ロータリーエンジン(読み)ろーたりーえんじん(英語表記)rotary engine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロータリーエンジン」の意味・わかりやすい解説

ロータリーエンジン
ろーたりーえんじん
rotary engine

ピストンが一点を中心としてシリンダー内を回転するエンジン。1759年ワットがロータリー蒸気機関を初めてつくったが使用するに至らなかった。ロータリーエンジンは回転運動の滑らかさから理想の内燃機関と考えられたが、気密保持、耐久性に欠点があって長い間実用化されず、ピストンがシリンダー内を直線運動するために気密保持の容易なレシプロエンジン(往復動機関)が多用された。

 レシプロエンジンとロータリーエンジンを比較すると、前者は、往復質量が大きいために振動も大きく、回転数もあまり高くできないこと、往復運動を回転運動に変えるためクランク機構が必要で大きく重くなること、軸受に大きな負荷がかかるなどが欠点となっている。一方、後者は、回転運動のみであるから振動が少なく、軸受などへの負荷が比較的一定しているなどの利点がある。しかし、回転方向が一定で潤滑が困難などの欠点があり、往復型エンジンほど気密を保つのが容易でない。とくに内燃機関では、高圧高温ガスになるため気密と潤滑の問題が解決できず、初めは高温ガスに問題のない圧縮機で発達し、その後、材質面の進歩とともに内燃機関としてつくられるようになった。

 ロータリーエンジンが初めて実用機関としてつくられたのは、20世紀初頭、フランスのセカン兄弟Louis et Laurent Sequinが設計・製作したグノームGnome航空機用エンジンである。これは、固定されたクランク軸の周りをシリンダーとクランク室が回転する星形のものであった。その後1920年ごろフランスのエッセルベEsselbeが製作した回転ピストン型エンジンは、タイヤ形シリンダーの中を仕切り板状ピストンが回転、シリンダーに設けられたロータリー弁によって圧縮、燃焼膨張を制御するものであった。これを含めて相次いで発表されたロータリー弁による機関は、気密保持、潤滑の面で難点があり実用化されていない。

 日本では1932年(昭和7)、京都帝国大学機械工学科出身の村上正輔(しょうすけ)(1878―1949)が、二組のピストンが互いに近接したり離れたりしながら回転する揺動回転ピストン機関の特許をとった。これは、一組の楕円(だえん)形の歯車で同一軸上に回転するピストンの速度を変化させ、ピストン間の体積増減を図って吸入、圧縮、膨張させるもので、シリンダーの気密保持の点では多少容易となったが、シールとシリンダー間の潤滑に問題が残った。またその後、回転ベーンをピストンの代用としたものなどが試作されたが、いずれも実用化されずに終わった。

 一方、完全な回転運動ではなく、偏心軸によるクランク軸の作動と回転運動を組み合わせた擬ロータリー・ピストンエンジンが考案された。これは、1951年にドイツのフェリックス・バンケルFelix Wankel(1902―1988)のつくった圧縮機から発達し、1959年にエンジンとして実用化されたバンケルエンジンが代表的なもので、クランク軸の3分の1の速さで回転し、中心がクランク軸の中心と少しずれている三角形状の回転体がピストンとなり、その角の軌跡(外包絡線)がシリンダーとなるもので、ピストンとシリンダー間の一つの空間が、4行程機関(4サイクルエンジン)の行程と同じ体積変化をする。この機関は、シールの材質の進歩とともに日本のマツダ社で実用化され、自動車用として使用されている。偏心量は少なく、きわめて振動の少ないこと、出力軸はピストンの3倍の速さで回転するので高速回転が容易であること、比較的容易に多気筒化できること、一つのシリンダーハウジング内にレシプロエンジンの3気筒分の空間があるので、外形の大きさのわりに多量の空気を処理でき、出力当りの大きさが小さい利点がある。しかし、レシプロエンジンとは異なり、燃焼室内に回転ピストンの周速度以上の高速の流れが生じ、燃焼を完全にするのがレシプロより困難であること、熱損失が大きいこと、また吸排気弁がないため2行程機関と同様にとくに低負荷で残留排気が多く、吸気と混合し燃焼を不完全にするなどの欠点があり、燃料消費率はあまりよくない。しかし、振動が少ないこと、外形寸法が小さいことは、自動車用としては有利である。21世紀に入り、排気ポートと吸気ポートの配置など欠点の改良が進められ、大幅に排気清浄化と熱効率向上を果たしたエンジンが実用化され、2003年に市販車に搭載されている。しかし、さらに厳しくなる排気清浄化に対しては対応が困難になってきており、カーチスライト社などで研究されてきた直噴層状吸気パイロット火炎点火方式のエンジンや、2006年より限定販売されている無害排気の水素燃料を用いるエンジンの実用化が期待される。なお、日本ではバンケルエンジンをロータリーエンジンとよんでいる。

[吉田正武]

『富塚清著『動力の歴史――動力にかけた男たちの物語(新装版)』(2008・三樹書房)』『神本武征監修『自動車技術叢書1 夢の将来エンジン(技術開発の軌跡と未来へのメッセージ)』(2009・自動車技術会)』『John Robert DayEngines ; The Search for Power(1980, The Hamlyn Publishing Group Ltd.)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ロータリーエンジン」の意味・わかりやすい解説

ロータリーエンジン
rotary engine

ピストンを取り付けた固定制御軸のまわりを,燃焼室シリンダが駆動軸とともに回転する内燃機関。初期のロータリーエンジンは航空機用で,機体胴体に固定されたクランク軸のまわりにシリンダを環状に配置した空冷エンジンが第1次世界大戦で使用された。回転するシリンダを固定する円形の枠にプロペラが直接取り付けられていたが,戦後使われなくなった。その後ドイツの技術者フェーリクス・バンケルが発明したバンケルエンジンが,ロータリーエンジンとしては最も完成度が高く,広く使用された。
バンケルエンジンは従来のレシプロエンジンと根本的に構造が異なる。シリンダ内でピストンが往復運動をするかわりに,三角形をした 1個のロータが特殊な形状のハウジング内で回転し,ロータの側面とハウジングの曲面壁の間に,ロータの回転にあわせて移動する三日月形の燃焼空間を形成する。ロータの三つの頂点(アペックス)にはばね式シール(アペックスシール)が固定され,ハウジングの内面と接する摺動を続ける。燃焼空間の容積はロータの回転にともなって増減する。気化器の供給する可燃混合気が吸気孔から燃焼室に入り,燃焼空間容積の減少により圧縮されると,点火プラグが点火する。ロータの 4分の1回転ごとに混合気の圧縮または燃焼ガスの膨張が行なわれ,内燃機関の特徴である吸気,圧縮,膨張,排気の 4行程がロータ 1回転で達成される。可動部品はロータと駆動軸のみで,このことに加えて軽量,小型,初期コストが低い,故障が少ない,運転が比較的円滑,といった利点がある。
バンケルエンジンは 1956年に初めて自動車に試用されて以降,空気圧縮機の運転など,単純な機構で小型,軽量,高速のエンジンが必要とされる用途に用いられてきた。日本では 1961年から東洋工業(→マツダ)が研究を始め,1967年から市販車に搭載していたが,2012年生産を中止した。

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