ジャコウジカ(読み)じゃこうじか(その他表記)musk-deer

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャコウジカ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウジカ
じゃこうじか / 麝香鹿
musk-deer

哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目シカ科ジャコウジカ属に含まれる動物の総称。このMoschus属は小形ジカの仲間で3種があるが、角(つの)がないことや胆嚢(たんのう)をもつことなど一般のシカとは異なる。また、雄には長大な上顎(じょうがく)犬歯があるだけでなく、他のシカ類にみられる眼下腺(がんかせん)や足の腺はなく、かわって尾腺と、下腹部に大きな麝香腺がある。名はこの麝香腺に由来し、ここから発情期に約30グラムのじゃ香が採取されるため捕獲され頭数が減少傾向にあり、ワシントン条約などによる取引制限がなされている。シベリアジャコウジカM. moschiferusが体高60~70センチメートルでもっとも大きく、分布ももっとも広く、シベリア東部、西モンゴル、中国北部、朝鮮半島などの山林にすむ。大群はつくらず1~3頭ほどで暮らし、朝夕に草や木の葉などを採食する。ヤマジャコウジカM. chrysogasterは中国中部、ヒマラヤ地方に、コビトジャコウジカM. berezovskiiは中国北西部の森林にすむ。

増井光子


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改訂新版 世界大百科事典 「ジャコウジカ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウジカ (麝香鹿)
musk-deer

現生の偶蹄目ジャコウジカ科の原始的な特徴を備え,雌雄ともに角がなく,代りに,雄では上の犬歯がきば状に発達する。また,雄は下腹部に麝香(じやこう)腺をもち,この分泌物と糞を使ってなわばり内を定期的に標識する。体長約90cm,尾長5cm,体重9~11kg。体色は黄灰色から暗褐色。中央アジアから中国,朝鮮半島にかけて分布するシベリアジャコウジカMoschus moschiferus,コビトジャコウジカM.berezovskiiは,標高1500~3000mの森林にすみ,ヒマラヤやチベットのヤマジャコウジカM.chrysogasterは森林限界よりも上にすむ。1頭または2~3頭で生活し,昼間は浅いくぼみに座って休み,おもに朝と夕方に出歩いて,草,コケ,地衣などを食べる。1頭ずつが約2.5km2のなわばりをもち,岩場などを避難場として使っている。雌は妊娠期間160日前後で,5~6月に1~2子を生む。子には白の斑紋があり,1年で成熟する。麝香腺からとれる麝香は,香科あるいは漢方薬として珍重される。
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百科事典マイペディア 「ジャコウジカ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウジカ

偶蹄(ぐうてい)目ジャコウジカ科の哺乳(ほにゅう)類5種の総称。体長80〜100cm,肩高50〜70cmほど。雄も角がないが,上顎の犬歯は長く牙状。毛は密生し,灰褐色〜金色まで,背面には灰黄色斑が散在する。カシミールのギルギット〜ヒマラヤ,中国,シベリア東部などに分布。山地の森林に1〜2頭ですみ,夜明けと夕暮れに出て木の葉,草,コケなどを食べる。1腹1〜2子。雄の包皮腺から麝香(じゃこう)がとれる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジャコウジカ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウジカ
Moschus moschiferus; musk deer

偶蹄目シカ科。体長 1m,体高 60cm。雌雄ともに角をもたない。背が丸く,原始的なシカである。上犬歯が発達し,牙状に下方に突き出ている。雄は腹部に麝香 (じゃこう) 腺をもち,繁殖期に強い臭いを出す。この麝香腺から分泌される分泌液は麝香の原料とされる。単独または1対で標高 2000~3000mの高地の森林にすむ。早朝または夕刻に活動し,草やコケ,地衣類などを食べる。中央アジア,中国東北地方,朝鮮半島,シベリアに分布する。

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