ロンド形式(読み)ロンドけいしき(英語表記)rondo form

改訂新版 世界大百科事典 「ロンド形式」の意味・わかりやすい解説

ロンド形式 (ロンドけいしき)
rondo form

音楽形式の一つ。楽式論ではソナタ形式に次いで規模の大きいものとされている。古典派以後のソナタ交響曲協奏曲など多楽章の楽曲においておもに終楽章に用いられた形式。単にロンドということもあり,この場合,ジャンル名としてこの形式による独立楽曲を指すこともある。ロンド形式の特徴は,ロンド(回旋)という名が示すとおり,主題(A)がエピソード(クープレともいう)を挟んで何度も回帰するところにある。ABACA(小ロンド形式)あるいはABACAB′A(大ロンド形式)が典型で,複数の異なるエピソード(B,C)をもつ。最後にコーダが付くこともある。総奏部と独奏部が交替するバロックリトルネッロ形式とよく似ているが,ロンド主題が原則として常に主調で回帰するところにおもな違いがある。またロンド主題は繰り返されるときに部分的に省略されたり発展的に延長されることもある。エピソードは関係調で現れるが,主題と対照的な楽想であることが多く,とくにCの部分は概して独立性が強い。もう一つの特徴は,主題がふつう2拍子系の軽快な舞曲風の性格であること,大多数が長調で書かれていることである。実際にはロンド形式に合致しないロンドも多いので,特定の形式構成よりも主題のそうした性格にこの形式もしくはジャンルの本質を認める考え方もある。ソナタ形式の主題法と調設計,展開操作などの原理と融合したものをソナタ・ロンド形式あるいはロンド・ソナタ形式という。これは大ロンド形式の中央のCが展開部,その前後がそれぞれ提示部,再現部に相当するものである。ロンド形式が緩徐楽章にも用いられるのに対し,これはもっぱら終楽章だけに認められる。ロンド形式の起源は17~18世紀フランスのロンドーにあり,中世フランスのロンドーとは直接の関係はない。多数のエピソード部をもつロンドーは18世紀にヨーロッパ中で流行するが,やがて1770年ころから新しいタイプの,より簡潔でしかも旋律的魅力にあふれたロンドが登場する。エマヌエルバッハ,クリスティアン・バッハ,ハイドンモーツァルトそして初期のベートーベンをはじめ,用例はきわめて多い。既に70年代前半にはモーツァルトの作品にソナタ・ロンドが現れるが,これをとくに使用したのは後期のハイドンとベートーベンである。ロンド形式は19世紀でも,シューベルトメンデルスゾーンシューマンブラームスチャイコフスキー,グリーグら大作曲家の作品に多数みられる。世紀末からはR.シュトラウスやマーラーのように,伝統的な枠組みにとらわれない自由な応用も認められる。20世紀ではとくに両大戦間を中心に,新古典主義や新ウィーン楽派の作曲家が用いた。なお独立した楽曲としてのロンドは,エマヌエル・バッハ,モーツァルト,ベートーベン,シューベルト,メンデルスゾーン,ショパン,リストらが書いている。19世紀では名技的なピアノ曲としても流行した。
楽式
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロンド形式」の意味・わかりやすい解説

ロンド形式
ろんどけいしき
rondo form 英語
Rondoform ドイツ語

音楽用語。18世紀後半に確立された器楽曲の形式で、ソナタ、交響曲、協奏曲、室内楽曲など、いわゆるソナタ多楽章構造をとる器楽曲の終楽章に用いられることが多い。整備された形式的規範としては、中心的楽想であり、何度も回帰するロンド主題(これはつねに主調で出現することを原則とする)と、それが数回繰り返される間に挿入されるいくつかのエピソードからなる。エピソードは主調から離れるのを原則とするが、やがてソナタ形式の調構造の影響を受けて定式ができあがる。もっともわかりやすい形を図式的に示すと、A(主調)―B(属調)―A(主調)―C(平行調、下属調など)―A(主調)―B′(主調)―A(主調)ということになる。しかし、これをロンド形式の基本型と考えてしまうのは誤解で、こういった単純明快な形式を示すもの以外に、この形式の範疇(はんちゅう)に組み入れるべき実例はきわめて多様であり、また整然とくぎることのできないものも多い。

[大崎滋生]

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百科事典マイペディア 「ロンド形式」の意味・わかりやすい解説

ロンド形式【ロンドけいしき】

古典派音楽ソナタ交響曲の終楽章などに用いられる楽式。ロンドから発展したもので,繰り返される主題と,その間ごとに挿入されるエピソードからなる。これがまとまってABACABAの構造となり,やがてソナタ形式に発展(Cが展開部に相当)した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ロンド形式」の意味・わかりやすい解説

ロンド形式
ロンドけいしき
rondo

音楽用語。循環部分をもつ音楽形式の一つ。主題部 (ルフラン) Aが,挿入部 (クプレ) B,C…をはさんで反復するこの形式は,17世紀フランスのクラブサン楽派による器楽曲形式の一つロンドー rondeauに始り,18世紀になると独立したロンド形式の曲のほか独奏用ソナタ,交響曲,協奏曲の最終楽章に用いられるようになった。冒頭部分が次々に異なった部分をはさんで反復される ABACAD……Aの形から,挿入部の数を一定にした ABACAまたは ABACABAの形式が基本形となり,さらにベートーベンの『ピアノ・ソナタ第8番』 (悲愴) の終楽章のように,ソナタ楽章の提示,展開,再現部に相当する3つの部分をもつロンドで,ロンド・ソナタ形式と呼ばれるものなども生み出された。

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世界大百科事典(旧版)内のロンド形式の言及

【楽式】より

…これは舞曲などに多い。(2)ロンド形式 主題(A)がエピソード(B,C。クープレともいう)をはさんでたびたび回帰する形式。…

※「ロンド形式」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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