大学事典 「コミュニティ・カレッジ」の解説
コミュニティ・カレッジ
アメリカ合衆国の地域社会立(おもに市や町)の総合的短期高等教育機関(アメリカ)。ハイスクール卒業者を受け入れるだけでなく,地域社会のすべての住民を対象にした教育課程(多様な職業・技術教育の課程,4年制大学に編入するための課程,資格取得のための課程,成人教育の課程等,単位制・非単位制のさまざまな科目)を持っている。
[歴史的起源]
コミュニティ・カレッジの起源はジュニア・カレッジ(アメリカ)である。20世紀初頭に成立したジュニア・カレッジ自体が,地域社会の要求によって設立された教育機関という意味で,その教育はすぐれて地域性を有しており,たとえば地域社会の要求にこたえた職業・技術教育も提供していた。
コミュニティ・カレッジは,教育制度上は中等教育の延長として成立したにもかかわらず大学教育を提供するという形態のため,その法制的・財政的な位置は必ずしも明確ではなかった。しかしながら,第2次世界大戦後,とりわけ1960年代初頭,カリフォルニア高等教育マスター・プランに代表される各州の高等教育長期計画によって,予想される高等教育人口増大を支えるための必須の機関として高等教育制度上の地位を獲得するに至った。マーチン・トロウ,M.の提起したマス高等教育あるいはユニバーサル高等教育は,コミュニティ・カレッジの存在なしには実現できなかったと言えよう。「オープン・ドア(無試験)」入学政策を掲げ,一方で社会の技術革新に敏感に対応した職業技術教育,他方で生涯学習のための多様な成人教育プログラムを次々に展開し,1970年代には全米で急速な発展をするに至った。とりわけ,コミュニティ・カレッジの全米連合団体であるアメリカ・コミュニティ・カレッジ協会が掲げたスローガン「すべての人にあらゆることを」が象徴するように,「地域社会を革新するカレッジ(Community-Renewal College)」としての地域社会への教育サービスの理論と実践は注目すべき業績をあげた。しかしながら,1970年代末から80年代初頭にかけての「納税者の反乱」と呼ばれた全米的な減税運動は,公費で運営され低廉な学費を誇ったコミュニティ・カレッジを直撃することになり,その成長は一時頓挫する。以降,新たな顧客たち,たとえばアメリカ先住民や留学生,主婦や高齢者を積極的に獲得することで着実な発展を遂げていった。
[現状]
2年制の短期高等教育機関であるコミュニティ・カレッジは,かつてOECD(経済協力開発機構)が中等後教育のモデルとして定式化した「多目的第一サイクル・モデル」の一つであるが,世界で最も成功した事例である。通常の公立4年制大学と比較した場合,①低廉な学費,②自宅や職場から通学可能,③学生集団が比較的小規模であること,④4年制大学への編入の途が開かれているなどの理由で,2017年現在,大学数1108校(公立982校,私立90校,アメリカ先住民のカレッジ36校),登録学生数は2015年現在で約1220万人(単位制課程720万人,非単位制課程500万人)を擁し,大学に初めて入学する学生の約41%がコミュニティ・カレッジで学業を開始するという,依然としてアメリカ高等教育の一大勢力となっている。コミュニティ・カレッジ出身の著名人も数多く,ヒトゲノム研究のJ. クレイグ・ヴェンター(1946-),映画監督のジョージ・ルーカス(1944-),キューバ系アメリカ人作家として最初にピュリッツァー賞を受賞したオスカー・イフェロス(1951-2013)などはコミュニティ・カレッジから4年制大学に編入している。
パートタイム学生,人種・民族という点でのマイノリティ学生,女性の学生が多数派という点もコミュニティ・カレッジの特質としてあげることができる。大都市型の大規模コミュニティ・カレッジとしてマイアミ・デイド・カレッジ(アメリカ)(フロリダ州,単位制課程在籍者6万1000人),ヒューストン・コミュニティ・カレッジ(アメリカ)(テキサス州,単位制課程在籍者6万人)など巨大なカレッジも存在するが,基本的には所在する地域社会に見合った規模である。例外は部族カレッジ(Tribal College)と呼ばれるアメリカ先住民の教育に特化したコミュニティ・カレッジで,ごく少数を除きいずれも数百名の在籍者数である。
近年,教育機会の平等という観点から,連邦政府および州政府が積極的に財政援助を行うようになった。運営に必要な全経費の内訳を全米教育統計センターが公表した最新値(2016年度)で見ると,連邦が13.5%,州が31.3%,地域社会が18.2%,学生(授業料等納付金)が29.1%,その他が8.0%となっている。このような財政支出への連邦政府および州政府の関与は,アカウンタビリティの観点から,コミュニティ・カレッジの教育の成果がより厳格に問われるようになり(退学率や在学中に借りた経済援助ローン返済のデフォルト率など),これはコミュニティ・カレッジにとって克服すべき新たな課題となっている。
著者: 坂本辰朗
参考文献: American Association of Community Colleges, 2017 Fact Sheet(AACC, 2017)://www. aacc. nche. edu/wp-content/uploads/2017/09/AACCFactSheet2017. pdf
参考文献: Cohen, Arthur M., Brawer, Florence B. and Kisker, C.B., The American Community College, 6th Edition, Jossey-Bass, 2013.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報