日本大百科全書(ニッポニカ) 「エングラー」の意味・わかりやすい解説
エングラー
えんぐらー
Heinrich Gustav Adolf Engler
(1844―1930)
ドイツの植物学者。北部ドイツの小都市ザガン(現、ポーランド)に生まれる。ブレスラウ大学に学び、ネーゲリに師事した。キール大学、ブレスラウ大学で教鞭(きょうべん)をとり、1889年からベルリン大学教授となり、ダーレム植物園を創設した。1913年(大正2)に研究のため来日。植物分類学、植物地理学を専門とし、著書『植物分科提要』Syllabus der Pflanzenfamilien(1892)、プラントルKarl Prantl(1849―1893)との共著『自然植物分科』Die Naturlichen Pflanzenfamilien全23巻(1887~1915)によって、植物界を「エングラーの大系」にまとめあげた。『提要』は、ディールズLudwig Diels(1874―1945)と共著で出された1936年版において11版を重ね、没後に12版が出されている。彼の植物分類系は、今日もっとも広く用いられているもので、世界の植物標本室や植物図鑑のほとんどが、科の配列順序をこれに従っている。彼はアイヒラーAugust Wilhelm Eichler(1839―1887)の分類系を継承し、構造の単純なものから複雑なものへ進化したという観点から、たとえば、被子植物の科を、花被(かひ)のないものから萼(がく)と花弁をもつものへ、離弁花から合弁花へ、離生子房から合生子房へ、子房上位から子房下位へと配列している。今日の系統分類学の水準からみれば、この配列が自然の系統関係を示しているとはいいがたいが、この分類が広く用いられているのは、配列の原理が単純で、実用的な点に加えて、地球上のすべての植物を網羅した点において、他に匹敵するものがないことによると思われる。
[森田龍義]