デジタル大辞泉
「異邦人」の意味・読み・例文・類語
いほうじん【異邦人】[書名]
《原題、〈フランス〉L'Étranger》カミュの小説。1942年発表。主人公ムルソーの行為や意識・感情を通して不条理の思想を描く。
辻亮一の短編小説。昭和25年(1950)発表。同年、第23回芥川賞受賞。
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いほう‐じんイハウ‥【異邦人】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 外国人。異国人。また、別の地域・社会からやって来た人。見知らぬ人。〔慶応再版英和対訳辞書(1867)〕〔論語‐季氏〕
- ② ユダヤ人が神の選民であるという誇りから、非ユダヤ教徒、特にキリスト教徒をさして呼んだことば。
- [ 2 ] ( 原題 [フランス語] L'Étranger ) 小説。カミュ作。一九四二年発表。母の死に涙せず、葬儀の翌日情婦をつくり、「太陽のせい」で殺人を犯す主人公ムルソーを通して、不条理の思想を展開した。
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異邦人
いほうじん
L'Étranger
フランスの作家アルベール・カミュの中編小説。1939年ごろから執筆され、42年に出版。アルジェの平凡なサラリーマン、ムルソーが、養老院で死んだ母の葬式からしばらくして、友人の女性関係のいざこざに巻き込まれ、殺意がないのに「太陽のせいで」偶然アラブ人を殺してしまう第1部。ムルソーが実際の殺人罪よりも、「母親の葬式のときに泣かなかった」ことに代表される反社会的なモラルのために裁判で死刑判決を受けるが、何にも頼らず独力で死の恐怖を乗り越え、ついに「世界のやさしい無関心に心を開く」第2部。独白とも日記体ともつかぬ独特の一人称の語り、徹底して感情を排除した「中性の文体」の新鮮さもあって、若き作者の出世作となったばかりでなく、20世紀フランス小説の代表作とみなされている。わが国でも、51年(昭和26)、この作品をめぐって広津和郎(ひろつかずお)、中村光夫の間に『異邦人』論争が交わされるなど、話題になった。
[西永良成]
『窪田啓作訳『異邦人』(新潮文庫)』
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異邦人
いほうじん
L'Étranger
フランスの小説家,劇作家 A.カミュの小説。 1942年刊。アルジェ市に住む平凡な勤め人ムルソーは母親の葬儀の数日後,海辺で喧嘩に巻込まれ,「太陽のせい」でアラビア人を殺す。この行為に対し,法廷は一方的な道徳的判断を下し,彼は一切の抗弁を拒んだまま死刑を宣告される。親子の感情や結婚,職業への信義といった事柄から断絶された「異邦人」であるムルソーは,死刑の執行を待つ間,司祭の説く宗教的平安を拒否して,自己の幸福を感じる。簡潔でかわいた文体で書かれたこの短い物語は,エッセー『シーシュポスの神話』で分析した不条理の概念を,小説の分野で展開したものといえる。
異邦人
いほうじん
gentiles
ユダヤ人の立場からユダヤ人以外の民族をさす言葉。ヘブライ語で gôyîm。ユダヤ人は神の選民としての自覚をもち,唯一神 (ヤハウェ) 信仰と厳格な律法を保持し,そのことによって異邦人を排除するにいたった。この排他主義はキリスト教内にも持込まれたが,使徒パウロは「異邦人の使徒」たる自覚をもって伝道し,キリスト教が世界宗教となる端緒をつくった。
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異邦人【いほうじん】
カミュの小説。《L'etranger》。1942年作。主人公ムルソーは無意味な殺人を犯して動機は〈太陽のせい〉と答える。母の死の翌日海水浴に行き,女と関係を結ぶ彼にとって重要なのは現在と具体的なものだけである。世の中の一切の演技を拒否し,人間とは無意味な存在であるという命題を身をもって証明しようとしたムルソーは,死刑の判決を受けつつも幸福だと確信する。不条理な人間の条件を象徴的手法で描き出したカミュの代表作。
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異邦人〔映画〕
1967年製作のイタリア・フランス・アルジェリア合作映画。原題《Lo Straniero》。アルベール・カミュの同名小説の映画化。監督:ルキノ・ビスコンティ、出演:マルチェロ・マストロヤンニ、アンナ・カリーナ、ベルナール・ブリエほか。
異邦人〔曲名〕
日本のポピュラー音楽。歌はシンガーソングライター、久保田早紀。1979年発売。三洋電機のカラーテレビのCMに起用。国内外の多くのアーティストによりカバーされている。
異邦人〔小説:コーンウェル〕
米国の作家パトリシア・コーンウェルのミステリー(2007)。原題《Book of the Dead》。「検屍官ケイ」シリーズ第15作。
異邦人〔小説:西澤保彦〕
西澤保彦の長編ミステリー。2001年刊行。23年前の、父が殺される数日前にタイムスリップした主人公の奮闘を描くSF新本格ミステリー。
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世界大百科事典(旧版)内の異邦人の言及
【外国人】より
…自国以外の国籍を有する者および無国籍者をふつう指す。外人,異国人,異邦人,異人などともいう。もともと畿内から見た外の人,地方の人を表す〈外国人(とつくにびと)〉が今日の用法に転用された。…
【カミュ】より
…1938年,アルジェの新聞の記者となり,植民地行政を批判する多数の記事を書くが,ほどなく第2次世界大戦が勃発。こうした時期に書き進められたのが,一躍作家としてのカミュの地位を決定的にした小説《異邦人L’étranger》(1942),哲学的エッセー《シジフォスの神話Le mythe de Sisyphe》(1942)である。《異邦人》は理由なき殺人を犯して死刑の判決を受ける男を主人公に,〈[不条理]〉の思想を表明した作品であり,《シジフォスの神話》はそれを哲学的に解明しようとしたものである。…
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