ウマル1世(その他表記)`Umar b.al-Khhaṭṭāb

改訂新版 世界大百科事典 「ウマル1世」の意味・わかりやすい解説

ウマル[1世]
`Umar b.al-Khhaṭṭāb
生没年:?-644

第2代正統カリフ在位634-644年。イスラムのパウロとも称され,イスラム国家の真の建設者。オマルとも呼ばれる。初めメッカで預言者ムハンマドを迫害したが,改悛してムスリムとなった。ムハンマド没後アブー・バクルのカリフ就任を推進してアンサールの野望を断った。第2代カリフに就任後は,イラクシリア,エジプトの征服を指導し,軍営都市(ミスル)の建設,アミールアーミル任命,アラブ戦士へのアターリズクの支給など,イスラム国家の組織化に全力を傾注した。638年シリアのジャービヤに向かい,直接征服軍に指示を与え,次いでエルサレムの征服を確認した。イスラム紀元ヒジュラ暦)の制定,ディーワーンの創設,カリフの称号としてアミール・アルムーミニーン(信者の長)の採用などを行った。アラビア半島からユダヤ教徒を追放したのも彼であったが,私怨によりペルシア人奴隷に暗殺された。娘ハフサはムハンマドの妻の一人。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウマル1世」の意味・わかりやすい解説

ウマル1世
ウマルいっせい
`Umar ibn al-Khattāb

[生]586頃.メッカ
[没]644. メジナ
イスラム国家第2代カリフ (在位 634~644) 。クライシ族アディー家出身。最初はイスラム教徒の迫害者であったが,のち改宗。預言者ムハンマドの没後,アブー・バクルをカリフに推してイスラム教徒の統一を守り,その没後カリフに就任した。彼の治下でイスラム教徒は大征服を進展させ,イラク,シリア,エジプトを征服し,ササン朝を滅ぼした。征服地には軍事上の拠点となる基地都市 (→ミスル ) を建設し,アラブ軍人をミスルに登録して年金を支給した。アラブ軍人には戦利品となった動産を分配したが,土地は分配せず,政府がそこから租税を徴収して国庫に納め,それを年金として軍人に分配した。彼は初めてアミール・アルムーミニーンと称し,それが歴代カリフの称号となったが,それは政治・軍事上のカリフの指導権を強調するためであった。イスラム国家の諸制度の創設に果した彼の役割は大きく,後世の伝承学者はあらゆる制度の起源を彼に求めている。

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世界大百科事典(旧版)内のウマル1世の言及

【イスラム】より

…イスラム時代の初期,イスラム教徒を意味する用語として普通に用いられていたのは,ムスリムではなくムーミンであった。このことはウマル1世の用いたカリフの称号がムスリムたちのアミール(アミール・アルムスリミーン)でなく,ムーミンたちのアミール(アミール・アルムーミニーン)であったことによく示されている。コーラン49章14節に,〈遊牧民たちは“我々は信じるāmannā”と言っている。…

【エルサレム】より

…614年ササン朝ペルシアのホスロー2世の軍がエルサレムを占領し,イエス磔刑に用いられたと伝えられる十字架を持ち去る事件がおき,629年ビザンティン皇帝ヘラクレイオスが十字架を奪還してエルサレムへの勝利の帰還をとげるが,イスラム教徒のアラブ軍がエルサレムを包囲するのは,それからわずか8年後の637年であった。 638年,エルサレム総大主教ソフロニウスSophroniusはカリフのウマル1世に降伏し,カリフは自ら同市に赴いた。彼はソフロニウスに会見し,キリスト教徒住民にジンミーとしての安全と教会の保護とを保証するとともに,預言者ムハンマドのミーラージュの出発点とされた岩を堆積物の下から発見して,そのかたわらでの礼拝を指揮したといわれる。…

【ヒジュラ】より

…また大征服の時代に征服地のミスルに来て戦いに参加することもヒジュラと呼ばれた。 ヒジュラがイスラム国家の発展の起点であったとの認識のうえに,後にカリフ,ウマル1世は,ヒジュラの行われた年の年初(622年7月16日)を紀元とするヒジュラ暦を採用した。後にアズラク派や創成期のムラービト朝で,外部から陣営に加わることをヒジュラと呼び,植民地時代の北アフリカやインドにおいて,異民族の支配から逃れてダール・アルイスラームに移住することもヒジュラと呼ばれた。…

【リズク】より

…アラブ戦士の場合,アターを戦士自身の本俸とすれば,リズクは扶養家族のための手当であり,戦士と家族の名がディーワーンに登録され,家族数に応じて大麦,小麦などの食糧品が現物で支給された。ウマル1世に始まるイスラムの租税制度では,播種地からは原則として単位面積当り一定額の貨幣と一定量の穀物が徴収された。穀物が現物で徴収されたのは,リズクとして支給する穀物の確保を意図したからであるが,地域によっては酢,蜂蜜などの特産品も現物で徴収され,リズクとして支給された。…

※「ウマル1世」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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