介護保険制度(読み)かいごほけんせいど

共同通信ニュース用語解説 「介護保険制度」の解説

介護保険制度

原則65歳以上の要介護認定を受けた人が、自宅や施設で食事や入浴の介助、リハビリなどのサービスを1~3割の自己負担で利用できる。市町村が運営主体となる。介護サービスにかかる費用は自己負担分に加え、40歳以上が支払う保険料、国と地方の公費で賄う。40~64歳の保険料は毎年度改定。65歳以上の保険料は市町村などが基準額を決め、低所得者は軽減、高所得者は増額される。3年に1度見直され、原則年金から天引きされる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「介護保険制度」の意味・わかりやすい解説

介護保険制度
かいごほけんせいど

社会保険の仕組みによる高齢者の介護を保障する制度。日本の介護保険制度は、1997年(平成9)に制定され、2000年(平成12)4月1日に施行された介護保険法(平成9年法律第123号)に基づいて実施されている。国際的には、ドイツ、韓国などは日本と同様に社会保険方式を採用しているが、イギリススウェーデンなどは一般税財源による社会サービス方式を採用している。以下は、日本の介護保険制度の概要である。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

制定の目的・背景

介護保険法制定前の高齢者介護は、老人福祉と老人保健医療の異なる二つの体系のもとで行われていたため、利用手続や費用負担において不均衡があったほか、(1)老人福祉については、行政がサービスの種類や提供機関を決めるため、利用者がサービスを選択することができない、(2)保健医療サービスについては、一般病院への長期入院(いわゆる社会的入院)など、医療資源の非効率な利用を招いている、などの問題があった。

 介護保険では、両制度を再編成し、国民の共同連帯の理念に基づき、給付と負担の関係が明確な社会保険方式により、社会全体で介護を支える新たな仕組みを創設し、保健・医療・福祉にわたる介護サービスが利用者の選択により総合的に利用できる体制を構築した。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

改正の動向

2005年の改正

施行後5年を経た2005年には、高齢者の自立支援と尊厳の保持という基本理念を徹底するとともに、制度の持続可能性を高めつつ、介護予防の推進、認知症ケアの推進、地域ケアの展開という新たな課題に取り組むという観点から、以下のような改正が行われた。

(1)予防重視型システムへの転換(新予防給付、地域支援事業の創設)、(2)施設給付の見直し(居住費用・食費の徴収と低所得者等への軽減措置)、(3)新たなサービス体系の創設(地域密着サービス、地域包括支援センターの創設等)、(4)サービスの質の確保・向上(情報開示の標準化、事業者規制の見直し等)、(5)負担のあり方・制度運営の見直し(第1号被保険者の保険料、要介護認定の見直し等)。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

2011年の改正

2011年の改正では、高齢者が地域で自立した生活を営めるよう、住まい、医療、介護、予防、生活支援サービスが切れ目なく提供される地域包括ケアシステムの実現に向けた取組みを進める観点から、以下のような改正が行われた。

(1)医療と介護の連携の強化等(定期巡回随時対応サービス、複合型サービス、介護予防・日常生活支援総合事業の創設)、(2)介護人材の確保とサービスの質の向上(介護福祉士等による痰(たん)の吸引等の実施、介護事業所における労働法規遵守の徹底)、(3)高齢者の住まいの整備等(有料老人ホーム等における前払金の返還に関する利用者保護規定の追加、高齢者住まい法の改正によるサービス付き高齢者住宅の整備)、(4)認知症対策の推進(市町村における高齢者の権利擁護、認知症対策の推進)、(5)保険者による主体的な取組みの推進。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

2014年の改正

2014年の改正では、地域包括ケアシステムの構築と介護保険制度の持続可能性を確保する観点から、以下のような改正が行われた。

(1)地域包括ケアシステムの構築に向けた地域支援事業の充実(在宅医療・介護連携の推進、認知症施策の推進、生活支援サービスの充実・強化)、(2)全国一律の予防給付(訪問介護・通所介護)を市町村が取り組む地域支援事業に移行、(3)特別養護老人ホームの新規入所者を、原則、要介護3以上に重点化、(4)低所得者の保険料負担を軽減、(5)一定以上の所得のある利用者の自己負担割合を2割に引上げ、(6)低所得の施設利用者の食費・居住費を補填(ほてん)する補足給付の要件に資産などを追加。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

