シューマン(読み)しゅーまん(英語表記)Robert Schuman

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シューマン」の意味・わかりやすい解説

シューマン(Robert Schuman、政治家)
しゅーまん
Robert Schuman
(1886―1963)

フランスの政治家。第二次世界大戦後のヨーロッパ統合の立役者。独仏国境の小国ルクセンブルクに生まれる。ボン、ミュンヘンベルリンストラスブール各大学で法学を学んだ。第一次世界大戦終了までドイツ国民であった彼は、ロレーヌ地方のフランス帰属により1919年から1940年までフランスの下院議員を務め、第二次世界大戦では当初ドイツ軍に捕らえられたが脱走しフランスに逃れた。戦後は人民共和派(MRP)幹部として、1946年ビドー内閣の蔵相、1947~1948年首相を務めた。彼の最大の業績は、1948~1953年の5年間、数次の内閣の外相を歴任してヨーロッパ統合の口火を切った点にあり、1950年5月シューマン・プランとして知られるヨーロッパ石炭鉄鋼共同体創設を提唱し、1952年西欧6か国の間で発足させた。1952年には西ドイツ再軍備を認めたヨーロッパ防衛共同体条約を成立させるが、フランス議会が批准を拒否したため流産に終わった。1958年にはストラスブールのヨーロッパ議会の議長に選ばれ、ヨーロッパ統合の機構づくりに尽力し、1962年政界を引退した。数奇な前半生が彼を独仏和解の使徒たらしめた。ベルギーブリュッセルヨーロッパ連合(EU)本部前の広場は、彼を記念してシューマン広場と名づけられている。

[平瀬徹也]

『R・シューマン著、上原和夫・杉辺利英訳『ヨーロッパ復興』(1964・朝日新聞社)』


シューマン(Victor Schumann)
しゅーまん
Victor Schumann
(1841―1913)

ドイツの物理学者ケムニッツ工業学校に学び、同地の機械工場の技師となった。1872年ごろから趣味で始めた写真に熱中し、当時まだ揺籃(ようらん)期にあった写真技術の研究に進んだ。1893年蛍光真空分光器を考案して初めて遠紫外線をとらえ、さらに特殊乾板「シューマン板」を開発してその研究を行い、分光学、原子物理学の開拓者の一人となった。1894年ハレ大学名誉学士、1910年ザクセン王立科学アカデミー会員となった。

[高橋智子]


シューマン(Clara Schumann)
しゅーまん
Clara Schumann
(1819―1896)

ドイツのピアノ奏者、作曲家。著名なピアノ教師フリードリヒ・ウィークの長女で、ローベルト・シューマンの妻。ライプツィヒ生まれ。天才少女としてリストから激賞される腕前の持ち主であったが、1840年父の反対を押し切ってローベルトと結婚し、結婚後は一時活動を控えた。シューマンやショパンの解釈に優れたものをみせ、彼らの作品の普及に貢献したほか、シューマン没(1856)後は、ブラームスの作品紹介に尽力した。とくにシューマン、ブラームスの演奏解釈は、今日まで一つの規範となっている。ピアノ独奏曲など多くの作品があるが、シューマンの『〈愛の春〉からの12の詩』(1841)の第2、第4、第11曲は彼女の手になる。またシューマンの書簡編集(1885)とともに、作品全集の編集にも加わっている。ローベルトとの間に3男4女をもうけたが、いずれも先だたれ、晩年はフランクフルト音楽学校で教鞭(きょうべん)をとり、同地に没した。

[岩井宏之]

『原田光子著『クララ・シューマン――真実なる女性』(1976・ダヴィッド社)』


シューマン(William Howard Schuman)
しゅーまん
William Howard Schuman
(1910―1992)

アメリカの作曲家。コロンビア大学卒業。作曲をR・ハリスに師事。1935~45年サラ・ローレンス・カレッジの音楽教師。45~62年ジュリアード音楽院長。61~69年ニューヨークリンカーンセンター所長。大規模な管弦楽曲の作曲を得意とし、その作品には師ハリスとジャズリズムの影響がみられる。主要作品に『アメリカ祝典序曲』(1939)、交響曲第3~第9番(1941~68)などがある。

[寺田由美子]


シューマン(Elisabeth Schumann)
しゅーまん
Elisabeth Schumann
(1885―1952)

ドイツ、のちにアメリカのソプラノ歌手。メルゼブルク生まれ。生年には異説が多い。ベルリンなどで学び、1909年ハンブルクでデビュー。19年R・シュトラウスの招きでウィーン国立歌劇場の一員となり、モーツァルトなどのオペラで活躍、各地の歌劇場、音楽祭でも歌った。明澄な声、叙情的な表現とことばの明晰(めいせき)さの調和、優雅さをあわせもち、シューベルト、シューマンなどの歌曲の解釈でも高く評価された。38年渡米し、44年市民権を獲得。第二次世界大戦後はおもに教育活動に力を注いだ。

