オーストロネシア語族(読み)オーストロネシアゴゾク

デジタル大辞泉 「オーストロネシア語族」の意味・読み・例文・類語

オーストロネシア‐ごぞく【オーストロネシア語族】

マレーポリネシア語族

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精選版 日本国語大辞典 「オーストロネシア語族」の意味・読み・例文・類語

オーストロネシア‐ごぞく【オーストロネシア語族】

〘名〙 東はイースター島ラパヌイ語から西はマダガスカルマラガシ語、南はニュージーランドマオリ語から北は台湾の高砂族諸語ハワイ語にいたる広大な地域に話される諸言語を含む大語族で、おそらく五〇〇以上の言語を含む(パプア諸語オーストラリア先住民の諸言語は含まれない)。古くはマライ‐ポリネシア語族とも。西部語派(ヘスペロネシア語派とも)と東部語派(オセアニア語派とも)に分けられる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「オーストロネシア語族」の意味・わかりやすい解説

オーストロネシア語族
おーすとろねしあごぞく

西はアフリカ大陸南東洋上のマダガスカル島(マラガシー民主共和国)のマラガシー語から、東は南アメリカのチリ領イースター島のラパヌイ語まで、北は台湾の高山(こうざん)族諸語、アメリカ合衆国ハワイ州のハワイ語から、南はニュージーランドのマオリ語まで広い地域に行われる現地諸言語の系統的総称。マライ・ポリネシア語族南島語族)ともいわれ、その総数は約1000に達する。ただし、この地域に含まれるマレー半島ニューギニア島の内陸部の言語、オーストラリア先住民の言語などはこの語族に属さないが、これらはオーストロネシア民族が移動してくる以前の先住民族の言語である。オーストロネシア民族のふるさとはアジア大陸南部(現中国の雲南省あたり)にあったと考えられ、紀元前1万年ごろにはその一派がすでに台湾に渡っていた。その後何千年間にもわたって、押し出された民族が現在の地域に広がった。現在の語族はさらに語派に分けられ、(1)ヘスペロネシア語派 マラガシー語、マレー語、ジャワ語タガログ語、セブ語、ミクロネシアチャモロ語パラウ語など、(2)メラネシア語派 インドネシア東部のビアク語、ビスマーク諸島からニュー・ヘブリデス諸島、ニュー・カレドニアの諸言語、フィジー語、ミクロネシアのほとんどの言語、(3)ポリネシア語派 ハワイ語、ラパヌイ語、マオリ語を頂点としてその大三角形に取り囲まれた地域内の東部諸語、サモア語・ミクロネシアのカピンガマランギ語・ヌクオロ語などのサモイック外郭諸語、トンガ語を含むトンギック諸語からなる。

 台湾の高山族諸語は(1)に属するが、その音韻的文法的古風さによって独立した一語派とされることもある。書記言語としての歴史をもつのは、7~8世紀から南インド系パッラバ文字による碑文を残したジャワ語、マレー語のみで、メラネシア・ポリネシア諸語に文字の伝承はない。イースター島の絵文字(ロンゴロンゴ)はまだ解読に成功していない。

 言語的特徴として、(1)は原オーストロネシア語の祖語音と祖語形をもっともよく保持し、(2)(3)となるにしたがって、祖語音の数は変化して減少し、祖語形は開音節化する傾向が著しい。次に身体語彙(ごい)の一部(「耳」「胸・乳」「へそ」)を示すが、すべて一つの祖語形から変化した形である。

 マラガシー語 tadìny, hóho, fòitra
 タガログ語 tainga, suso, pusod
 ブヌン語(台湾) tangiya, suso, pusoh
 フィジー語 daliga, sucu, vicovico
 ラパヌイ語 taringa, u'u, pito
 文法的には、(1)は接辞(接頭辞・接中辞・接尾辞)を盛んに活用して派生語を生み出すが、(2)(3)となるにつれて接辞の使用は低下し、また痕跡(こんせき)的に残るのみとなる。ことに接中辞はまったくみられない。(1)には前鼻音化現象が一般的にみられ、接頭辞と語根との間に連結のための鼻音が挿入、発生する。タガログ語の例ではma-takot「恐れる」(語根takot)に対し、鼻音形はma-nakot「脅かす」となり、文法的機能の違いが発生する。また接中辞-in-を活用してt-in-akot「脅かされた(完了)」のように受動形をつくる。語彙面で、フィリピンとインドネシアにまたがる(1)は、紀元前後からインド文化の影響を強く受け、サンスクリットからの借用語が多くみいだされる。語順は、(1)(2)では主語―述語―目的語が一般的であるが、(3)では述語―主語―目的語(または述語―目的語―主語)が原則的となる。ただし、(1)のタガログ語もこの語順が普通。(2)のなかには主語―目的語―述語となるものがあり、ニューギニア島(イリアンジャヤ州)のトバティ語では「私は水をもう飲んだ」をneg(私) naan(水) ninj(すでに)ung(飲む)というが、このような語順は先住民族の言語(パプア諸語)の影響を受けてできたものと考えられる。

 オーストロネシア語族と日本語との関係については、日本語の底層言語としてあるいは混合言語として関与したとする仮説があるが、いまだ確定的なことは不明である。

[崎山 理]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オーストロネシア語族」の意味・わかりやすい解説

オーストロネシア語族
オーストロネシアごぞく
Austronesian languages

アウストロネシア語族,マレー=ポリネシア語族,南島語族ともいう。西はマダガスカル島から東はイースター島にかけて,北は台湾から南はニュージーランドに及ぶ南太平洋上の (ニューギニア島とオーストラリアを除く) 島々,ならびに東南アジアの大陸の一部をおおっている,同系の諸言語から成る語族。その内部はインドネシア語派メラネシア語派ポリネシア語派の3つに下位区分されることが多いが,メラネシア諸語とポリネシア諸語とをまとめて東部語派とし,インドネシア諸語を西部語派とする2分法を主張する学者もある。これらの分化以前の祖語は大陸にあったのではないかとみられている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「オーストロネシア語族」の解説

オーストロネシア語族(オーストロネシアごぞく)
Austronesian

かつてフンボルト(ヴィルヘルム・フォン)によってマラヨ・ポリネシア語族と呼ばれた。インド洋,太平洋の熱帯,亜熱帯に広く分布する。帰属する言語数は約500種で,インドネシア語派とオセアニア語派とに区分される。前者は台湾や東南アジア島嶼部の言語を含み,後者はメラネシアミクロネシアポリネシアの言語を含む。ポール・ベネディクトは,タイ・カダイ語族との同系性を提唱している。

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改訂新版 世界大百科事典 「オーストロネシア語族」の意味・わかりやすい解説

オーストロネシア語族 (オーストロネシアごぞく)

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百科事典マイペディア 「オーストロネシア語族」の意味・わかりやすい解説

オーストロネシア語族【オーストロネシアごぞく】

アウストロネシア語族

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世界大百科事典(旧版)内のオーストロネシア語族の言及

【アウストロネシア語系諸族】より

アウストロネシア語族つまり南島語族ないしマレー・ポリネシア語族に属する言語を用いる諸族の総称。その分布域は東はイースター島から西はマダガスカル島にまで及ぶが,その原郷は,中国大陸南部かあるいは台湾であったと考えられる。その理由は,アウストロネシア語族のなかで最も早く分岐したと思われる台湾諸語が台湾にあり,アウストロネシア語と親縁関係があると思われるアウストロアジア諸語やカダイ諸語が華南からインドシナにかけて分布しているからである。…

※「オーストロネシア語族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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