日本大百科全書(ニッポニカ) 「カレー料理」の意味・わかりやすい解説
カレー料理
かれーりょうり
カレーの語源は、南インドのタミル語のソースを意味するカリkariだという説が有力であるが、インドで3000年の昔から医薬品や防腐剤として使われたさまざまな香辛料を、調味料として使った料理の総称である。
インド料理の大部分はカレー料理といってもよく、その種類も無限である。インド風チキンカレーを例にとれば、鶏肉をギー(バターオイル)で炒(いた)め、香味野菜、ヨーグルト、トマトと、5~7種のスパイスをあぶってつぶしたガラム・マサラとよばれる混合香辛料で煮込む。マサラ(マサーラ)に使うスパイスは、シナモン、クローブ、クミン、コエンドロ(コリアンダー)、カルダモン、ブラックペパーなどが普通だが、地域により、料理により、また各家庭により異なるスパイスや香草を用い、酢や水などを使うこともある。現在のインドでは、こしょうにかわり、唐辛子が安く大量に手に入ることから辛味の代表になりつつある。
この種のカレーは、材料に多少の差はあれ、インドのみならず、マレーシア、ミャンマー(ビルマ)、スリランカ、インドネシア、パキスタン、タイなどでしばしばつくられている。
欧米や日本では、カレー料理をつくるためにパウダー、ペースト、固型ルウなどが市販されているが、これは、インドを統治したイギリス人たちがガラム・マサラの代用として商品化したカレー粉(三十数種のスパイスを混合したもの)が始めである。カレーの作り方もヨーロッパのシチューの製法に置き換えられ、またフランスではソースの一種として組み入れられ、いずれにしても小麦粉をつなぎに使う粘性の強いものに変化していった。
日本へのカレーの渡来は、1859年(安政6)の開港以後イギリス船によってもたらされたというのが通説である。1872年(明治5)に出版された『西洋料理指南』と『西洋料理通』には製法が紹介された。凮月(ふうげつ)堂のカレーは明治生まれである。豚肉やジャガイモ、タマネギなどの素材の量産、関東大震災後の大衆食堂の繁盛がカレー料理の普及に貢献し、昭和に入ると中村屋、資生堂パーラー、阪急百貨店などが次々とカレーで評判をとった。母国インドでも南部では白い飯と混ぜながら指で食べるのが普通だが、イギリスを経てカレーを輸入した日本も、白米との組合せによるカレーライスの愛好国であり、明治の末には世界に先駆けルウタイプの即席カレーを開発している。学校給食の人気投票でもカレーはつねに上位を占め、カレーパン、カレーなんばん、カレーおかきなど、日本独特の応用料理も編み出している。しかしその反面、本来のインドのカレー料理の特徴であるブレンドしたスパイスの香味が忘れられ、第二次世界大戦前は使いこなしていたカレー粉の需要が落ちている。ただ、スパイスは食欲増進、胃液促進、発汗効果などがあるので、体力が落ちる真夏の献立に、また子供にも容易にできる家庭料理として、さらに発展していくであろう。
[碧海酉癸]