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「アルツハイマー病」の意味・読み・例文・類語
アルツハイマー‐びょう〔‐ビヤウ〕【アルツハイマー病】
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アルツハイマー病
脳内にアミロイドベータやタウというタンパク質がたまり、神経細胞が死んでいく病気。次第に記憶や判断力が低下し、着替えや食事など日常生活にも支障を来す認知症に進んでいく。日本の高齢認知症患者は2025年に471万人と推計され、6~7割をアルツハイマー病が占める。残った神経の働きを助ける薬が長く使われてきたが、アミロイドベータを除去する薬が最近登場した。
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アルツハイマー病
あるつはいまーびょう
Alzheimer disease
大脳の変性を原因とし、認知症の原因としてもっとも多い疾患。ADと略称される。本疾患名は、最初に本症を報告したドイツ人医師アルツハイマーAlois Alzheimer(1864―1915)に由来する。
認知症の原因となる疾患は70以上もあるといわれるが、アルツハイマー病はその3分の2程度を占め最多と考えられている。また、本来アルツハイマー病とは60歳(もしくは65歳)以下で発症するいわゆる若年性のものをさしたが、最近ではそれ以上の年齢で発病する「アルツハイマー型認知症」も含めてアルツハイマー病とよばれることが少なくない。したがって本稿でも両者を区別せず「アルツハイマー病」として解説する。
[朝田 隆 2023年5月18日]
アルツハイマー病では多くの症状がみられるが、記憶などの「認知機能の障害」、BPSDといわれる「行動・心理症状」、そして排泄(はいせつ)や着脱など「日常生活動作の障害」と大きく3分類できる。アルツハイマー病は徐々に進行するが、直接的な死因になることはない。治療には、これまで症状の進行を遅らせる治療薬が用いられてきたが、近年では根本治療薬(正式には疾患修飾薬という)の開発に世界中でしのぎが削られている。
なお、アルツハイマー病を含めた認知症患者の介護者はときに大きな負担を強いられることから、患者本人にも介護者にも介護保険のサービスなどによる支援が重要であることが知られている。
[朝田 隆 2023年5月18日]
厚生労働省の全国調査によれば、2012年(平成24)10月時点で、65歳以上の人口における認知症の有病率は15%で、総数は462万人と推定された。予備軍である軽度認知障害(MCI)の人の数をあわせると、65歳以上の人口の3割にあたると考えられた。また認知症者の8割は80歳以上であり、その8割は女性であることも重要である。なお、認知症の最大の危険因子は加齢であり、65歳以降、年齢が5歳あがるごとに認知症の危険性は倍増していく。したがって90歳を超えると50%以上の確率で認知症に罹患(りかん)することになる。それだけに、今後さらに平均寿命が延びれば認知症者もさらに増加すると考えられている。なお、ここにあげたのは認知症全体での数字である。既述のように、認知症の3分の2がアルツハイマー病なので、アルツハイマー病に限れば、上記の数字の3分の2ととらえればよいだろう。
[朝田 隆 2023年5月18日]
アルツハイマー病の病因はいまだ不明ながら、患者の脳に多くみられる二つの物質が注目されている。まず「アミロイドβ(ベータ)(Aβ)」とよばれるタンパク質である。Aβがその前駆タンパクから切り出され、それらが集まってオリゴマーという段階を経て、雪だるま式に大きくなる。ついには老人斑(はん)とよばれる塊として脳内に凝集する。またこのプロセスに続発して、リン酸化された「タウ」(タンパク質)から構成される神経原線維変化(NFT)を生じるが、そこから脳の神経細胞死へ至るとも考えられている。したがって開発中の疾患修飾薬の多くはAβとタウを治療標的にしている。
[朝田 隆 2023年5月18日]
臨床では、医師の診察を基本に、世界的に確立した診断基準等にのっとって診断がなされる。診断の要点は「進行性の認知機能低下により生活の自立が困難になること」である。検査としては、記憶力など神経・心理学的な検査、またMRIや脳血流などをみるための脳画像検査等が重要である。加えて、バイオマーカーとよばれる脳脊髄(せきずい)液中のAβ減少やNFTの増加等が重視され、これらが認められると診断の確度が高まる。なお、確定診断は死後脳の病理学的検査を行う以外に手段がない。
[朝田 隆 2023年5月18日]
アルツハイマー病の臨床経過は、初期・中期・後期に分けて論じられる。初期の特徴は健忘、中期ではBPSD、後期は寝たきりなど身体機能の低下とまとめられる。なお近年では、根治療法となる可能性を有する薬剤の出現により、それらの有効性があると考えられる前駆期(初期よりも前の段階)や、さらにその前段階も注目されている。
初期から死亡までの経過年数について、近年の世界的なデータでは平均で7~6年と報告されている。
[朝田 隆 2023年5月18日]
薬物療法
これまでアルツハイマー病に用いられてきた薬剤は「対症療法薬」とよばれ、4種類あり、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)とNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)に分けられる。いずれも症状の進行を遅らせる働きをもつ。
