アフリカ諸言語(読み)あふりかしょげんご

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アフリカ諸言語」の意味・わかりやすい解説

アフリカ諸言語
あふりかしょげんご

アフリカ大陸で話される言語。その数を正確にいうことは不可能である。理由は、未発見の言語が多いということではなく、別の言語であるか単なる方言の違いであるかを科学的に区別することが不可能なことにある。いちおう数百から1000といったところが目安になる数であろう。

 アフリカ諸言語の系統的分類に関しては、従来種々の説があったが、現時点で多くの学者が賛否それぞれの立場から依拠するのは、1960年代にグリーンバーグJ. H. Greenberg(1915―2001)が提唱した分類である。彼の系統的分類は、言語の系統的証明に不可欠な「音韻対応の通則」の抽出の作業を初めから無視したものであり、とうてい、なんらかの証明をなしえたなどといえるものではない。しかし、アフリカ諸言語全体にわたる、彼の説にかわる系統的分類はまだなされておらず(各言語の研究の実状からみて、いまのところ不可能)、したがって便宜的手段として、ここでは彼の分類に沿って概観する。

 グリーンバーグは、マダガスカル島の言語(オーストロネシア語族に属する)を除くアフリカ諸語を、Ⅰ.コンゴ・コルドファン語族、Ⅱ.ナイル・サハラ語族、Ⅲ.アフロ・アジア語族、Ⅳ.コイサン語族の四つに分類する(図A)。

 Ⅰ.コンゴ・コルドファン語族(ニジェール・コンゴ語族とも)は、スーダンのコルドファン丘陵地帯で話される群小のコルドファン諸語と、アフリカ西海岸から中南部の広大な地域に分布するニジェール・コンゴ諸語からなるとされる。ニジェール・コンゴ諸語は次の六つの語群を含む。図Bを西から順にみると、(1)ウォロフ語、(2)ジョラ語、(3)セレル語(以上セネガルなど)、(4)バラニ語(ギニア・ビサウなど)、(5)テムネ語(シエラレオネなど)、および、(6)セネガルからマリ、ブルキナ・ファソ、ニジェール、ナイジェリアカメルーンなどに広く分布するフラ語(フラニ語フルフルデ語などとも)などをおもなものとする大西洋沿岸語群。(7)ソニンケ語、(8)マリンケ語、(9)バンバラ語(以上マリなど)、(10)デュラ語(コートジボワールなど)、(11)スス語(ギニアなど)、(12)メンデ語(シエラレオネなど)、(13)クペレ語(リベリアなど)、(14)サモ語(ブルキナ・ファソなど)などをおもなものとするマンデ語群。(15)セヌフォ語(コートジボワールなど)、(16)モシ語(オートボルタなど)を含むグル語群。(17)バサ語(リベリアなど)、(18)エウェ語(トーゴなど)、(19)アカン語(コートジボワール、ガーナなど)、(20)ガー語(ガーナなど)、(21)ヨルバ語、(22)ヌペ語、(23)イドマ語、(24)イボ語、(25)イジョ語(以上ナイジェリアなど)などからなるクワ語群。(26)ジュクン語、(27)イビビオ語、(28)エフィック語、(29)ティブ語(以上ナイジェリアなど)、そして、カメルーンとケニアを結ぶ線より南の広い地域に話されるバントゥ(バントゥー)諸語を含むベヌエ・コンゴ語群。最後に、(30)ムベレ語、(31)ムブム語(以上カメルーンなど)、(32)グバヤ語、(33)バンダ語(以上中央アフリカ共和国など)、(34)サンゴ語コンゴ民主共和国〈旧、ザイール〉など)、(35)ザンデ語(コンゴ〈旧、ザイール〉、南スーダンなど)などからなるアダマワ・東部語群(アダマワ・ウバンキ語群)がそれである。

