翻訳|art therapy
各種の芸術活動を通じて病気を治療する方法の総称。とくに精神科の疾患がその対象となり,今日ではほとんどの精神病院で盛んに行われている。芸術のジャンルに合わせて,人物や風景を描かせる絵画療法,作曲・合唱・鑑賞をさせる音楽療法,俳句や詩文を作らせる詩歌療法,ドラマを演じさせる心理劇,音楽に合わせて踊らせる舞踊療法などに分かれるが,治療の主眼はむろん優れた芸術作品を作り出すことにあるのではなく,さまざまの表現活動や創造体験を通して自己の内面を吐露し,洞察し,変容させていく過程にある。
芸術療法の起源はきわめて古く,アリストテレスが悲劇の効用としてカタルシスを説いた古代ギリシアにさかのぼり,当時〈音楽の処方〉として竪琴が用いられた記録もある。音楽はその後もメランコリーの治療に使われたようで,ルネサンス期のデューラーの木版画《男風呂》(1496-97ころ)にそれが図解されている。ただし,芸術療法として一般化するのは,やはり精神科の医療が近代化する20世紀になってからで,これを研究対象とする国際学会(国際表現精神病理学会Société Internationale de Psychopathologie de l'Expression,略称SIPE)も1959年に組織され,〈芸術療法士art therapist〉という専門職も欧米では正規に設けられている。既述のように,芸術療法は一種の創造療法(クリエーション療法)であるのが原則だが,日本などではまだ再創造(レクリエーション)の域を脱しない部分も少なくない。
執筆者:宮本 忠雄
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