インド料理(読み)いんどりょうり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「インド料理」の意味・わかりやすい解説

インド料理
いんどりょうり

日本の9倍の国土、8倍強の人口をもつ広大なインド亜大陸の料理は、人種、言語、宗教、風俗の多様さのゆえに要約することはむずかしい。75%を占めるヒンドゥー教徒と、北部を中心とするイスラム教徒では食事のタブーもまったく異なる。アーリア民族の侵入に始まり、イギリスの統治に至るまで、絶えず強国の侵略の影響を受けてきた縦軸の変化と、北のカシミールと南のコモリン岬、東のコルカタカルカッタ)と西のムンバイ(ボンベイ)というような、気候風土の横軸の差も大きい。国土の大部分が農業地域で、しかも年々増え続ける人口を抱えるので、食糧生産と天候の問題が人々の関心事であり、食べ物と祭事の縁も非常に深い。

 しいてインド料理の特徴をまとめれば、まず香辛料を調味の主役とした、いわゆるカレー料理、食用油として欠かせないギーをはじめとする乳製品の発達、ダールと総称される乾燥豆類の利用があげられよう。

 また、食習慣のうえからは、浄・不浄を気にしてすべて右手で食物を口に運び、使い捨てのバナナの葉を皿がわりにするか、あるいは個人用のターリ(盆)と金属の小鉢ぐらいしか使わないこと、料理にコースがなく一度に出してしまうこと、などがあげられる。同じ国でありながら極端に違っている点は、イスラム教徒が羊肉、牛肉を多量に消費し、カレーの主材料としても用いながら(豚肉はタブー)、これに対しヒンドゥー教徒のとくに階層の高いものほど菜食主義者が多く、牛肉どころか鶏や卵も食べない習慣が守られていることである。タンパク質は豆と乳製品のみに頼っている。

 中国やイタリアにみられるように、インドも北部は小麦を中心とする粉食、東・南部は米食と分かれる。つまり、北部ではローティとよばれるパン類が主食で、ナーンチャパティ、パラーター、プーリーなどがある。米は、南部では白いご飯として、汁けの多い料理をかけて食べるが、北部には明らかに中東の影響を受けたとみられるプラオビリヤーニーという炊きこみ御飯がある。プラオはピラフと同じ作り方だが、レーズンやナッツ類とスパイスを豊富に使い、ビリヤーニーはさらに具の量が多く豪華になる。

 世界の人々に愛される料理としてはタンドーリチキンがあげられる。ヨーグルトとスパイスに一晩漬けた鶏をまるのまま、タンドールという壺(つぼ)形の土かまどで焼き上げる。タンドーリチキンをインド料理の王者とすれば、女王とよばれるのは、同じくヨーグルトに漬けて臭みを抜いた肉を、スパイスを豊富に使って煮込んだコールマーである。フランスの煮込み料理に劣らぬこくのある複雑な味は、外国人の集まる高級ホテルでも人気の的となっている。

 ムンバイやゴアなどの港湾都市、あるいは東側のベンガル地方には当然のことながら魚貝料理が発達しているが、暑い気候に比例してか、いわゆる口に熱く感じる料理が多く、トウガラシも多用される。慣れない者が食べると胃腸を壊すこともあるくらいである。南部でとくに名高いのがビンダルーで、辛味のきいたスパイスを酢とともにつぶしてペースト状にし、これに肉や魚を漬け込んでから煮たものである。

 地域によって材料は異なるが、肉や野菜を団子にしたコーフター、カテージチーズを団子にしたパニール、クレープ風の薄焼きでいろいろなものを包んで食べるドーサ、小麦粉を練って薄くのした皮に、香辛料で味つけしたラム肉やジャガイモを包んで揚げるサモサなど、インドならではの味である。豆料理では、日本のみそ汁に相当するサンバル、煎餅(せんべい)のようなパパルをはじめ、庶民の食事とは切っても切れないものが多い。バターミルクのラッシー、ヨーグルトサラダのライタなどは、トウガラシやコショウの辛味でしびれた口に、ひとときの清涼感を与えてくれる。甘い菓子には、ごく薄い金箔(きんぱく)、銀箔や花びらが添えられて華やかさを盛り上げている。

[碧海酉癸]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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