改訂新版 世界大百科事典 「アブラコウモリ」の意味・わかりやすい解説
アブラコウモリ
Japanese pipistrelle
Pipistrellus abramus
東アジアの人家にすむ小型のヒナコウモリ科の哺乳類。イエコウモリ,アカコウモリ,アブラムシの別名がある。国外では中国,朝鮮半島,台湾,国内では本州から奄美大島,琉球まで分布する。体長4.5cm前後,前腕長3.2~3.5cm。体重6~9g。陰茎骨が異常に長い。吻(ふん)は短くて幅広く,耳介は幅広い三角形であるが,先はとがっていない。尾は長く,先端がわずかに腿間膜(たいかんまく)から突出。体背面は灰茶色で,わずかにカーキ色を帯びる。もっともふつうに見かける住家性のコウモリで,木造,プレハブなどの建物では羽目板の内側,戸袋などに数頭から20頭,ときには100頭ぐらいの群れで生息する。また,近年は鉄筋コンクリートの高層住宅の外に開孔する排気管の中にもすみついている。しかし洞窟や森林にはほとんどすまない。4月から10月下旬まで活動し,冬は同じすみ家で冬眠する。日没前後のまだ明るいうちにねぐらから飛び出し,河原,草原,庭などの地上5~10mの高さのところを不規則に方向を変えながら比較的高速で飛び,カ科の昆虫を好んで捕食するが,小型のカメムシ類,甲虫なども食べる。交尾期は10月下旬,出産期は6~7月で,1産2~3子。コウモリ類の多くは1産1子であるが,本種はアカコウモリに次いで産子数が多い。母親は幼子を胸に抱いたまま飛ぶので,しばしば赤裸の子が路上に落ちる。おもな天敵はイエネコ。日本にすむ近似種には本種よりさらに小型で体背面が赤褐色を呈し,もっぱら森林に生息するモリアブラコウモリP.endoi,大型で体背面が黒褐色で,洞窟,人家から数例の記録があるにすぎないオオアブラコウモリP.saviiの2種がある。
執筆者:吉行 瑞子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報