最新 心理学事典 「ワーキングメモリ」の解説
ワーキングメモリ
ワーキングメモリ
working memory
ワーキングメモリの特徴は,その保持の機能が目標となっている認知処理課題の遂行中に求められるところにある。そのため,この記憶機能の実現に必要な過程は,リソースresource(容量)をめぐって,当該の認知処理活動との間で競合を起こすことになる。さらに,ワーキングメモリに保持されている情報は,その認知処理活動からの妨害あるいは干渉にさらされる可能性もある。ワーキングメモリスパン課題working memory span taskとは,なんらかの処理課題を遂行しつつ情報の保持を求めるという課題である。一般に広く普及しているワーキングメモリスパン課題は,ダーネマンDaneman,M.とカーペンターCarpenter,P.によって開発されたリーディングスパンテストreading span test(RST)である。この課題では,複数の文を一つずつ提示し,それらを音読しながらそれぞれの文の最後の単語を覚えておくことを求める(日本語の場合には,文末の語が名詞ではないことが多いので,文中の記銘単語をアンダーラインによって指定する)。つまり,実験参加者は音読という処理をしながら単語を覚えておくという保持活動に従事することになる。個人のRSTの得点は,記銘単語の再生成績から算出され,ワーキングメモリの容量を反映するものと考えられている。実際に,この成績が読み能力テストなどの成績と比較的高い相関を示すことから,RSTは読み過程に必要となるようなワーキングメモリの働きをうまく測定していると考えられてきた。RSTと同様に,計数スパンcounting span課題,演算スパンoperation span課題,空間スパンspatial span課題などもまた,処理活動とともに情報の保持を求めるワーキングメモリスパン課題であり,その課題成績はワーキングメモリの働きを反映すると考えられている。 →記憶
〔齊藤 智〕
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