アレルギー性疾患患者のみかた(検査・診断)

内科学 第10版 の解説

アレルギー性疾患患者のみかた(検査・診断)(アレルギー性疾患)

(1)アレルギーとは
 アレルギー(allergy)という言葉は,ギリシャ語のαλλος(allos:変じた)とεργον(ergon:反応)とを結び合わせて,1906年,スイスのVon Pirquetが提唱した造語である.すなわち,「反応性が変化している」という意味であり,通常の予測される反応とは異なった生体の反応を示す概念として提唱された.今日では,アレルギーとは,「免疫反応に基づいて起きる,生体に対する全身的あるいは局所的な障害」を広く意味する概念としてとらえられ,用いられている.
 アレルギーの病態を機序によって分類する場合,CoombsとGellによる古典的な分類(I型からⅣ型(あるいはV型))が用いられることが多い【⇨10-22-1)】.
 臨床的には,この中で,特に抗原抗体反応に基づいて起きるI型・即時型アレルギー反応(別名アトピー型反応)の病態を,狭義のアレルギー性疾患として扱うことも多い.これには気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎アナフィラキシー食物アレルギーなどが含まれる.一方で,アレルギー性の真菌症,アトピー性皮膚炎や薬剤アレルギーのある種のタイプのように,I型反応にとどまらず,Ⅲ型やⅣ型の反応も関与して発症するアレルギー反応もある.実際の臨床の場においては,対象とする症状がどの型の反応に属するかを厳密に考慮しながら診断や治療に当たることは,I型のアナフィラキシー型反応の場合を除いては少ない.
(2)問診
(医療面接) アレルギー性疾患の問診では,以下の点に重点・焦点をおいて行う.・患者自身ならびに家族の既往歴・現病歴・症状出現の誘因・惹起条件・環境歴(季節,住居,職場など)・治療歴(これまで当該症状にどのような治療がされてきたか)
 原因・誘因となっている抗原(アレルゲン)は,問診によりある程度推定することが可能な場合も多い.疾患ごとに,原因となりやすいアレルゲンや誘因・条件はある程度決まっているので,それらのアレルゲンに対する暴露を引き起こすような環境や,症状発現の時間的・空間的条件,誘因に焦点を当てて病歴を聴取する.疾患ごとのポイントを以下に示す.
a.気管支喘息
 原因アレルゲンとして,室内環境中のアレルゲンである家塵(ハウスダスト)が最も頻度が高く,その主要アレルゲンは,わが国ではチリダニヒョウヒダニ)である.その他のアレルゲンとしては,ペット類(イヌ,ネコ,ハムスターなど),真菌類(アルテルナリア,アスペルギルスカンジダなど),昆虫類(ゴキブリなど)などがある.これらのアレルゲンに暴露しやすい環境が周囲にないかどうかを確認する.症状を引き起こす誘因として,感冒罹患(上気道へのウイルス感染)のほかに,ストレス,タバコ煙への暴露,アルコール摂取,薬剤(特に消炎鎮痛薬)の服用,女性であれば生理の前後,感情の過剰な吐露などについて聞く.さらに,症状が明け方に出現することも喘息を強く疑わせる.
b.アレルギー性鼻炎・花粉症
 症状の発現が通年性であれば,ダニ抗原が,季節性であれば,スギ・ヒノキ・ブタクサなどの花粉抗原が原因である可能性が高い.さらに,咳症状もある場合,潜在的に気管支喘息を合併している可能性が高い.シラカバに感作されている患者では,抗原分子の交叉性によって,モモ,キウイ,グレープフルーツなどの果実類やラテックスゴムに対して反応を起こすことがあり(口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome:OAS),あるいはラテックス・フルーツ症候群),フルーツの摂取やゴム手袋の使用歴についても確認しておく.
c.皮膚アレルギー性疾患
じんま疹・アトピー性皮膚炎・接触性皮膚炎など) じんま疹はI型の即時型反応であるので,直前に摂取あるいは服用した食物や薬物が原因として推定される.一方,接触性皮膚炎はⅣ型の遅延型反応であり,衣類や金属アクセサリーなどでしばしば引き起こされる.症状の出現する数日前からの使用歴を確認する.
d.アナフィラキシーショック
 原因と推定される食物の摂取や薬剤の投与から症状発現までの時間が短く,症状の程度が強いものほど,原因抗原として疑わしい.該当食物や薬剤の摂取・投与は以後避けるのが原則である.
