アート・アンサンブル・オブ・シカゴ(読み)あーとあんさんぶるおぶしかご(英語表記)Art Ensemble of Chicago

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

アート・アンサンブル・オブ・シカゴ
あーとあんさんぶるおぶしかご
Art Ensemble of Chicago

アメリカのジャズ・グループ。ピアニスト、作曲家のムハル・リチャード・エイブラムズ Muhal Richard Abrams(1930―2017)をリーダー格として、1965年シカゴで発足した「創造的音楽家の前進のための協会」Association for the Advancement of Creative Musicians、略称「AACM」を母体に、1968年にトランペット奏者レスター・ボウイLester Bowie(1941―1999)によって結成された。メンバーはボウイとサックス奏者のロスコー・ミッチェルRoscoe Mitchell(1940― )、同じくサックス奏者のジョセフ・ジャーマンJoseph Jarman(1937― )、ベース奏者のマラカイ・フェイバーズMalachi Favors(1927―2004)、ドラム奏者のドン・モイエDon Moye(1946― )からなる5人編成。1999年のボウイの死後も活動を継続している。

 結成の翌年の1969年にヨーロッパに渡り、パリを活動拠点として演奏を続け、シャンソン歌手ブリジット・フォンテーヌBrigitte Fontaine(1940― )のアルバム『ラジオのように』(1970)に参加するなど、およそ2年の滞欧で新たなコンセプトによるフリー・ジャズ・グループとしての評価を確立させた。

 彼らの演奏は個性的で、サックス奏者は、ソプラノ・サックス、アルト・サックス、テナー・サックス、バリトン・サックスなど、さまざまな楽器をもち替えて演奏し、またほかの楽器奏者も主たる楽器以外にパーカッションボイスなどあらゆる音響手段を演奏に導入している。またステージに膨大な数の楽器群を並べ、顔にペインティングを施し、演奏しつつ演劇的パフォーマンスを行うなど、総合芸術的要素を大胆に取り入れている。彼らは自分たちの音楽を「グレート・ブラック・ミュージック」とよび、アフリカン・アメリカンとしての自負心と、アフリカ大陸に由来する音楽文化をジャズ独自の即興演奏を通じて伝承しようとしている。

 音楽の内容は、ユーモアを込めた風刺を、卓越した演奏技術で表現するなど、フリー・ジャズの延長にありながら独自の知的洗練を感じさせる。

 こうした彼らの音楽の特徴は、グループの母体となったシカゴの「AACM」の理念によるところが大きい。それは1964年ニューヨークで起こった「ジャズの10月革命」とよばれるムーブメントに連なるもので、レコード会社、白人プロデューサーから黒人ジャズ・ミュージシャンが独立し、商業主義を排して黒人独自の音楽的創造性を確保しようという運動である。

 主要なアルバムに『苦悩の人々』People in Sorrow(1969)、『フェーズ・ワン』Phase One(1971)、『アーバン・ブッシュメン』Urban Bushmen(1980)、『エンシェント・トゥ・ザ・フューチャー』(1987)などがあり、また1974年(昭和49)の初来日以降数回来日し、日本における先端的ジャズ・ファンから高い評価を受けている。彼らのジャズ史的意義は、ジャズをあらためてアフリカの音楽文化に連なる「ブラック・ミュージック」の延長上にとらえたことにあり、また、即興性を強調したフリー・ジャズの可能性を、視覚的要素を含んだ多彩な演奏手段を用いて知的に追求したところにある。

[後藤雅洋 2017年11月17日]

『副島輝人著『現代ジャズの潮流』(1994・丸善)』

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