アメリカ合衆国の大学法制(読み)アメリカがっしゅうこくのだいがくほうせい

大学事典 の解説

アメリカ合衆国の大学法制
アメリカがっしゅうこくのだいがくほうせい

アメリカ合衆国には現在4000校を超える大学があり,それらの中には研究大学(アメリカ)(research university(アメリカ))と呼ばれ,博士課程大学院(アメリカ)を通して世界に通用する科学研究と研究者・指導者を養成する少数の大学が一方にあり,他方には大衆化し,さまざまな職業実務能力獲得の必要から学びたい多様な学生を受け入れる大学やコミュニティ・カレッジなどの短期高等教育機関が多数存在する。その実態は,世界のいずれの国も達成しえないほど多様化が進んでおり,これを「アメリカ合衆国の大学」と一括りで論じることはできない。しかし,その法制上の特色は日本と比べた場合,明らかであり,ここでは日本の大学法制と対比して論じる。

[三つの特色]

第1に,アメリカには日本のように全国の大学を一律に所管する政府機関,つまり日本の文部科学省に相当するものは存在しない。これは合衆国憲法に教育に関する条項がないことからも明らかであり,大学に関する法制は州権に委ねられていることの証左でもある。ちなみに連邦政府には教育省(アメリカ)(U.S. Department of Education(アメリカ))という機関が存在するが,その役割は教育統計収集や学生奨学金の交付や保証などのサービスに限られていて,大学の運営に法的権限を行使するものではない。

 第2に,日本では学校教育法に定める「設置者」が大学を設置する,という形で設置者の区分によって国立公立私立に分かれるものの,設置者の義務や設置者によってつくられた大学に課せられる法的な諸規制がほぼ一律に定められているのに対し,アメリカでは州立大学(アメリカ)であっても異なる法的設計がなされていることである。すなわち,州立大学の法的地位に関しては,大別して三つの種類があるといわれており,一つは州憲法によって法人格を与えられた大学である。日本でもよく知られているカリフォルニア州の高等教育制度においては,カリフォルニア大学システム(アメリカ)(University of California(アメリカ))がこれに当たり,他州においてもいわゆる代表的大学(アメリカ)(flagship university(アメリカ))は,同様の位置づけが与えられていることが多い。州議会や裁判所からの恣意的な干渉に対して最も強い立場を有しているといわれている。

 二つは州法による公法人(アメリカ)である。法人として州から独立した形をとっている点で,日本の国立大学法人と類似の位置づけであり,相当の独立性が担保されているが,他方で州議会の強大な権限による種々の影響を受けやすい立場にあることは日本の国立大学法人の例を見ても明らかである。カリフォルニア州を例にとれば,カリフォルニア州立大学(California State University)がこれに該当する。三つは州政府の機関としての州立大学(アメリカ)である。法人格を有しておらず独立性が最も弱いもので,数は少ないものの,州によってはこのような形態があることが知られる。

 なお,私立大学のほとんどは各州の制度に則った私法人であり,各州の認可を得て設立されるが,その認可の要件は日本に比べて緩やかで,設立後に各地を担当するアクレディテーション機関の適格認定を受けることによって大学としての質を保証し,また在学して公的奨学金の受給資格が得られる大学となれるかどうかが決まるなど,事前規制よりも事後規制の色彩が強い仕掛けが採用されている。この点は州立大学についても基本的に同様である。

 第3の特色は,大学の管理運営に関する法制である。州立大学に対しては,州政府の側に「調整委員会」などなんらかの行政組織が置かれ,また州議会は大学に対する予算額の決定に大きな権限を持つのが普通であるが,大学そのものの運営に関する意思決定は州立・私立を問わず理事会によって行われる。学長の任免をはじめ業務執行責任者である学長を監督するのも理事会の役割である。この点について,日本の法制では国立大学については法人の長である学長が大学における最高意思決定権限を有し,理事等により構成する役員会は学長を補佐する役割に過ぎないことと大きな違いがある。次に,アメリカにおいて学長を支え学内を実質的に掌理する役割は,プロボスト(アメリカ)(総括副学長(アメリカ))にあるのが一般的である。このプロボストを中心に,さまざまな役割分担を行う複数の副学長によって「大学執行部」が構成され大学運営の実務に当たる。日本においても,近年,学長のリーダーシップの確立が議論され,その結果,学長の権限を制約しがちであった教授会の役割・権限を縮小する措置がとられているが,アメリカではもともと教授会あるいはそれに類する組織の役割は小さく,多くは学長―副学長―学部長―学科長のラインによって決定が行われる。ただし,学長の権限を掣肘する役割を合議機関である理事会が担っている点は,日本の国立大学とは異なる。
著者: 山本眞一

参考文献: 高木英明『大学の法的地位と自治機構に関する研究』多賀出版,1998.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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