「疾患修飾薬」としては、アメリカでは2021年にアデュカヌマブが、2023年にはレカネマブが承認された。これら2剤はいずれもAβを治療標的にした薬剤である。日本でも2023年(令和5)1月にレカネマブについて国に承認を求める申請が行われ、9月に承認された。
非薬物療法
根治が期待できる薬物療法が存在しない現状では、効果的な非薬物療法(心理・社会的な治療アプローチ)により薬物療法を補って治療効果を高める必要がある。
アルツハイマー病を含む認知症への非薬物療法の標的は、認知・刺激・行動・感情の四つに分類される。それぞれ、リアリティオリエンテーション(現実見当識訓練)、芸術療法、行動療法、回想法などの具体的なアプローチが行われている。
[朝田 隆 2023年10月18日]
認知症の介護とは、患者と介護者が相互に反応しあう過程である。それを踏まえて、どのようにして患者と家族に平穏な生活をもたらすかが認知症医療の大切な課題である。まず、ケアの場面で介護者に求められる基本的な態度としては、「簡潔な表現や指示」「穏やかで支持的な態度」「当事者ができないことに直面させないこと」などがある。また、介護保険制度によるさまざまなサービスが重要だが、デイ・サービスやショートステイ、またホームヘルパーなどの活用がその代表的な例である。加えて、家族会や当事者の会が重要だという認識が高まっている。
[朝田 隆 2023年5月18日]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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家庭医学館
「アルツハイマー病」の解説
あるつはいまーびょう【アルツハイマー病 Alzheimer's disease】
◎原因となる病気のない認知症
[どんな病気か]
1907年、ドイツの精神科医アルツハイマーは、52歳で発症し、急速に記憶障害や認知障害が進行して数年で亡くなった女性の症例を、新しい病気として発表しました。
以来、中年や初老期でおこる脳の障害をアルツハイマー病と呼んできましたが、70歳、80歳で発症しても、現われてくる認知症症状は同じであることがわかってきました。
この高齢者の認知症を、アルツハイマー型老年(がたろうねん)認知症と呼んでいますが、アルツハイマー病やアルツハイマー型老年認知症になった人の脳を顕微鏡で調べてみると、神経原線維変化(しんけいげんせんいへんか)と老人斑(ろうじんはん)という病変がおこっていることがわかりました。
このことから、2つの病気を1つにまとめて、アルツハイマー病と呼ぶこともあります。
[原因]
アルツハイマー病は原因が不明だったのですが、最近、神経細胞のたんぱくが変性してきて、神経原線維変化や老人斑(ろうじんはん)ができるらしいことがわかってきました。
◎症状は段階的に進行する
[症状]
症状は、大きく分けて中核症状と周辺症状とがあります。
●中核症状
中核症状の中心となるのは、記憶障害(きおくしょうがい)と認知障害(にんちしょうがい)です。
人は、年をとれば大なり小なり物忘れをするようになります。「人の名前が思い出せない」「むかし書けた漢字が書けない」などは、誰でもよく経験することです。
しかし、そのときは忘れていても、あとでふっと思いだしたりするものです。いわゆる健忘症(けんぼうしょう)です。
ところが、物忘れのために日常生活に支障をきたす人がいます。たとえば、食べたことを忘れて、再度、食事を要求したり、電話の取り次ぎがうまくできなくなるといったようなことです。
アルツハイマー病の認知症には、一般に段階的な変化がみられます。
まず、時間の感覚が失われます。きょうが何日なのか、何曜日なのか、あるいは春なのか冬なのか、季節がわからなくなります。
つぎに場所の混乱がおこります。たとえば病院に来ているのに、どこにいるのかがわかりません。医師や看護師の白衣を目にすれば見当がつくはずなのに、「おかしいですね、何でそんなものを着ているんでしょう」などといったりします。
さらに症状が進行すると、長年住み慣れた自分の家がわからなくなり、夜になると、「おじゃましました。ここらでおいとまします」などといって、自宅から出ていこうとします。
最後には、人物を認識することができなくなります。ですから、自分の娘に向かって、「どなた様ですか」とか、「こんなに遅くまでいると、お母さんが心配するから早く帰ったほうがいいですよ」などといったりします。
●周辺症状
これは、アルツハイマー病の本質的な症状ではありませんが、この症状のために周囲が大きな影響を受けます。夜間に興奮して歩き回ったり(徘徊(はいかい))、外出先で帰る道がわからなくなって迷子になったり、あるいは廊下に置いてあるごみ箱を孫とまちがえて話しかけたりと、いろいろです。
アルツハイマー病の場合、身体的症状、たとえば、まひなどはおこりませんから、迷子になるとどこまでも歩き続け、はるか離れた地点で保護されることもあります。
◎家族の対応のしかたがポイント
[治療]
中核症状を治すことは、今の時点では不可能ですが、周辺症状は、薬によってある程度は軽減することができます。
中核症状の多くは、理解力の低下や思いちがいを訂正できないために生じているのです。したがって、家族の人たちは、つぎのように対応してあげるとよいでしょう。