2017年の改正

2017年の改正では、高齢者の自立支援と要介護状態の重度化防止、地域共生社会の実現を図るとともに、制度の持続可能性を確保することに配慮し、サービスを必要とする人に必要なサービスを提供する観点から、以下のような改正が行われた。

(1)全市町村が保険者機能を発揮し、自立支援・重度化防止に向けて取り組む仕組みの制度化、(2)日常的な医学管理や看取(みと)り・ターミナル等の機能と、「生活施設」としての機能とを兼ね備えた新たな介護保険施設である介護医療院を創設、(3)高齢者と障害児者が同一事業所でサービスを受けやすくするため、介護保険と障害者福祉制度に新たに共生型サービスを位置づける、(4)2割負担者のうちとくに所得の高い層の自己負担割合を3割に引上げ。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

2020年の改正

2020年(令和2)の改正では、地域共生社会の実現を図るため、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な福祉サービス提供体制を整備する観点から、以下のような改正が行われた。

(1)市町村の包括的な支援体制の構築の支援、(2)地域の特性に応じた認知症施策や介護サービス提供体制の整備等の推進、(3)医療・介護のデータ基盤の整備の推進、(4)介護人材確保および業務効率化の取組みの強化。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

保険者・被保険者・保険事故

介護保険の保険者(運営主体)は、原則として市町村および特別区(以下「市町村」とする)であるが、小規模保険者の運営の安定化、効率化を図る観点から、複数の市町村が地方自治法に定める広域連合または一部事務組合を設け、個々の市町村にかわって保険者となることができる。

 被保険者は、市町村の住民のうち40歳以上の者であるが、保険給付の範囲、保険料算定の考え方や徴収方法の違いにより、65歳以上の第1号被保険者と、40歳以上65歳未満の医療保険の加入者である第2号被保険者に区分されている。

 介護保険における保険事故は要介護状態(常時介護を要すると見込まれる状態)または要支援状態(日常生活を営むのに支障があると見込まれる状態)になる場合をいう。ただし、第2号被保険者については、脳血管障害、初老期認知症などの、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する特定疾病が原因であるものに限られる。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

要介護認定

保険給付を受けるにあたって、被保険者は市町村に申請して認定を受けなければならない。申請を受けた市町村は、申請者の心身の状況、置かれている環境等について、全国一律の基準に基づいて訪問調査を行い、コンピュータにより判定する(1次判定)。また、市町村は、被保険者の主治医に対して、被保険者の疾病や負傷の状況等について意見を求める。

 市町村の介護認定審査会(保健・医療・福祉の専門家により構成)は、訪問調査結果や主治医の意見等をもとに審査・判定を行い、その結果を市町村に通知する(2次判定)。

 市町村は、介護認定審査会の判定結果に基づいて要介護・要支援認定を行う。認定は、原則として申請日から30日以内に行われる。認定の効力は申請日にさかのぼり、申請日以降に利用したサービスについて給付が受けられる。認定には有効期間が設定され、定期的に更新される。また、有効期間内であっても要介護・要支援状態に変化があった場合は、被保険者の申請または市町村の職権により、変更の認定、認定の取消し等を行うことができる。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

ケアマネジメント

介護保険制度では、介護支援・介護予防支援(ケアマネジメント)の機能が制度化されており、要介護者および要支援者に対して、その心身の状態や環境等を踏まえて課題分析(アセスメント)を実施し、その人のニーズにあった適切なサービスが受けられるよう、介護サービス計画(ケアプラン)の作成等を通じて、保健・医療・福祉の各種サービスを総合的、継続的に提供することとしている。

