改訂新版 世界大百科事典 「オオヤマネコ」の意味・わかりやすい解説
オオヤマネコ (大山猫)
lynx
Felis lynx
尾が短く,耳の先に長毛のある中型の食肉目ネコ科の哺乳類。ユーラシアと北アメリカの亜寒帯林に分布する。体長85~110cm,尾長12~17cm,肩高50~75cm。積雪地に適応して四肢が長く,足底が大きく,パッド(蹠球(しよきゆう))の間と足の縁には毛を密生する。頭はまるく,ほおに長毛が生え,耳介の先端には長さ約4cmの黒毛の房がある。尾は短く端は黒色。体毛は軟らかく黄灰色ないし赤褐色で,ふつう四肢と腰に暗色の斑点がある。この斑点はきわめて顕著で,ほぼ全身に及ぶこともあるが,ほとんど無斑のものもあり一定しない。斑点がとくに顕著なイベリア半島のスペインオオヤマネコF.l.pardinusと,小型でボブキャットに似た北アメリカのカナダオオヤマネコF.l.canadensisはしばしば別種とされる。
森林とその周辺の低木林に単独でテリトリーを設けてすむ。テリトリーの広さは獲物の量に応じて1000haから1万haまで変化する。この中には休息所と通路があり,テリトリーの縁の通路には糞と尿でマーキングをする。また一定の木でつめを研ぎ,これもテリトリーの印として役だつ。休息所は樹洞,倒木の下,岩の裂け目などで,日中と夜はここで眠り,早朝と夕刻活動する。主食は地域によって異なり,カナダではユキウサギで,ウサギの数の増減に応じて約10年を周期に生息数が大きく変動することが知られている。しかし,北ヨーロッパでは主食はノロ(シカの仲間)である。そのほか,イノシシの子,リス,ネズミ,鳥なども食べる。交尾期の2~3月には雄どうしが闘う。妊娠期間67~74日,1腹1~4子。子は16~17日で目が開き,4週目に固形食をとり始めるが,乳は5ヵ月間飲む。子は1歳で独立し,雌は21ヵ月,雄は33ヵ月で性的に成熟する。天敵はオオカミとヒョウ。耳端の長毛は,音の方向を探知するうえで重要な役割をするといわれる。毛皮が優良なため乱獲され,各地で生息数が激減しつつあるが,とくにスペインオオヤマネコは危険な状態にある。
執筆者:今泉 吉典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報