらした過密・過疎問題に対処するため自治体を広域的に再編成する動きが現れ、過疎地域では、地方中小都市とその生活圏内の市町村が共同して計画的に公共施設を整備するため広域市町村圏の構想が打ち出され、1969~72年(昭和44~47)の4年間に全国で329の圏域全部(全国市町村の約90%)が指定を受けた。法律的には地方公共団体の組合(地方自治法284条1~3項・285条)および地方開発事業団(同298条~319条)の形態をとっている。外国の例としては、アメリカのTVA、イギリスでの経済計画のための広域単位の新設(1965)、フランスにおけるレジオンの設置(1964)などが有名。広域行政は住民の自治や参加を困難にし、より中央集権的官僚体制に進むおそれもあるので、それらに対する適切な対策が必要である。
[田口富久治]
一般に社会経済の発展は行政の責任領域を複雑かつ多様なものとし,道路交通,都市計画,水資源,エネルギーなど都道府県,市町村の区域を越えた広域的な行政対応を必要とする。日本でも広域的行政機構を地方に創設し,行政の効率化を図ろうとする構想が次々と打ち出されてきた。ただ,広域行政といっても内容は一様ではなく,大きくは現行府県制に改革を加える府県レベルのそれと,市町村レベルのそれに分類できる。いずれの場合にも日本の広域行政論には上記の一般的必要性よりは,戦後地方制度改革の理念と運営実態に対する批判が色濃く,地方自治のあり方をめぐる論争を生んできた。戦後改革によって府県は完全自治体となったが,その区域は明治中期以来変わっていない。戦後復興過程において知事公選制と都道府県の区域は政治,経済上の改革の焦点とされ,1957年には地方制度調査会から都道府県を廃しブロック制の〈地方〉を設け,官選長官を配する地方制構想が出された。このころ,財界,全国市長会,全国町村会からも同様の内容の道州制構想が出された。60年代の経済成長期に入るとこれら構想はしだいに影をひそめ,代わって財政投資の効率化,地域間格差の解消を論拠に大阪,奈良,和歌山1府2県の合併,東海3県の合併などの案があらわれたがいずれも実現しなかった。しかし,国は道路法改正,新河川法の制定による知事権限の吸上げ,地方支分部局や特殊法人による広域的事業,首都圏整備法,近畿圏整備法などによる圏域計画の策定など多様な方法によって,府県制の基本的枠組みを修正することなく集権的な広域行政を展開してきた。一方,市町村レベルでは,府県と同じく経済成長期に北九州5市合併をはじめとする広域合併が行われるとともに,70年度以来〈広域市町村圏振興整備要綱〉に基づき圏域設定と整備計画の策定,一部事務組合を利用した福祉,消防,ごみなど多面的な共同処理が行われている。
→リージョナリズム
執筆者:新藤 宗幸
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(北山俊哉 関西学院大学教授 / 笠京子 明治大学大学院教授 / 2007年)
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