(3)身体所見
 アレルギー性疾患の身体診察では,全身を観察し,ほかのアレルギー性疾患が合併していないかについてもチェックすることが大切である.
1)気管支喘息:
呼吸音の聴取で,呼気の気流制限がないかチェックする.気道のわずかな炎症を検出するためには,安静呼吸だけでなく,被験者に強制呼気をしてもらいながら気道の狭窄音を聴取することが必要である.
2)アレルギー性鼻炎:
鼻粘膜の腫脹などの所見以外に,眼瞼結膜の充血や流涙などの眼の所見・症状や気管支狭窄音にも留意する.
3)皮膚疾患:
現病による所見以外にかゆみによる掻爬で生じた二次性病変もチェックする.
4)アナフィラキシーショック:
意識状態,脈拍が触知可能か,自発呼吸の有無をまず確認する.異常がみられる場合には,直ちに救命措置に移る.同時に,皮膚のじんま疹や潮紅・浮腫,喉頭の狭窄音,腸管の蠕動音などにも注意する.
(4)検査
 アレルギー疾患の検査法には,患者自身の生体での反応を見るin vivo(生体内)検査法と,患者から採取した血清や細胞を用いたin vitro(試験管内)検査法とがある.前者の方法は鋭敏で感度が高いが,しばしばアナフィラキシー反応などの強い反応を引き起こす可能性がある.
a.in vivo(生体内)
反応による検査
 ⅰ)皮膚テスト
一度に多種類のアレルゲン検索が可能であり,スクリーニングに適している.いくつかの方法がある.
1)プリックテスト・
スクラッチテスト:
前腕屈側の皮膚をアルコール綿で消毒した後に,無菌の針で軽く引っ掻く(プリック)か,数mm擦り(スクラッチ),そこにアレルゲンエキスを垂らし,15~20分後に生じる膨疹と紅斑(発赤)の大きさを測って判定する.皮膚組織に分布する肥満細胞マスト細胞)の細胞膜上に抗原(アレルゲン)特異的IgE抗体が固着して“感作された”状態では,滴下されたアレルゲンとの間で抗原抗体反応が起きてマスト細胞が活性化を受けることでヒスタミンが放出され,組織の血管透過性が亢進する結果,膨疹と紅斑(発赤)が生じる.
2)皮内テスト:
前腕屈側に低濃度のアレルゲンエキスを皮内注射し,膨疹と紅斑(発赤)を測定する.原理はプリック/スクラッチテストと同じである.プリック/スクラッチテストと比べて,アレルゲンがより深く侵入するので100倍感度がよい半面,強い反応を惹起し,アナフィラキシー反応を起こす危険性がある.したがって,プリック/スクラッチテストをまず行い,反応の強さを確認してから実施することが望ましい.皮内反応は,15~20分後に即時型の反応を検出する以外に,次に述べるパッチテストと同じく,24~48時間後にⅣ型の遅延型アレルギー反応を検出する目的でも用いられる.
3)パッチテスト:
Ⅳ型の遅延型アレルギー反応を検出するために用いられ,アレルギー性接触性皮膚炎や薬剤アレルギー反応の検出・原因検索に有用である.アレルゲンエキスを滴下したパッチを,前腕・上腕・背中などの健常部の皮膚に貼付し,48時間刺激する.観察・評価はパッチを剥がした後,20~30分後,(24,48),72,96時間後に行う.
