アイネシデモス(読み)あいねしでもす(英語表記)Ainesidēmos

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アイネシデモス」の意味・わかりやすい解説

アイネシデモス
あいねしでもす
Ainesidēmos

生没年不詳。1世紀ごろのギリシア懐疑派哲学者。クノッソス出身。著作は残っていないが『ピュロン式議論』などが知られている。彼の哲学の目的は、アカデメイアアンティオコスの影響下で失った懐疑主義を再興することにあった。懐疑派のモデルになった10か条の懐疑の方式tropoiの発見者である。それによれば感覚、知識は、(1)動物各種族の身体構造、(2)人間各個人の体質、(3)各感覚器官の構造、(4)生理心理上の条件、(5)対象の位置、距離、場所、(6)感覚の媒体、(7)対象の量、(8)できごとの頻度、(9)文化、習慣、法律、に依存しており、総じて、(10)あらゆる知識は相対的である、とした。

 以上より、物の本性の確実な知識は不可能で、判断中止エポケー)を提唱した。また彼にあっては因果性も否定された。

山本 巍 2015年1月20日]

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改訂新版 世界大百科事典 「アイネシデモス」の意味・わかりやすい解説

アイネシデモス
Ainēsidēmos

クノッソス出身のギリシア哲学者。生没年は不詳だが,およそ前1世紀ころの人。ピュロンに始まる懐疑派の哲学を大きく発展させた。その著《判断中止の理由》は懐疑哲学の代表作である。ディオゲネス・ラエルティオスの《ピュロン伝》にその学説をうかがうことができる。セクストス・ホ・エンペイリコスの懐疑哲学は,ほとんどが彼の学説の祖述である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アイネシデモス」の意味・わかりやすい解説

アイネシデモス
Ainesidēmos

前1世紀頃のギリシアの懐疑論者。懐疑論の立場について 10の根拠 (トロポイ) をあげたことで有名。

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世界大百科事典(旧版)内のアイネシデモスの言及

【懐疑論】より

…彼らはストア主義を独断論として攻撃し,とくに後者は蓋然的知識で満足すべきことを説いた(アカデメイア派ないし新アカデメイア派の語も懐疑論者の代名詞として用いられることがある)。後期にはアイネシデモスやセクストス・ホ・エンペイリコス等が属するが,前者は感覚的認識の相対性と無力さを示す10の根拠を提示したことで知られ,後者は経験を重んずる医者として諸学の根拠の薄弱さを攻撃し,またその著書はギリシア懐疑論研究の主要な資料となっている。近世においては,ルネサンスの豊かな思想的混乱の中で懐疑思想も復活し,伝統的な思想や信仰を批判する立場からも,逆にそれを擁護する立場からもさまざまなニュアンスの懐疑論が主張されたが,その中でもモンテーニュのそれはたんに否定的なものにとどまらず生を享受する術となっている点で,またパスカルのそれはキリスト教擁護の武器として展開されているにもかかわらず作者の意図を越えて人間精神の否定性の深淵を垣間見させてくれる点でそれぞれ注目に値する。…

※「アイネシデモス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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