日本大百科全書(ニッポニカ) 「贋金つかい」の意味・わかりやすい解説
贋金つかい
にせがねつかい
Les Faux-Monnayeurs
フランスの作家アンドレ・ジッドの長編小説。1926年発表。ジッドはかねがね、小説から小説に属さない要素を除去した純粋小説を書きたいと念願していた。つまり、真実らしくみせるために現実の世界から取材したのに、かえって真実をゆがめてしまう夾雑物(きょうざつぶつ)を排除しようとした。そうした意図のもとに書かれたのがこの作品である。その意図は十分に実現されなかったが、これまで彼の関心事であったあらゆる問題、たとえば恋愛、結婚、家庭、教育、宗教、芸術など幾多の問題が提出され、それらが互いに交錯しながら混沌(こんとん)とした世界を展開している。題名は、贋金つかいに操られる不良少年たちのエピソードからきているが、作中人物のほとんどが贋金的人物である。「悪貨は良貨を駆逐する」というグレシャムの法則どおり、悪人がはびこって善人を苦しめ滅ぼしているなかに、ベルナールという少年だけが盗みなど多くの冒険をしながらも強く生きていく。彼の信条はどんなショックにも純金の響きを出すことであった。こうした誠実の追求はジッドの主要なテーマであった。この作品は今日問題になっているヌーボー・ロマン(アンチ・ロマン)の先駆的作品といわれている。
[新庄嘉章]
『『贋金つかい』(山内義雄訳・新潮文庫/川口篤訳・角川文庫)』