プラスミド(読み)ぷらすみど(英語表記)plasmid

翻訳|plasmid

デジタル大辞泉 「プラスミド」の意味・読み・例文・類語

プラスミド(plasmid)

細胞内にあり、染色体とは独立して存在する遺伝子環状DNAデオキシリボ核酸)であることが多く、遺伝子工学では大腸菌などのものをベクターとして用いる。

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精選版 日本国語大辞典 「プラスミド」の意味・読み・例文・類語

プラスミド

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] plasmid ) 細胞質中に、染色体とは独立に存在する遺伝因子総称。自律的に増殖することができ、また染色体中に取り込まれることもある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「プラスミド」の意味・わかりやすい解説

プラスミド
ぷらすみど
plasmid

細胞内で核や染色体と独立に存在し、自律的に自己増殖して子孫細胞に伝えられる遺伝要因。1952年にアメリカの遺伝学者レーダーバーグによって細菌類の染色体外遺伝要因に対して命名されたが、最近は細菌類に限らず真核生物をも含め、細胞質因子と同義に用いることが多い。プラスミドは小さな環状のDNA(デオキシリボ核酸)分子の場合が多く、細胞質で自己複製能力をもつDNA複製単位レプリコンである。大腸菌のプラスミドには、F因子、R因子コリシン因子など数種が知られ詳しく研究されている。F因子は分子量約6200万の環状DNAで、1細胞当り1個か2個含まれ、その細胞に接合能力を与える。R因子もF因子とほぼ同じ大きさで、いくつかの抗生物質など薬剤に対する抵抗性を支配している。コリシン因子は他の細菌を殺す作用をもつコリシンといわれる物質の生産を支配し、普通、一細胞に10個あるいはそれ以上含まれている。酵母では2ミクロンDNAとよばれるプラスミドがみいだされている。これは長さが2ミクロンのDNA分子で、一細胞当り50個余り含まれるが、その働きは不明である。

 プラスミドは遺伝子工学実験で遺伝子の運び手、すなわちベクターとして有用である。DNAの特定部位を切る制限酵素でプラスミドを切り、異なる種から分離した遺伝子をつなぐと組換えDNAができる。組換えDNAは、大腸菌などの生細胞に移入され、遺伝子の増殖、すなわちクローン化が行われる。遺伝子工学では、大腸菌のF因子やR因子のように自然のなかでみいだされるプラスミドの各種から有用な部分を取り出してつなぎ、小さな人工的プラスミドをつくり、ベクターとして用いることも多い。pBR322というプラスミドはこの一例で、DNA複製起点のほか、テトラサイクリンとアンピシリン抵抗性遺伝子をもつ分子量約260万の環状DNA分子である。このプラスミドは各種制限酵素による切断点をもつので、その位置に遺伝子をつなぎ、組換えDNAをつくり、大腸菌細胞に入れて遺伝子のクローン化に使われる。

[石川辰夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「プラスミド」の意味・わかりやすい解説

プラスミド
plasmid

染色体とは別個に,細胞の世代を通じて子孫に維持伝達されるために,自律的に増殖する遺伝因子の総称。細菌の染色体は大きな環状DNA分子であるが,これとは別に小さいが自律的に複製する環状DNA分子が細胞内にあって,通常の細胞の生存にとってあってもなくてもよい染色体外遺伝子がのっている。プラスミドには多くの種類が見いだされており,細菌の間を伝達するF因子,R因子,コリシン因子などのほか,自力では伝達できない因子も種々見いだされている。プラスミドのうち細胞宿主の染色体の上に挿入されて染色体といっしょに行動する特殊なものをエピソームepisomeと呼んでいる。この性質は接合や導入による遺伝子転移,遺伝子の組換えの実験に応用され,さらに,遺伝子を組み換えたプラスミドを介して,異なる生物種間で遺伝子の転移ができるようになり,遺伝子クローニングをはじめとする遺伝子工学への発展を導いた。しかし,このような実験には,人間や生物一般に有害な微生物を生みだす危険(バイオハザードbiohazard)がつねにある。遺伝子工学のDNA組換え実験には,用いるプラスミドと導入される宿主に関して安全性が求められており,自然環境下での生存能力が低い宿主と,接合能力がなく他の生物種に伝播(でんぱ)されないプラスミドを使うことが基本的な実験指針になっている。
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百科事典マイペディア 「プラスミド」の意味・わかりやすい解説