●お年寄りのペースに合わせる
あらゆる場面で、お年寄りのペースに合わせてケアを行ないましょう。
お年寄りは、食べるスピードが遅いものです。それを若い人と同じペースで食事をさせようとしてもうまくかみ合いません。
家族はこれからの予定があるのでいらいらし、お年寄りの口の中に食べ物を押しこんだり、時間内に食べきれないとかたづけてしまいがちです。
いくら認知症が進んでも、このような仕打ちはお年寄りの心を傷つけます。受容的な態度で接することもたいせつです。
お年寄りの失態を責めたりせず、少々のことには目をつぶってあげることもたいせつです。たとえ、やったことが中途半端でも、ほめてあげるほうが効果的なのです。そして、お年寄りができないことを要求するのではなく、できることをやってもらい、自信をつけさせてあげましょう。
こうすれば、残存機能を引きだし、維持することができます。
●安らげる場を確保してあげる
お年寄りは、部屋に閉じこめられ、拘束されると不穏(ふおん)状態(不安やいらいら)になります。反対に、快適に過ごせるような環境をつくってあげると、適応状態に導くことができます。
近年、核家族化が進み、お年寄りの居場所や役割のなくなったことが問題をおこしているように思えます。お年寄りの役割を取り上げるようなことだけはしてはいけません。
アルツハイマー病は進行し、やがて人間的な機能を失うようになります。うまくしゃべれなくなり、読み書きができなくなります。自分自身の管理、つまり、トイレに行き、処理して出てくる、風呂に入り、自分でからだを洗う、衣服を順序よく着るといったことができなくなります。
このようになると、家族でケアするのは不可能になってきます。デイサービスやショートステイなどの公的サービスを積極的に利用すべきでしょう。
出典 小学館家庭医学館について 情報
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アルツハイマー病
アルツハイマーびょう
Alzheimer's disease
老人の痴呆 (ちほう) の一つの型。老人の痴呆は大きく分けてアルツハイマー型と脳血管性痴呆の2つがある。アルツハイマー型痴呆は,脳の神経細胞が脱落してボケ症状を引起すもので,病名は 1907年,初めて症例を報告したドイツの精神医学者 A.アルツハイマー (1864~1915) の名をとった。初老期 (40~50歳代) に発病し,失語・失行,視空間失認など記憶力の減退を中心とした痴呆症状が現れる。さらに筋強剛,歩行障害,姿態異常などがみられるほか,症状の経過に伴って活動性が低下し,高度の痴呆と失禁,全身障害が著明となる。日本の患者は年々,増加の傾向が強い。脳の実質が崩壊するアルツハイマー型の痴呆は,特に予防や治療がむずかしく,将来はこのタイプの老人痴呆が多数を占めるものとみられている。原因としては染色体異常,免疫異常,スローウイルス感染,微量金属などいろいろな説があるが,最近は脳にたまる「β (ベータ) 蛋白」という物質が脳神経を窒息させてしまうのではないか,という原因説が有力。また大脳神経原線維の変性の過程でアルミニウムが積極的な役割を果しているのではないか,というアルミニウム原因説も注目されている。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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「アルツハイマー病」の意味・わかりやすい解説
アルツハイマー病【アルツハイマーびょう】
老人性認知症(痴呆)の原因となる病気。ドイツの精神医学者アルツハイマーAlois Alzheimer〔1864-1915〕によって1907年はじめて報告された。脳神経細胞に不溶性のタンパク質性繊維が蓄積したり,神経伝達物質の不足によって,脳神経が大量に死滅・脱落して,脳が萎縮し,記憶,思考,運動障害が起こる,進行性の認知症を主症状とする精神障害。発症率は85歳以上で20〜25%といわれるが,60歳以下での発症もみられる。原因不明のため,有効な治療法はない。
→関連項目化粧療法|スマートドラッグ|痴呆
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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アルツハイマー病
アルツハイマー症候群ともいう.初老期痴呆の一つで,全体的脳機能の障害を特徴とする記憶喪失,計算能力の障害,空間・時間認識の障害などの症状がみられ,脳の萎縮が起こる.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内のアルツハイマー病の言及
【痴呆】より
…また,感情・意欲障害が治療により軽快すると,知能低下が多少改善される場合もある。
[痴呆の種類]
痴呆を示す疾患は種々あるが,40歳代で発病し急速に進行するものには初老期痴呆という脳の変性疾患(アルツハイマー病,ピック病)がある。また,30歳代で発病し,慢性進行性に経過するハンチントン舞踏病,50歳代に発病するパーキンソン症候群などの変性疾患も痴呆をきたす。…
※「アルツハイマー病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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