カルペンティエル(その他表記)Alejo Carpentier

改訂新版 世界大百科事典 「カルペンティエル」の意味・わかりやすい解説

カルペンティエル
Alejo Carpentier
生没年:1904-80

キューバの小説家。フランス人の父とロシア人の母との間に生まれ,ハバナの大学で建築および音楽を学ぶが,家庭の事情で中退しジャーナリストとなる。独裁政治反対の運動に加わったために逮捕され,やがてパリに逃れた。1928年から39年に至るフランス生活の中で,ブルトンアラゴン,ペレ等々のシュルレアリストと接触して,彼らの求める〈驚異的なもの〉がラテン・アメリカでは文字どおり現実の中に遍在しているという認識到達,これを〈驚異的なる現実〉と名づけると同時に,この理論に基づいて《エクエ・ヤンバ・オー》(1933)を皮切りに,長く実り豊かな創作活動を開始する。原始楽器を求めてオリノコ川を遡行する音楽家の旅に託して新大陸の生の複合的性格を明らかにする《失われた足跡》(1953),カリブ海域にも波及した大革命の結果を丹念に追った《光の世紀》(1962),啓蒙的な独裁者の優雅な日々と惨めな末路をたどった《方法再説》(1974),第1次大戦,スペイン内戦,メキシコ革命キューバ革命という歴史的事件と絡めて一族波乱運命を語った《春の祭典》(1978),コロンブスの祝聖をめぐる物語《ハープと影》(1979)などが代表作。ほかにも中編に《追跡》(1956),《亡命権》(1972),《バロック協奏曲》(1974)があり,短編に《時との戦い》(1958)があり,さらに多数の音楽関係の著作がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カルペンティエル」の意味・わかりやすい解説

カルペンティエル
Carpentier, Alejo

[生]1904.12.26. ハバナ
[没]1980.4.25. パリ
キューバの小説家。少年時代から文学と音楽に強い関心を示し,『キューバの音楽』 La música en Cuba (1946,メキシコで出版) の著者としても知られる。政治的理由でパリに亡命,シュルレアリスム運動に深く関係した。 1959年のキューバ革命まで亡命生活をおくる。『エクエ・ヤンバ・オ』 Ecué-Yamba-O (33) は黒人小説の源流的な作品。その後,ハイチの黒人革命を扱った『この世の王国』 El reino de este mundo (49) ,芸術の始源探求の物語『失われた足跡』 Los pasos perdidos (53) ,フランス革命時代のカリブ海を舞台とした『光の世紀』 El siglo de las luces (63) ,啓蒙的な専制君主を主人公にした政治小説『方法再説』 Recurso del método (75) を発表,「魔術的レアリズモ」の代表者と認められた。ほかに,短編『追跡』 El acoso (56) ,『時との戦い』 Guerra del tiempo (58) ,『バロック協奏曲』 El concierto barroco (75) がある。

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百科事典マイペディア 「カルペンティエル」の意味・わかりやすい解説

カルペンティエル

キューバの作家。独裁者ヘラルド・マチャードに抗してフランスに亡命。そこでシュルレアリスムの洗礼を受け,これを介してラテン・アメリカの〈驚異的現実〉を認識し,多くの傑作を発表した。なかでも,音楽家のオリノコ河遡行の旅を通して,新大陸の時間的,地理的重層性を浮彫りにした《失われた足跡》や,カリブ海域にまで及んだフランス革命の影響を描いた《光の世紀》(1962年)などは,もはや新しいラテン・アメリカ文学の古典になっている。音楽と建築の専門家であったカルペンティエルはまた,《キューバの音楽》や《円柱の都市》といった卓越した評論を残している。

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世界大百科事典(旧版)内のカルペンティエルの言及

【ラテン・アメリカ文学】より

… 植民地的な遺制からの脱却の可能性を示すことによって,ラテン・アメリカの人々,とりわけ知識人らの精神を高揚させたキューバ革命の成功と符節を合わせたかのように,60年代の初めから次々に傑作,秀作と呼ぶべきものが発表されだした。アルゼンチンのペロン政権下の暗い時代の中での不条理な愛の葛藤を描いたサバトErnesto Sábato(1911‐ )の《英雄たちと墓》(1961),廃虚に等しい工場を舞台にして生の無意味を追究したウルグアイのオネッティの《造船所》(1961),フランス大革命のカリブ地域に及ぼした影響をたどったキューバのカルペンティエルの《光の世紀》(1962),メキシコ革命で成り上がった男の臨終の床の意識をなぞったフエンテスの《アルテミオ・クルスの死》(1962),実験的なスタイルで根なし草的な生を浮かび上がらせたアルゼンチンのコルターサルの《石蹴り遊び》(1963),ペルーの社会的現実を全体小説のかたちでとらえたバルガス・リョサの《緑の家》(1966)。そして,架空の町マコンドの創建と滅亡に仮託して新世界の歴史を描いたコロンビアのガルシア・マルケスの《百年の孤独》(1967)。…

※「カルペンティエル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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