 ⅱ)誘発試験
 被疑アレルゲンを患者に実際に投与し,症状が惹起されるか観察する検査法である.診断のための確定試験であるが,ときとしてアナフィラキシーなどの強い症状を惹起する可能性がある.実施にあたっては,適応を熟慮した上で,患者に検査の意義,方法,起こりうる合併症とそれに対する処置を十分に説明し,文書で同意を取得した上で実施することが重要である.
1)吸入誘発試験:
気管支喘息の原因アレルゲンの同定に用いられる.段階的に希釈したアレルゲンエキスをネブライザーで吸入投与し,その都度直後に1秒量あるいは呼吸抵抗を測定する.日本アレルギー学会標準法では,1秒量を指標とし,前値の20%以上低下した場合に吸入誘発陽性と判定し,それ以上の濃度の吸入は行わずに,症状と1秒量を指標に経過を観察する.最終吸入直後~20分後にかけて起きる即時型喘息反応に加えて,4~10時間後に生じる遅発型反応まで観察する.特に,アスペルギルスなどの真菌抗原の吸入では,強い遅発型反応を引き起こす可能性があるので十分な注意が必要である.検査前12~24時間は気管支拡張薬やステロイド薬の使用を中止しておくことが一般的である.アレルゲンのほかに,冷気や薬剤(スルピリンなど)を吸入させることもある.
2)鼻粘膜誘発試験:
両側の下鼻甲介の粘膜に,アレルゲンを滲み込ませた濾紙を留置するか,あるいは抗原液を直接噴霧して,症状の誘発と鼻粘膜の発赤・腫脹を観察する.通常は即時型反応をみるが,4~10時間後に生じる遅発型反応まで観察する場合もある.
3)眼結膜誘発試験:
眼球結膜にアレルゲンエキスを滴下し,眼瞼・眼球結膜の充血,瘙痒感,浮腫の出現の有無を観察する.抗原吸入誘発試験の即時型反応の陽性率と相関性が高いので,即時型喘息反応を検出するための代替検査となりうる.
4)食物負荷・除去試験:
食物アレルギーの原因食物抗原の確定や,特定の食物の除去療法を解除する場合に用いる.逆に,原因抗原と推定された食物を2週間摂取せずに症状が改善する場合には,その食物がアレルギー症状を惹起している可能性が高いと考えられる.このほかに,原因食物の推定には,患者に食事日記をつけてもらい,症状発現との関連を評価することもしばしば有用である.
5)薬剤チャレンジテスト:
診断確定のために用いることがあるが,薬剤アレルギーの臨床では,代替薬投与が可能であればそちらを投与し,診断確定目的のチャレンジテストは実施しないことが多い.むしろ,治療上投与せざるを得ない薬剤について,安全性を確認するために行う意味合いが強い.皮膚テストが可能な薬剤ならば,皮膚テストを優先する.経口チャレンジテストの場合,薬剤部の協力を仰ぎ,100倍,10倍に希釈した粉末やコントロール(ラクトースなど)も用いて実施する場合もある.経静脈投与の薬剤の場合,プリック/スクラッチテスト,皮内反応を実施して,陰性を確認してから実施することが望ましい.誘発試験がたとえ陰性であっても,実際に投与して症状を誘発することはあり得るので,完全に安全性が担保されるわけではない.
b.in vitro(試験管内)
反応による検査
 ⅰ)血清総IgE値・抗原特異的IgE抗体測定
 スクリーニングとして有用である.原因となるアレルゲンが明らかでなくても,血清総IgE値が高値を示せば,アレルギー性疾患の可能性がある.アトピー性皮膚炎症例では,しばしば10000 IU/mL以上の高値を示す.一方,後述する抗原特異的IgE抗体が検出されても,総IgE値が正常範囲にとどまることは日常診療でよく経験される.血清総IgE値の測定法には,放射性免疫吸着試験(radioimmunosorbent test:RIST)やラテックス比濁法などがある.前者は,抗IgE抗体を結合させたセファデックス粒子に,125Iで放射標識したIgEと被験者血清を同時に反応させると,血清中のIgE濃度が高いほど125I標識IgEの結合が阻害されることを利用した測定法である.