 在宅の要介護者に対する居宅サービス計画は、要介護者からの依頼に基づき、介護支援専門員(ケアマネージャー)が作成する。作成にあたっては各サービス提供者等から構成されるサービス担当者会議(ケアカンファレンス)において検討するが、要介護者や家族の希望を反映させるとともに、要介護者の承諾を得なければならない。要支援者に対する介護予防サービス計画は、地域包括支援センター等が作成する。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

保険給付の種類

介護保険の法定の保険給付には、要介護者に対する介護給付と要支援者に対する予防給付がある。

 介護給付には、(1)住み慣れた地域での生活を支えるため、身近な市町村で提供されることが適当なサービス類型として、市町村が事業者の指定・監督を行う地域密着型介護サービス(定期巡回・随時対応型訪問介護看護、小規模多機能型居宅介護、夜間対応型訪問介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、看護小規模多機能型居宅介護)と居宅介護支援、(2)都道府県および政令指定都市および中核市が事業者の指定・監督を行う居宅サービス(訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、特定施設入居者生活介護、福祉用具貸与、特定福祉用具販売)、施設サービス(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院・介護療養型医療施設)がある。なお、2018年度(平成30)から介護医療院が創設されたことに伴って、介護療養型医療施設は2024年度末で廃止される。

 予防給付には、地域密着型介護予防サービス、介護予防支援、介護予防サービスがある。

 なお、地域密着型サービスの利用は、原則として当該市町村の被保険者のみに限定されている。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

利用者負担

利用者負担は、原則として介護費用の1割、一定以上の所得のある者については2割または3割である。ただし、介護サービス計画作成の費用については全額が保険給付される。利用者負担については上限額が設けられており、世帯全体での1か月の負担額が一定額を超えた場合は、医療保険と同様に、超過分が高額介護サービス費・高額医療合算介護サービス費として払い戻される。

 なお、在宅と施設の利用者負担の公平性、介護保険と年金給付の調整の観点から、介護保険3施設(ショートステイを含む)における居住費(滞在費)および食費、通所系サービスにおける食費については、保険給付の対象外とされている。

 居住費は、個室の場合は減価償却費+光熱水費相当額、多床室の場合は光熱水費相当額である。食費は、食材料費+調理コスト相当額である。ただし、低所得者については、居住費・食費の利用者負担に上限額が設けられ、基準費用額と負担上限額の差額に相当する額について、介護保険から一定の特定入所者介護サービス費の支給(補足給付)を行うことにより、利用者負担を軽減している。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

地域支援事業

市町村は、要支援・要介護状態となることを予防するとともに、要支援・要介護状態となった場合においても、可能な限り、地域において自立した日常生活を営むことができるよう支援するため、次のような地域支援事業を行う。

(1)介護予防・日常生活支援総合事業(要支援者等に対する訪問事業、通所事業、生活支援事業、介護予防支援事業、その他介護予防事業)。

(2)包括的支援事業(地域包括支援センターの運営〈総合相談支援業務、権利擁護業務、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務、介護予防ケアマネジメント業務〉、地域ケア会議の充実、在宅医療・介護の連携推進事業、認知症総合支援事業、生活支援体制整備事業)。

(3)任意事業(介護給付費適正化事業、家族支援事業等)。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

費用負担

法定の保険給付に要する費用は、公費負担(50%)と保険料負担(50%)によってまかなわれる。

 公費負担の内訳は、居宅給付費については、国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%、施設等給付費(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、特定施設にかかる給付費)については、国20%、都道府県17.5%、市町村12.5%である。なお、国庫負担のうち5%は、保険者間の財政力格差を調整する調整交付金の財源にあてられる。

 保険料負担分は給付費の50%で、その総額を第1号被保険者と第2号被保険者が、それぞれ1人当りの全国平均の保険料が同じ水準となるように人数比で按分(あんぶん)して負担する。

