日本大百科全書(ニッポニカ) 「カルチノイド」の意味・わかりやすい解説
カルチノイド
かるちのいど
carcinoid
組織形態学的に癌腫(がんしゅ)carcinomaに似るが、浸潤や転移などの生物学的悪性度が癌腫より穏やかなところからカルチノイド(類癌腫)とよばれるまれな腫瘍(しゅよう)で、虫垂に発生することがもっとも多く、ついで小腸(おもに回腸)、直腸、胃、肺にみられるが、ときには胆嚢(たんのう)や卵巣などにも発生する。消化管粘膜内の分泌細胞(クルチツキーKulchitsky細胞)から発生するカルチノイド腫瘍は、セロトニン(5‐ヒドロキシトリプタミン)をはじめ、プロスタグランジンやカテコールアミン、ブラジキニンなど種々の活性物質を産生するので内分泌腫瘍ともよばれ、分泌物質によっていろいろな症状がみられる。これをカルチノイド症候群という。症状として顔面から胸にかけて紅潮や血管拡張が現れることがある。これらの症状は飲酒や興奮などによって誘発されやすい。また、低血圧、頻脈、気管支けいれん、心臓弁膜障害などもみられる。カルチノイド症候群の発現率は7~20%である。胃カルチノイドでヒスタミンが産生されると、胃潰瘍(かいよう)が発生しやすくなる。
診断は、生検(せいけん)による組織学的検査のほか、血中セロトニン、あるいはその最終代謝産物である尿中5‐ヒドロキシインドール酢酸の測定によって行われる。治療としては、転移のない病期に外科的切除が行われると予後はきわめてよい。また、症状を軽減させる目的では、セロトニン拮抗(きっこう)剤やトリプトファン水酸化酵素阻害剤などの薬物療法が行われることもあるが、効果は不定である。根治的には外科的切除しかない。
[岡島邦雄]