日本大百科全書(ニッポニカ) 「カリバチ」の意味・わかりやすい解説
カリバチ
かりばち / 狩蜂
wasps
昆虫綱膜翅(まくし)目細腰(さいよう)亜目の一群である有剣(ゆうけん)類Aculeataに属する一群からハナバチを除いたハチ類をいう。カリウドバチ(狩人蜂)ともいう。カリバチはほかの昆虫やクモを刺して麻痺(まひ)させ、巣に持ち帰ってそれに産卵し、幼虫の餌(えさ)にするハチで、広義に解釈すると6上科にわたっている。このうち、原始的なアリガタバチ上科とツチバチ上科のものは、すべて外部捕食寄生生活をしていて、本格的な狩猟型はみられないが、すこし進んだものは寄主の巣を補修して自分の幼虫の巣につくりかえる。つまりヤドリバチからカリバチの移行型である。ベッコウバチ上科とアナバチ上科では、このような移行型のものはきわめて少数の属にしかみられず、ほとんどが営巣狩猟型で、自分で幼虫の飼育のための巣をつくる。アリ上科、スズメバチ上科では、外部捕食寄生型はまったくみられず、その巣も、幼虫のための巣から、自分と幼虫との巣に、また自分と成長した自分の家族との巣にまで発展させる。
アリガタバチ上科では、アリガタバチ科が鱗翅(りんし)目や甲虫目の幼虫に、カマバチ科がウンカ、ヨコバイ、アワフキムシなどの半翅目の若虫に、セイボウ科はおもにドロバチ類やハキリバチ類に、セイボウモドキ科は繭の中のハバチの幼虫に寄生する。ツチバチ上科のツチバチとコツチバチ科のものは、おもに甲虫目のコガネムシ科の幼虫を狩ってこれに産卵するが、ツヤアリバチはハンミョウの幼虫を寄主としている。ベッコウバチ科ではクモ類を狩り、多くは地中に穴を掘ってそこに獲物を入れて産卵するが、朽ち木の甲虫脱出坑を巣に利用するものや、泥で甕(かめ)をつくるもの、ほかのベッコウバチ類の巣に寄生するものもいる。アナバチ科はほとんどが営巣性のカリバチであるが、ゴキブリを狩るセナガアナバチとケラを狩るケラトリバチは捕食寄生生活をしている。そのほかの多くの種類は自ら営巣して幼虫室をつくり、幼虫の食餌(しょくじ)を用意するものと、ほかのものの巣に寄生するものとがある。狩られる昆虫は直翅目(バッタ、キリギリス)、チャタテムシ目(チャタテムシ)、カゲロウ目(カゲロウ)、アザミウマ目(アザミウマ)、半翅目(カメムシ)、鱗翅目(チョウ、ガ)、トビケラ目(トビケラ)、甲虫目(ハムシ、オサムシ)、膜翅目(セミ)、双翅目(カ、ハエ、アブ)など広範囲にわたる幼虫あるいは成虫、およびクモ類である。また、その生活習性はきわめて変化に富んでいる。スズメバチ科では孤独生活をするドロバチ類やトックリバチ類は泥土を利用して幼虫室をつくり、鱗翅目や甲虫目のハムシ科の幼虫を狩る。一方、スズメバチ類やアシナガバチ類は家族生活を営み、巣はパルプを利用する。
[須田博久]