地方の政治は地方住民が選んだ代表者(議員・長など)や地方政治機関を通じて行うべしとする考え方、あるいはそのような政治機構。「地方自治は民主主義の学校である」(ブライス)といわれるように、近代国家成立後、イギリス、アメリカのような民主主義国家では、地方自治尊重の政治原理を確立した。近代国家では、一つの権力、一つの政府、一つの法律に基づいて政治が行われ、その意味で国家の最高意志はあくまで中央に集権されるべきであるという前提にたちつつも、そのような最高意志は地方の利益を基礎に形成されるべきであるという考えが地方分権の思想である。
第二次世界大戦前の日本では、憲法上、地方自治に関する明文の規定はなく、中央政府の任命する知事が中央の監督・指示に従って地方政治を指導したので、中央集権的政治とよばれた。戦後は、日本国憲法において「地方自治」という1章をとくに設け、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」(92条)、「(1)地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。(2)地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」(93条)と規定している。これにより、地方分権が制度的に保障され、住民投票などを通じての原子力発電所設置反対、沖縄基地反対運動にみられるような民主政治を求める住民運動も活発化した。
しかし、「3割自治」といわれるように、地方公共団体が徴収できる財源は3、4割にすぎず、その他の財源は国に依存せざるをえない。また地方公共団体の行政の7割近くが国からの委任事務であるという地方自治の現状では、地方分権による健全な地方政治の実現というにはほど遠く、1990年代末ごろから「地方分権改革」が叫ばれるようになった。すなわち1999年(平成11)に地方分権一括法が制定され、とくに小泉政権時代に「三位一体(さんみいったい)政策」という形での地方への権限と財源の移譲による「自治型社会の実現」を目ざす方向が進められた。そして2006年には地方分権改革推進法が成立し、2007年には地方分権改革推進委員会が設けられ、2009年11月までに4回の勧告が内閣総理大臣に提出された。2009年9月に成立した鳩山由紀夫(はとやまゆきお)民主党内閣は、自治体と地域住民が「まちづくり」の主体になることを目ざす「地域主権改革」を掲げ、地域主権推進一括法案の制定を進めた。こうした「地方分権」から「地方主権」への転換という背景には、全国知事会などの影響力も考えられる。
[田中 浩]
中央集権に対立する語で,地方政府(地方自治体)に責任と権限が分散している状況をいう。
現代国家は,地方政府に何がしかの自治権を付与している。だが,いずれの国家でも,20世紀に入ると中央政府への権力集中が進行した。かつて,地方政府が中央(連邦)政府の公権力の独占に対抗機能をもっていたアメリカやイギリスでも,地方政府の意思決定の条件が,中央政府によって支配されていることが指摘される。日本は,明治以来,高度に集権的な国家として発展してきており,地方自治は中央政府支配機構の中に位置づけられてきた。日本国憲法は地方自治を保障しているが,高度経済成長期に一段と集権化が進んだ。中央政府への権力集中は,デモクラシーの形骸化と表裏の関係にある。つまり,市民の民主的権利の核心である自由権や抵抗権が希薄かつ行使不可能となり,逆に権力の操作が物資ばかりか精神にまで及ぶことになる。
1970年代に先進国で参加デモクラシーparticipatory democracyの要求が市民の間で顕著となったが,これは巨大な官僚機構を備えた中央政府への権力集中を上記の観点から批判し,市民が統御可能な政府構造を創出しようとするものである。現代における地方分権decentralizationは,素朴な地方自治への回帰ではなく,参加デモクラシーに基づき政治権力を分節化することを意味している。それはたんなる行政実施権限の分権化devolutionとも意味を異にする。日本でも,70年代における自治体改革は,市民の参加のもとに地方自治体を市民にもっとも身近な政府として位置づけるものであり,地方分権に先鞭を付けるものであった。
その後1980年代末になると,日本では地方分権を求める声がさらに高まった。その理由として,近代化の完全な達成としてマクロ的には〈経済大国〉となったものの,地域間の格差が拡大し,地域の実情に応じた発展が追求されるようになったことが挙げられよう。1995年5月には〈地方分権推進法〉が制定された。同法に基づいて設置された地方分権推進委員会は,96年12月から97年10月までに4次にわたる勧告を内閣に提出し,機関委任事務の廃止による行政権限の自治体への移譲を求めた(〈委任事務〉の項参照)。内閣はこの勧告に基づき地方分権推進計画を策定することになっている。
→地方自治 →地方公共団体 →中央集権
執筆者:新藤 宗幸
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(山口二郎 北海道大学教授 / 2007年)
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