 バントゥ諸語は前述のごとくベヌエ・コンゴ語群に入れられているが、そのおもなものには、(36)ドゥアラ語、(37)エウォンド語(以上カメルーン)、(38)ファン語(カメルーン、ガボンなど)、(39)コンゴ語(コンゴ民主共和国〈旧、ザイール〉、コンゴ共和国、アンゴラなど)、(40)モンゴ語、(41)ルバ語、(42)ルンダ語(以上コンゴ〈旧、ザイール〉など)、(43)キンブンドゥ語、(44)ウンブンドゥ語、(45)チョクエ語(以上アンゴラなど)、(46)ルワンダ語(ルワンダ)、(47)ルンディ語(ブルンジ)、(48)ガンダ語、(49)ニャンコレ語(以上ウガンダ)、(50)キクユ語、(51)カンバ語、(52)ルイヤ語(以上ケニア)、(53)スクマ語、(54)ニャムウェジ語、(55)チャガ語、(56)マコンデ語(以上タンザニア)、(57)ニャンジャ語(マラウイ、ザンビア)、(58)ヤオ語(マラウイ、モザンビーク)、(59)マクア語、(60)ツォンガ語(以上モザンビーク)、(61)ショナ語(ジンバブエ)、(62)ベンバ語、(63)トンガ語、(64)ロズィ語(以上ザンビア)、(65)ツワナ語(ボツワナ、南アフリカ)、(66)ズールー語、(67)コサ語、(68)ペディ語、(69)ベンダ語(以上南アフリカなど)、(70)スワティ語(エスワティニ〈旧、スワジランド〉など)、(71)ソト語(レソトなど)がある。また、東アフリカ(タンザニア、ケニア、ウガンダ、コンゴ〈旧、ザイール〉東部)の(72)スワヒリ語、コンゴ〈旧、ザイール〉の(73)リンガラ語などは、バントゥ諸語のうちのあるものを基礎として形成された広域共通語である。バントゥ諸語をベヌエ・コンゴ語群に属するとみるグリーンバーグの説には、バントゥ語学者を中心に根強い反対論がある。

 Ⅱ.ナイル・サハラ語族には、(74)ソンガイ語(マリ、ニジェールなど)、サハラ語派すなわち(75)カヌリ語(ナイジェリアなど)や(76)テダ語(チャドなど)、マバ語派すなわち(77)マバ語(チャドなど)などや(78)フル語(スーダン)、さらにコマ語派やシャリ・ナイル語派が含まれる。シャリ・ナイル語派には東スーダン語群や中央スーダン語群などが含まれる。東スーダン語群には(79)ヌビア語(スーダン)などのほかにナイル諸語が含まれる。ナイル諸語には、(80)ランゴ語、(81)アチョリ語(以上ウガンダなど)、(82)ルオ語(ケニア)、(83)ディンカ語、(84)ヌエル語(以上南スーダンなど)などの西ナイル諸語と、(85)バリ語(南スーダンなど)、(86)カラモジョン語、(87)テソ語(以上ウガンダなど)、(88)トゥルカナ語(ケニアなど)、(89)マサイ語(ケニア、タンザニア)などの東ナイル諸語と、(90)ナンディ語、(91)スク語(以上ケニア)などの南ナイル諸語が含まれる。中央スーダン語群には(92)サラ語(チャド)、(93)ルグバラ語(ウガンダなど)、(94)マングベツ語(コンゴ〈旧、ザイール〉)などが含まれる。

 Ⅲ.アフロ・アジア語族とは、ハム・セム語族(セム・ハム語族)に属するものに、チャド語派を加えたものである。すなわち、(95)アムハラ語、(96)ティグリニャ語(以上エチオピア)や北アフリカに広く話されるアラビア語などのセム語派、(97)タマジグト語(モロッコなど)、(98)カビール語(アルジェリアなど)などのベルベル語派、(99)ガラ語、(100)シダモ語(以上エチオピア)、(101)ソマリ語(ソマリアなど)、(102)ベジャ語(スーダンなど)などからなるクシ語派、(103)ハウサ語(ナイジェリア北部を中心とする大言語)を含むチャド語派からなる。

 Ⅳ.コイサン語族(コイン語族)は、吸着音をもつことで有名な言語群であり、(104)クン語(アンゴラ、ナミビア)、(105)マサルア語(ボツワナ)などのサン人(俗称ブッシュマン)の諸語、(106)ナマ語(ナミビア)、(107)ナロン語(ボツワナ)などのコイ人(俗称ホッテントット)の諸語に、タンザニアに話される(108)サンダウェ語、(109)ハツァ語を加えたものである。

 アフリカではこれ以外に、オランダ語の方言ともいえるアフリカーンス語が南アフリカ共和国で話され、ピジン言語が話される地域もある。さらには、公用語や国語として植民地時代の旧宗主国の言語が用いられる国が多く、言語事情は多くの国でたいへん複雑である。

 アフリカの諸言語の研究は、アジアのそれに比べても遅れているといえるが、吸着音の存在(コイサン諸語)、性をもっと複雑にしたような名詞のクラスの存在(バントゥ諸語など)など、他の地域の言語からはあまり予想できないような事実がみいだされており、今後の研究の発展が待望される。

[湯川恭敏]

『J. H. GreenbergThe Languages of Africa(1963, Mouton and Co., Hague, Netherlands)』


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