プラスミド

細胞の染色体とは別個に複製・増殖する遺伝因子の総称。ただしミトコンドリアなど細胞小器官のDNAは含まないのが普通。一般にプラスミドは細胞の生存にとって必須ではないが,細菌のF因子,R因子,コリン因子のように,それぞれ接合,薬剤耐性,抗菌物質の合成の機能をもつものもある。プラスミドのうち,宿主細胞の染色体に組み込まれるものはエピソームとも呼ばれる。遺伝子工学においては,プラスミドを利用して遺伝子組換えを行う。
→関連項目クローン根頭癌腫病耐性菌

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プラスミド」の意味・わかりやすい解説

プラスミド
plasmid

細胞質にあって染色体とは独立に自己増殖し,次世代に遺伝される染色体外性遺伝子のこと。多くのプラスミドは環状2本鎖 DNAであるが,酵母や放線菌で直鎖状プラスミドが見いだされている。通常細胞の生存には必須ではないが,プラスミドの持つ遺伝子によって細胞にいろいろな性質を与えることができる。古典的性因子 (Fプラスミド) ,バクテリオシン産生プラスミド (Col E1など) ,薬剤耐性因子 (Rプラスミド) ,病原性決定プラスミド,抗生物質合成系に関与するプラスミド,物質代謝系に関与するプラスミドなどがある。また組み換え DNA実験においては,プラスミドに目的とする DNA断片を組み込み,細胞内に導入し,遺伝子を増殖あるいは発現させるベクターとして広く利用されている。

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化学辞典 第2版 「プラスミド」の解説

プラスミド
プラスミド
plasmid

微生物由来の環状2本鎖DNA.生命活動に必須の遺伝子を含む染色体DNAとは独立に存在し,抗生物質耐性遺伝子などを含むことから,オプションのDNAともよばれる.異種DNAを大腸菌に導入して増やす場合のベクターとして利用されている.

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栄養・生化学辞典 「プラスミド」の解説

プラスミド

 原核細胞がもつ染色体DNAとは異なる独立した環状のDNA.染色体DNAとは独立して複製されることから,遺伝子工学で,DNAを増やす方法に採用される.

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世界大百科事典(旧版)内のプラスミドの言及

【核外遺伝】より

…細胞質遺伝子およびこの遺伝子に支配される形質の遺伝を細胞質遺伝という。 生物はまたその細胞質中に自己増殖できるプラスミドウイルス,バクテリア様の寄生・共生微生物をもっていることが多い。これらを感染因子という。…

【キラー】より

…毒素を産生せず耐性もないセンシティブは純粋培養すれば生存する。 キラー毒素の構造遺伝子も耐性に関与する遺伝子も,細胞質中に存在するウイルス様粒子の二重鎖RNA(染色体遺伝物質以外の遺伝物質ということでプラスミドといわれる)上にある。パンコウボのウイルス様粒子中には長短2本の二重鎖RNAがあるが,キラー発現には短いほうのRNAが直接に関与していて,長いほうのRNAは2種のRNAの複製に必須なものと考えられている。…

【組換えDNA】より

…組換えDNAの作成,または組換えDNAを用いる実験を組換えDNA実験という。具体的には,ある特定遺伝子(たとえばインシュリン遺伝子)のDNA断片を,自律増殖可能なプラスミドやウイルスDNA中に組み込み,大腸菌や酵母のような宿主細胞中で増殖させると,この特定遺伝子DNAはプラスミドDNAと区別されずに複製し,遺伝子DNAが大量にしかも純粋に得られる(図参照)。条件をうまく設定すると,遺伝子は宿主細胞中で転写,翻訳されタンパク質を合成する。…

※「プラスミド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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