ウィーン楽派(読み)ウィーンがくは(英語表記)Wiener Schule

精選版 日本国語大辞典 「ウィーン楽派」の意味・読み・例文・類語

ウィーン‐がくは【ウィーン楽派】

  1. 〘 名詞 〙 ウィーン中心に作曲活動を行なった音楽家総称狭義には、一八~一九世紀のハイドンモーツァルトベートーベン古典派をさし、広義には一九世紀後半のブルックナーマーラーシェーンベルクらをも含める。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウィーン楽派」の意味・わかりやすい解説

ウィーン楽派
うぃーんがくは
Wiener Schule

広くはオーストリアのウィーンを創作活動の中心地としたすべての作曲家たちをさすが、一般には次の三つの流派に限って用いられる。

(1)ウィーン前古典派 バロックから古典派への過渡期にあたる18世紀中期に活躍した作曲家たちで、古典派様式の基礎を育成した。ホモフォニックな書法の定着とともに、古典派時代を支配するソナタ形式に基づく交響曲弦楽四重奏曲、古典派ソナタ、協奏曲など、新しいジャンルの開発は、ウィーンに限らず、ベルリンマンハイムパリをはじめ広くヨーロッパ各地で同時に行われていた。しかし、ガスマンFlorian Leopold Gaßmann(1729―74)、モンMatthias Georg Monn(1717―50)、ワーゲンザイルGeorg Christoph Wagenseil(1715―77)らを代表作曲家とするウィーン前古典派の存在は、古典派の確立者ハイドンと直結している点で、ひときわ注目される。

(2)ウィーン古典派 18世紀後半から19世紀初頭にかけて、前古典派によって創始された形式と様式を発展させ、古典とよぶにふさわしい至高な響きの世界を生み出した三大巨匠、ハイドン、モーツァルト、ベートーベンに対する名称。さらに、ベートーベンの後期と創作時代をともにしたシューベルトを加える場合もある。古典派の名称が示すように、三大巨匠の音楽はギリシアローマの古典美術と比較されるところから、構成美が前面に出る器楽が一般に強調されがちだが、彼らの創作においては声楽と器楽が平均しており、教会音楽、オペラ、歌曲など、手がけたジャンルは広範にわたる。古典派は前古典派の様式に立脚しているとはいえ、三大巨匠はそれぞれバロックの手法を積極的に導入している。その意味では、バロックと前古典派を総合したところに、古典派独自の音楽様式が誕生しえたともいえよう。

(3)新ウィーン楽派あるいはウィーン無調派 シェーンベルクとその弟子ウェーベルン、ベルクら20世紀初頭に活動した無調主義、十二音主義の作曲家グループをさす。

[中野博詞]

『音楽之友社編・刊『作曲家別名曲解説ライブラリー16 新ウィーン楽派』(1994)』『J・A・スミス著、山本直広訳『新ウィーン楽派の人々――シェーンベルク、ヴェーベルン、ベルク』(1995・音楽之友社)』『フランチェスコ・サルヴィ著、畑舜一郎訳『モーツァルトと古典派音楽』(1997・ヤマハミュージックメディア)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ウィーン楽派」の意味・わかりやすい解説

ウィーン楽派 (ウィーンがくは)
Wiener Schule[ドイツ]

ウィーンで活躍した作曲家の総称。(1)狭義にはおよそ1730-80年の前古典派の時代を指すが,盛期古典派(ウィーン古典派とも呼び,下限は1830年ころ)を含める場合もある。(2)1903-11年の〈新ウィーン楽派〉を指す。

 〈ウィーン楽派〉という呼称はすでに1780年代中ごろの文献に認められるが,音楽史上の様式概念として確立されたのは20世紀初頭のオーストリア音楽学者によってである。マンハイム楽派やベルリン楽派などと並んで,ドイツ圏の前古典派を形成する重要な一派である。その活動はウィーンの宮廷と教会を中心として,伝統的様式の宗教音楽から歌劇,種々の新展開を示す器楽(シンフォニア,協奏曲,室内楽,鍵盤音楽など)に至るまで多岐にわたっている。とりわけ多楽章器楽において培われた楽章構成法と各楽章の作法(ソナタ形式など)の整備,諸々の様式的特徴(ホモフォニックな書法,民謡風・舞曲風の旋律法,主題相互の性格分け,展開的労作,強弱法の新しい処理法など)は重要な成果であるが,これらは,かなり他の楽派とも共通の寄与である。むしろウィーン楽派はバロックと古典派の間にあって,同時代のイタリアとフランス(ロココ様式),ドイツ(多感様式)の諸様式を,この都市に特有の気質をもって生き生きと媒介し,古典派に受け渡した点で意義がある。作曲家としては,クラビア作品によってモーツァルトに影響を与えたワーゲンザイルG.C.Wagenseil(1715-77)とシンフォニア史上重要なモンM.G.Monn(1717-50)が有名である。前古典派の諸成果は,ウィーン古典派の大家たち,ハイドン,モーツァルト,ベートーベン(さらにはシューベルト)らによって総合され高度に発展させられることになる。

 一方,20世紀のウィーン楽派は〈第2ウィーン楽派〉あるいは〈ウィーン無調楽派〉とも呼ばれる。これはシェーンベルクを中心に,彼に師事したベルク,ウェーベルンらによって構成される。表現主義的な語法と明確な理論的主張を特徴とするが,とりわけ無調音楽の書法(1907ころ以降)と音列技法および十二音技法(1920ころ以降)の理論は,後の西洋音楽に大きな影響を与えた。
オーストリア音楽 →古典派音楽
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウィーン楽派」の意味・わかりやすい解説

ウィーン楽派
ウィーンがくは
Vienna school

18世紀後半から 19世紀前半にわたり,ウィーンを中心に創作活動を行なったハイドン,モーツァルト,ベートーベン,シューベルトらドイツ古典音楽を大成した作曲家たちの総称。広義には,19世紀後半のブルックナー,マーラー,H.ウォルフから,20世紀のシェーンベルク,ベルク,A.ウェーベルンまで,ウィーンで活躍した音楽家をすべて含む。

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世界大百科事典(旧版)内のウィーン楽派の言及

【古典派音楽】より

…また若い世代であるシューベルトはロマン派の作曲家に数えられることが多いが,音楽的な実質は古典的であり,ここに含めることができる。広義の古典派音楽には,ウィーン古典派に見られる様式的完成を準備する歴史的位置にあったエマヌエル・バッハ,J.A.ベンダらの北ドイツ楽派,シュターミツらのマンハイム楽派,ワーゲンザイル,M.G.モンらのウィーン楽派,グルックのオペラなど,いわゆる前古典派の諸音楽,およびベートーベンの影響を受けた19世紀のロマン派音楽の一部をも含めて古典派音楽と考えることが多い。音楽における古典主義も広い意味ではギリシア・ローマの文学・美術の特質と原理を理想とするものではあるが,音と時間の芸術である音楽では,古典主義の表れ方も文学や絵画とは異なる。…

※「ウィーン楽派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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