日本大百科全書(ニッポニカ) 「レビット」の意味・わかりやすい解説
レビット
れびっと
Michael Levitt
(1947― )
アメリカの化学者。南アフリカ共和国のプレトリア生まれ。イスラエル、イギリスの国籍ももつ。1963年プレトリア大学応用数学科に入学したが、翌1964年ロンドン大学キングス・カレッジに入り直し、1967年に卒業。1968年からケンブリッジ大学と、隣接するイギリス医学研究会議(MRC)の分子生物学研究所で学び、1971年に生物物理学で博士号を取得した。1972年からイスラエルのワイツマン科学研究所で博士研究員として働き、1974年から1979年にMRC分子生物学研究所で計算生物学研究を深め、1979年にふたたびワイツマン科学研究所に戻り準教授、1983年に教授に就任。1987年からアメリカのスタンフォード大学教授。
ケンブリッジ大学と、MRC分子生物学研究所でDNA、RNAやタンパク質など生体分子の構造をシミュレーションするコンピュータ・プログラムの開発の基礎を学んだレビットは、イスラエルのワイツマン研究所でウォーシェルと出会う。そこで、コンピュータ・モデルを駆使して、それまでむずかしかった酵素など動的生体分子の挙動を明らかにする研究を始めた。それが結実したのは、1970年から2年間、ハーバード大学のカープラスのもとで、博士研究員としてコンピュータ解析に取り組み、ワイツマン科学研究所に戻ったウォーシェルと再会してからである。
二人は、多糖類を分解する酵素「リゾチーム」の反応をシミュレーションするために、古典的な力学と量子物理学を同時に扱えるシステム研究を始めた。1976年、化学反応の活性中心(他の物質、分子と結合して変化しやすい活性部位)を量子力学的手法(QM法)で計算し、活性中心以外の部分を古典力学的な手法(MM法)でとらえるプログラムを開発。世界で初めて酵素反応を再現できるコンピュータ・モデルを構築することに成功した。
この画期的な手法を駆使することで、他の酵素やタンパク質など生体内の巨大な高分子から低分子までの動きを、分子の大きさに関係なく、しかも大きな負荷を与えることなく再現できるようになった。この手法はマルチスケール法とよばれ、今日の医薬品開発など、薬がどのように生体に作用するかの解析に役だてられている。
1983年ヨーロッパ分子生物学機構(EMBO:European Molecular Biology Organization)のメンバー、2001年イギリス王立協会フェロー(特別研究員)、2002年アメリカ科学アカデミー会員に選出された。2013年に、「複雑な化学反応をコンピュータでシミュレーションするマルチスケールモデルの開発」で、カープラス、ウォーシェルとともにノーベル化学賞を受賞した。
[玉村 治 2021年11月17日]