 一方,抗原特異的IgE抗体の測定法は,放射性アレルゲン吸着試験(radioallergosorbent test:RAST)が一般的である.濾紙に固相化したアレルゲンと血清とを反応させて形成されるアレルゲン-IgE抗体結合体に,125Iで標識した抗IgE抗体を結合させることで,当該アレルゲンに特異的に結合したIgE分子,すなわち抗原特異的IgE抗体を半定量的に測定する.現在,RAST法を改良した,CAP法,MAST法,FAST法,AlaSTAT法など多くの測定法があり,放射性同位元素ではなく酵素を用いた標識をする方法もある.これら各種の方法による測定結果には相関性が確認されており,基本的には大差はない.ただし,測定に用いるアレルゲンは必ずしも標準化されたものではないので,アレルゲンの種類によっては,結果が異なることがあり得る.抗原特異的IgEの存在は,その個体がそのアレルゲンに感作されていることを意味するが,そのアレルゲンが症状を惹起していることの直接証明にはならないことは常に留意する必要がある.
 ⅱ)ヒスタミン遊離試験
 末梢血中の好塩基球の細胞膜には,マスト細胞と同様に,高親和性のIgE受容体が存在し,感作の成立した個体では,アレルゲン特異的IgE抗体が結合している.この状態でアレルゲン刺激を加えると細胞がヒスタミンを放出するが,そのヒスタミンを測定することで,IgE抗体の存在を間接的に評価する方法である.
1)直接法:
細胞に直接アレルゲンを反応させる.アレルゲンがIgE抗体を介さずに直接細胞を刺激する可能性が否定できない.
2)間接法:
健常人の好塩基球を被験者血清と培養して感作しておき,そこにアレルゲンを添加する.ヒスタミンが有意に遊離されれば,血清中にアレルゲン特異的IgE抗体が存在することを意味する.
 ⅲ)沈降抗体
 アレルギー性気管支肺真菌症(allergic bronchopulmonary mycosis:ABPM)や過敏性肺炎などの,Ⅱ型およびⅢ型アレルギー反応が関与するアレルギー疾患では,診断確定のために抗原特異的IgG抗体(沈降抗体)の測定が重要である.測定には,沈降反応(ゲル内二重拡散法),凝集反応,補体結合反応などが用いられる.現時点では定性的な検査法であり,今後,定量的検査法の開発が望まれる.
 ⅳ)好酸球数
 末梢血あるいは,鼻汁・喀痰・粘膜組織の好酸球数は,しばしば病勢と相関し,その指標となる.ただし,好中球が優位な反応では増加しない.
 ⅴ)細胞性免疫検査
 前述した皮内反応やパッチテスト以外に,リンパ球幼若化(あるいは刺激)試験(lymphocyte stimulation test:LST),リンパ球混合培養,マクロファージ・白血球遊走阻止試験などがある.LSTはリンパ球の増殖を指標として抗原特異的な免疫応答を評価する方法であるが,偽陽性や偽陰性が多いことが問題となる.
c.その他
 たとえば呼吸器疾患における呼吸機能検査や気道過敏性試験など,アレルギーに直接関係しない,各疾患に特異的な検査法は,各論の項を参照のこと.
(5)診断
 診断は,問診,身体所見,検査所見を組み合わせて総合的に行う.前述したように,あるアレルゲンに感作されていることと,そのアレルゲンにより病態が引き起こされていることとは,必ずしも一致しない.確定診断は誘発試験に基づいて決定される.実際の臨床では,患者の利益と不利益を考慮した上であえて誘発試験までは実施せずに,臨床的に診断して治療に踏み切る事例が多い.[土肥 眞]
■文献
秋山一男:アレルギー性疾患患者のみかた(検査・診断).内科学(第9版),pp1118-1120,朝倉書店,東京,2007.宮本昭正監修:臨床アレルギー学(改訂第2版),南江堂,東京,1998.
日本アレルギー学会:アレルギー疾患診断・治療・ガイドライン2010.協和企画,東京,2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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