[美山良夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シューマン」の意味・わかりやすい解説

シューマン
Schuman, Robert

[生]1886.6.29. ルクセンブルク
[没]1963.9.4. メッツ近郊
フランスの政治家。ボン,ミュンヘン,ベルリン,ストラスブールの各大学で学び法学博士号を取得。弁護士から政界に入り,1919年下院議員。 40年アルザス=ロレーヌ難民問題担当国務次官。第2次世界大戦中,ドイツ軍のフランス占領後捕えられたが 42年脱走,44年までレジスタンス運動に参加。 46年蔵相,47~48年首相,48~53年外相,55~56年法相を歴任。外相として,50年ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体 ECSC (シューマン・プラン ) を提唱,同共同体条約は 51年西ヨーロッパ6ヵ国によって調印され,58年のヨーロッパ経済共同体 EEC設立のさきがけとなった。しかし R.プレバン首相とともに 50年に提唱したヨーロッパ防衛共同体 EDCは,その創設条約が署名された (1952.5.27.) にもかかわらず,54年下院で最終的に批准されず,実現しなかった。 58~60年ヨーロッパ議会 Council of Europeの議長をつとめ,「ヨーロッパ統合」の父といわれた。 62年政界を引退。

シューマン
Schumann, Robert Alexander

[生]1810.6.8. ザクセン,ツウィッカウ
[没]1856.7.29. ボン近郊エンデニヒ
ドイツ・ロマン派の代表的作曲家の一人。法律や哲学を学び,ジャン・パウルなどの文学作品に傾倒したが,20歳のとき音楽に専心することを決意。しかし指を痛めたためピアニストを断念し,作曲と評論活動に入った。 1834年『新音楽時報』を創刊し,その論評により多くの若い作曲家を世に紹介した。 1840年クララ (→シューマン ) との結婚を機に,ピアノ以外の作曲に進み,『詩人の恋』など多数の歌曲,四つの交響曲,室内楽を手がけた。しかし,若い頃からその兆候をみせていた精神錯乱が,1850年頃からいよいよ激しくなり,1854年に精神病院に入ったまま,ついに回復することなく,1856年 46歳の若さで亡くなった。音楽と文学の新しい結びつきから生まれた標題付きピアノ作品 (→標題音楽 ) や,詩に対する深い解釈を示す美しい伴奏付き歌曲などがある。

シューマン
Schumann, Maurice

[生]1911.4.10. パリ
[没]1998.2.10. パリ
フランスの政治家。ユダヤ人の家に生れた。 1932~40年アバス通信社記者。第2次世界大戦中ユダヤ人迫害のためロンドンに亡命,自由フランス運動に参加した。 1945年制憲議会議員,46~49年人民共和派委員長としてフランスの復興に尽した。 51~54年外務担当閣外相,59年下院外交委員長,62年国務相,67~68年科学技術相,68~69年社会事業相などを経て 69~73年外相,73年総選挙で落選したが,74年9月上院議員に当選。アカデミー・フランセーズ会員。

シューマン
Schuman, William Howard

[生]1910.8.4. ニューヨーク
[没]1992.2.15. ニューヨーク
アメリカの作曲家。ジュリアード音楽院で作曲を R.ハリスに学ぶ。コロンビア大学を経てザルツブルク音楽院に留学。 1935年ブロンクスヒルのカレッジで教え,35~45年サラ・ローレンス・カレッジで教鞭をとる。 45年ジュリアード音楽院院長,62年リンカーン・センター総長に就任。『アメリカ祝典序曲』 (1939) のほか,交響曲9曲,バレエ,室内楽などの作品がある。

シューマン
Schumann, Clara Josephine

[生]1819.9.13. ライプチヒ
[没]1896.5.20. フランクフルト
ドイツの女性ピアニスト。ローベルト・シューマンの妻。旧姓 Wieck。天才的なピアニストとして各地で輝かしい演奏活動を続け,自作のピアノ曲のほか当時の新しい作品を多く紹介,夫やブラームスの作品の優れた解釈者として知られた。

シューマン
Schuman, Frederick Lewis

[生]1904.2.22. シカゴ
[没]1981.5.19.
アメリカの国際政治学者。 1927年シカゴ大学で博士号取得。同大学専任講師,助教授を経て,36年政治学教授。他にも多くの大学で教鞭をとり,新シカゴ学派を代表する政治学者の一人。権力政治を取扱った"International Politics" (1933) は著名。著書多数。

シューマン
Schumann, Elisabeth

[生]1885.6.13. メルゼブルク
[没]1952.4.23. ニューヨーク
ドイツ生れのアメリカのソプラノ歌手。ハンブルクでデビュー,ウィーンを中心に活躍したが,ナチスの手を逃れてアメリカへ渡り,1944年アメリカ国籍を得る。 W.モーツァルト,R.シュトラウス歌手として一世を風靡した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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