改訂新版 世界大百科事典 「パプア諸語」の意味・わかりやすい解説
パプア諸語 (パプアしょご)
Papuan
東側は独立国パプア・ニューギニア,西側はインドネシア共和国イリアン・ジャヤ州から構成されるニューギニア島を中心に,インドネシアのハルマヘラ島北部,ティモール島東部,またニューギニア島北東のニューアイルランド島,ニューブリテン島の一部で話される言語の総称。その総数は数百を下らないと推定される。パプアという名称はその形質的特徴である〈髪のちぢれた〉を意味するマレー語papuahをヨーロッパの航海者が用いたとする説が有力である。ただし現在,インドネシア側ではこの名称は蔑称(べつしよう)であるとして好まれない。また〈ちぢれ毛〉という特徴をもつのはパプア諸語の話し手に限られるわけでなく,ニューギニア島周辺からメラネシアにかけてのアウストロネシア語系諸族の特徴でもある点に注意する必要がある。パプア諸語は隣り合って話されるアウストロネシア語族に属さないという意味で,非アウストロネシア諸語Non-Austronesian(略してNAN)といわれることもある。パプア諸語は,ごく一部を除き比較言語学的な手続きによってその相互の系統関係の証明がまだできていない。現在の分類法は,もっぱら語彙(ごい)統計学的方法にもとづき基礎語彙の何%を共有するかによって決められる。たとえばワームStephen A.Wurmは12%を共有すれば分類学の〈門phylum〉を形成するとして,ニューギニアを東西に横断する〈中央ニューギニア大語族〉を立てたが,その後修正を受けた。パプア諸語の言語的特徴は一様ではないが,すべてに共通する点として語順は主語-目的語-述語となり,周辺のアウストロネシア語族の言語のなかでもトバティ語,モトゥ語などはこの語順の影響を被って本来の主語-述語-目的語の語順をパプア型に変えてしまった。
執筆者:崎山 理
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報