学部長(読み)がくぶちょう

精選版 日本国語大辞典 「学部長」の意味・読み・例文・類語

がくぶ‐ちょう ‥チャウ【学部長】

〘名〙 大学で、学長や総長の監督下にあり、学部の事務をつかさどる長。〔帝国大学令(大正八年)(1919)〕

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大学事典 「学部長」の解説

学部長
がくぶちょう

大学における教育研究上の基本組織である学部にあって,その組織の長として学部運営上に必要な校務をつかさどる管理職。学部は大学の内部組織であり,学部長は大学の責任者である学長の統監を受ける。

[学部長に関する法規定―職務と権限]

日本の教育法規において,学部長について規定するのが学校教育法である。92条に「大学には学長,教授准教授,助教,助手及び事務職員を置かなければならない。ただし,教育研究上の組織編制として適切と認められる場合には,准教授,助教又は助手を置かないことができる」とあり,学長,教授その他の職員の配置を定めている。その上で,2項は「大学には,前項のほか,副学長,学部長,講師,技術職員その他必要な職員を置くことができる」とし,5項で「学部長は,学部に関する校務をつかさどる」と学部長の職務を規定する。同法が学部長配置の法的根拠となるが,学部長の配置を義務化してはいない。

 「学部に関する校務をつかさどる」とは,学部運営上必要な事柄について学部長の責任と権限に基づいて処理することと解釈される。ただし,学校教育法以外に法的規定はないため,具体的な職務内容や権限の詳細は各大学の学則や学部規則などで独自に定めることになる。学部長の職務を一般的な事例としてあげるならば,教授会の主宰,学部の代表者として全学的審議会への参加,学部校務に関わる各種主要委員会の招集および必要に応じてその委員長に就任,学部の代表者として各種広報や渉外活動への関与等がある。

[学部長の役割―教授会・全学的活動]

学部長は学部に関わる案件を審議決定する学部教授会(日本)を招集し,その議長となって教授会(日本)の審議を統括する。教授会を主宰することは,学部長の職務や権限に大きく関わる。教授会の審議事項をあげると教員人事,学部長の選考および解任,評議員の選出および解任,副学部長および課程長の選出,各種委員会委員の選出,将来計画・改革に関すること,中期計画・年次計画に関すること,学部での予算配分・決算に関すること,研究戦略に関すること,三つのポリシー(DP・CP・AP)策定に関すること,組織の改変,点検評価,教育課程の編成,学生の入学や卒業その他在籍に関すること,学位の授与,学生指導,表彰および懲戒,規則の制定および改廃などがある。これらの職務に主導的な立場で関与する学部長の影響力は少なくない。ただし,最終的には教授会構成員による審議とそれにもとづく決定を優先するために,教授会の決定が学部長の意向に反することもある。そこで,学部長のリーダーシップによる事業の迅速化や学部運営の活性化を図るために,ある一定の範囲において,経費の分配や人事に関することなど,学長裁量による権限を認めている大学もある。

 学部の自治機能が伝統的に強い大学では,学部長を中心とする学部教授会が人事や学部運営に関する自治を大学に主張することも多く,学長が校務全般に関する最終決定権を適切に執行できない場合もあった。そこで2015年(平成27)1月,文部科学省高等教育局は各大学に対し「内部規則の総点検・見直しにおける留意事項(日本)」として,学部の校務が学部長の専権事項のように解されたり,全学の方針に反する学部運営が行われていたりしても,学長が是正を求めることができないなどの事態が起きないよう,最終的な決定権はあくまでも学長が有し,必要な場合には,いつでも学長が学部長に対して指示できる仕組みを置くことを要請している。

 このほか,学部長は全学の重要な審議を行う主要会議等の構成員となり,教育・研究あるいは大学運営の意思決定に加わる。学部長が参画する全学的会議の事例として教育研究評議会,組織検討委員会,財務委員会,部局長会議,点検評価委員会,全学入試委員会などがある。また全学的な各種専門委員会(会議)の構成員となることも多く,これらにおいて学部の代表として議案の審議決定に関与する。

[学部長の選考と任期

学長の選考と異なり,学部長の選考については法令上規定されておらず,大学ごとに多様な実態がある。日本の大学では,学部教授会構成教員による投票で学部長候補者が決定し,その候補者を学長が任命するのが一般的である。このほか,学長および常勤理事で構成される選考会議で候補者を選考して学長が任命する場合や,教授会で2名以上の候補者を投票決定して内申し,学長が最終的な任命を行う大学もある。学長や理事会が任命する場合,教授会での得票数や得票順位が優先されないこともある。学長のリーダーシップによる独自の大学マネジメントを具体化するために,国立大学でも学長による学部長指名制度を導入する大学も出てきた。非法人型公立大学では,教育公務員特例法により,学部長の選出は当該学部の教授会の議に基づいて学長が行い(3条3項),その任命は学長の申し出に基づいて任命権者(都道府県もしくは政令指定都市の教育委員会)が行う(10条)。法人化した公立大学の場合は理事長が候補者を決定し,大学経営協議会の議を経て任命する事例がある。

 学部長の選考候補者は,教授会構成員(教授)の立候補制もあれば,教授会構成員による推薦制を採用する大学・学部もある。また候補者を特定せず,教授会構成員のうちから学部長資格者全員を対象にして投票を行い,その上位者を候補者として最終選考投票を実施する事例もある。学部長の任期は学則もしくは学部規則で定められ,おおむね2~4年である。再任は1回を限度とする場合が多いが,それとても大学・学部により多様である。再任無制限の大学もあれば,再任を一切認めない大学もある。

[欧米の大学における学部長]

海外大学の教育研究組織あるいは人事や自治の単位はそれぞれの歴史的・社会的背景のもとに形成され,学部長の職責や権限も多様である。学部長に該当するディーン(dean)という語は,イギリスではカレッジに住み込んで学生の勉学,生活を監督する者というオックスブリッジ時代に由来する意味があり,この役職に宗教的背景や責務が加味されることもある。ヨーロッパ大陸あるいはスコットランドの「ユニバーシティ」では,ディーンに教授団または学部における責任者(学部長)の意味がある。ヨーロッパ大陸の大学では,学部が大学の重要構成単位として存在し,大学の内部秩序の維持ならびに対外防衛の機能をもつ団体として機能する。教員団体である学部は,教育内容や教育課程の決定,人事を自分たちで行い,学部長はその自治的な利害を代表し保護統括する役割を期待され,メンバーの選挙で選ばれる。

 一方,アメリカ合衆国の大学におけるディーンは,学部教員団を代表したり,その利益の獲得・保護責任を負うのではなく,理事会・学長によってつくられた基本方針に沿った学部運営を責務とする経営陣の一員である。大学と一体化した共通利益の追求を求められる。それゆえ学部パフォーマンス発揮の手腕が要求され,そのために学科長の任免権や予算・機器物品の配分権,執行状況の監督権,カリキュラムチェック,事務職員統括の権限も与えられる。その任命も,大学の理事会や学長が,適任者を全米から選ぶことになる。アメリカでは学生部長もディーンと呼ばれることが多い。
著者: 大川一毅

参考文献: 谷聖美『アメリカの大学―ガヴァナンスから教育現場まで』ミネルヴァ書房,2006.

参考文献: 別府昭郎『大学改革の系譜―近代大学から現代大学へ』東信堂,2016.

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