 第1号被保険者の保険料の基準額は、市町村の介護保険事業の財政見通しに基づき、おおむね3年を通じ均衡を保つ水準として、市町村ごとに設定される。個々の被保険者の保険料は所得段階別に定められる。第1号被保険者のうち、年額18万円以上の老齢・退職、障害、遺族の年金受給者については、年金から特別徴収(天引き)し、その他の者については市町村が普通徴収(直接徴収)する。

 第2号被保険者の保険料は、医療保険料に上乗せして一括徴収し、介護給付費納付金として社会保険診療報酬支払基金に納付し、支払基金から市町村に交付する。医療保険料に上乗せされる第2号被保険者の保険料は、各医療保険の保険料算定方式に従って定められる。

 地域支援事業のうち介護予防・日常生活支援総合事業の財源は、第1号被保険者と第2号被保険者の保険料および公費でまかなう。その他の財源は、第1号被保険者の保険料と公費によってまかなう。

[山崎泰彦 2020年11月13日]

『大熊由紀子著『物語 介護保険――いのちの尊厳のための70のドラマ』上下(2010・岩波書店)』『池田省三著『介護保険論――福祉の解体と再生』(2011・中央法規出版)』『小竹雅子著『もっと変わる!介護保険』(2014・岩波書店)』『増田雅暢著『介護保険の検証――軌跡の考察と今後の課題』(2016・法律文化社)』『加藤久和・財務省財務総合政策研究所編著『超高齢社会の介護制度』(2016・中央経済社)』『山崎泰彦監修・吉田昌司編『改正介護保険の新しい総合事業のてびき』(2016・第一法規)』『増田雅暢著『逐条解説介護保険法』改訂版(2016・法研)』『二木立著『地域包括ケアと福祉改革』(2017・勁草書房)』『権丈善一著『ちょっと気になる医療と介護』増補版(2018・勁草書房)』『『介護保険制度の解説 平成30年8月版』(2018・社会保険研究所)』『介護保険制度史研究会編著『介護保険制度史――基本構想から法施行まで』新装版(2019・社会保険研究所)』『二木立著『地域包括ケアと医療・ソーシャルワーク』(2019・勁草書房)』『白澤政和著『介護保険制度とケアマネジメント』(2019・中央法規出版)』『中村秀一監修『介護保険担当者ハンドブック 2019』(2019・社会保険出版社)』『下野恵子著『介護保険解体の危機――誰もが安心できる超高齢社会のために』(2019・法政大学出版局)』『藤井賢一郎監修、東京都社会福祉協議会編『介護保険制度とは――制度を理解するために』改訂第14版(2019・東京都社会福祉協議会)』『結城康博著『介護職がいなくなる――ケアの現場で何が起きているのか』(2019・岩波ブックレット)』『上野千鶴子・樋口恵子編『介護保険が危ない』(2020・岩波ブックレット)』『全国老人保健施設協会編『介護白書』各年版(オフィスTM、TAC出版発売)』『沖藤典子著『介護保険は老いを守るか』(岩波新書)』『結城康博著『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』(岩波新書)』『小竹雅子著『総介護社会――介護保険から問い直す』(岩波新書)』

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知恵蔵 「介護保険制度」の解説

介護保険制度

これまで主に家族が担ってきた寝たきりや認知症などで介護が必要な高齢者について、社会保険の仕組みによって社会全体で支える制度。2000年4月から始まった。原則として65歳以上の高齢者が市区町村に申請して要介護認定を受け、その度合いに応じて介護サービス計画(ケアプラン)を作成、在宅サービスか施設サービスのいずれかを受けることができる。これまで介護サービスは措置制度のもと行政が決めていたが、利用者が民間も含めたサービス事業者と契約することになった。保険料を徴収し、制度を運営する主体(保険者)は市町村。保険料を払う被保険者は40歳以上で、うち65歳以上を第1号被保険者、40歳から64歳までを第2号被保険者と区分する。第2号被保険者も初老期認知症など16種類の特定疾病について介護サービスを受けられる。利用者は原則として介護費用の1割を自己負担する。それ以外の9割の費用は半分が保険料、残り半分が公費で賄われる。

(梶本章 朝日新聞記者 / 2007年)

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