改訂新版 世界大百科事典 「ロンドン金融市場」の意味・わかりやすい解説
ロンドン金融市場 (ロンドンきんゆうしじょう)
London Money Market
ロンドンにある世界的金融市場。いわゆるシティ,とくにロンバード街一帯に密集した市中銀行や手形割引業者など各種金融業者が,イングランド銀行を頂点に,相互に密接な連携を保って展開する金融の営み--〈商品としての資本〉の売買,すなわち利子生み資本の貸付けという関係--がロンドン金融市場を構成している。それは世界で最も理想的に組織された金融市場といわれ,世界経済に大きな影響を与えるとともに,各国の金融市場のモデルとされてきた。
ロンドン金融市場は短期市場(貨幣市場money market)と長期市場(資本市場capital market)とから成るが,前者が中心で,よく整備されていることが特徴的である。貨幣市場の主軸は手形割引市場であり,その担い手はまずディスカウント・ハウス(割引商会)である。彼らは19世紀初頭のビル・ブローカー(手形仲買人)に起源をもち,初めは単なる手形のブローカーであったが,1830年代ころから自己の勘定で内外手形を買い入れるディーラーに成長し,割引商会と呼ばれるようになった。オーバレンド・ガーニー商会などが有名であるが,現在ではロンドン割引市場協会London Discount Market Association加盟の少数有力会社がシンジケートを形成している。彼らは1930年代から,大蔵省証券(TB)や短期政府債の取引も手がけている。割引商会はイングランド銀行に割引勘定を開設しているが,日常の資金源は市中預金銀行その他(内外銀行,保険会社,引受商会など)から借り入れる短資,すなわち1日ないし1週間の期限をもち,それ以後ならいつでも返還を請求しうるコール・マネーcall moneyである。コール市場はロンドン貨幣市場の調節弁の機能をもち,その金利(コール・レート)は市況のバロメーターとなっている。
貨幣市場はこうして割引市場とコール市場という二つの公開市場をもっているが,両者を安全・円滑に機能させる〈最後の貸手〉が中央発券銀行たるイングランド銀行である。コール・ローンは市中銀行にとって必要に応じて回収可能な,預金に対する第二線(現金に次ぐ)支払準備をなしているが,銀行がいっせいにこのコールを引き上げる金融逼迫(ひつぱく)期には,割引商会はイングランド銀行に手形の再割引(または手形担保貸付け)を求めてコールの返済に充当できたのである。だからロンドン金融市場はなによりも手形割引と預金業務を中核とする商業銀行の体系であるとともに,単一準備・単一発券のピラミッド組織を特徴としている。なお,ロンドン金融市場の各種利子率はイングランド銀行の公定歩合(bank rate)を基準として連動する一つの体系をなしており,第1次大戦後の時点では,銀行の預金利子率,コール利率,および割引商会の割引金利は公定歩合よりそれぞれ2%,1%,および3/4%だけ低い水準に定められていた(ただし1981年以降は,金利の自由競争を促進する目的で公定歩合は公表されていない)。
なお,こうした古典的金融制度は,イギリスの通貨発行を保有金量で厳格に拘束する金本位制下の中央銀行政策(公定歩合政策や公開市場政策)に適合的な機能舞台を提供したが,金本位停止後信用統制が量的統制から質的統制へ傾斜するのにともない,その意義は減退した。しかし資本移動を円滑にし,銀行準備金を節約させるなど,重要な役割は失われていない。
他方,資本市場の面では,ロンドン金融市場は有価証券の流通市場たる証券市場と新規証券の発行市場という二つの機能を果たしており,それぞれロンドン株式取引所の会員たる証券取引業者(従来はジョッバーとブローカーに限定されていたが,1986年のビッグバン以後この制度は廃止)と,発行業者協会Issuing Houses Association加盟の証券引受業者(マーチャント・バンカーなど)が主役を演じている。なお,ロンドンは第1次大戦まで国際金融の圧倒的な中心地であったが,ニューヨーク金融市場の台頭で後退した現在でも,たとえばユーロダラーをはじめとするユーロカレンシー市場の中心として重要な地位を占めつづけている。
→国際金融市場
執筆者:関口 尚志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報