キッド(読み)きっど(その他表記)Benjamin Kidd

デジタル大辞泉 「キッド」の意味・読み・例文・類語

キッド(William Kidd)

[1645?~1701]英国の海賊。スコットランドの生まれ。はじめ私掠しりゃく船長として活動するが、次第に海賊化。1701年ロンドン絞首刑。世界のどこかに財宝を隠したという伝説があり、ポーの「黄金虫」をはじめ多くの物語の題材になっている。通称キャプテン=キッド。

キッド(Benjamin Kidd)

[1858~1916]英国の社会学者。ダーウィニズムを人間社会に適用し、また、社会に統合をもたらすものとして宗教の役割を重視した。著「社会進化論」「西洋文明の諸原理」など。

キッド(Thomas Kyd)

[1557ころ~1595ころ]英国の劇作家。「スペイン悲劇」により、エリザベス朝の復讐悲劇流行のきっかけを作った。

キッド(kid)

子ヤギ。
子ヤギの皮。薄くてやわらかく、光沢がある。衣類・手袋・靴などに用いられる。
子供。若者。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「キッド」の意味・読み・例文・類語

キッド

  1. [ 一 ] ( Thomas Kyd トーマス━ ) イギリスの劇作家。傑作「スペインの悲劇」はシェークスピアをはじめ同時代の作家に大きな影響を与え、流血復讐悲劇流行の端緒を作った。ほかに翻訳劇「コーネリア」。(一五五八‐九四
  2. [ 二 ] ( Benjamin Kidd ベンジャミン━ ) イギリスの社会学者。ロマン主義哲学と進化論との立場にたって、近代合理主義に反対し、社会進歩は宗教的教化による個人の集団への従属であると主張した。主著に「社会進化」「西洋文明の諸原理」。(一八五八‐一九一六

キッド

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] kid )
  2. 子ヤギ、またはそれに類するもののなめし革。高級な靴、手袋などに用いられる。
    1. [初出の実例]「俗にキッド(小羊)といへる皮にて製するものを好しとし」(出典:風俗画報‐三〇七号(1905)流行門)
  3. 子供。若者。→キッズ

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キッド」の意味・わかりやすい解説

キッド(Benjamin Kidd)
きっど
Benjamin Kidd
(1858―1916)

イギリスの社会学者。19世紀後半の社会ダーウィン主義の方法論的立場から、『社会進化論』(1894)『西洋文明の諸原理』(1902)などを著した。イギリスにおける社会ダーウィン主義の展開のなかで、スペンサーのように「個人」を重視する立場ではなく、むしろ「社会」を重視する立場をとるところに特色を有する。キッドによれば、社会の進化は社会諸集団間の闘争と淘汰(とうた)によって実現されるものであり、その過程において社会に統合をもたらす宗教の役割が強調されなければならない。バックルバジョットが「個人」の合理的知性に依拠するのに対して、キッドは「社会」の超合理的心性を重視する社会統合の視点にたっている。

田中義久


キッド(William Kidd)
きっど
William Kidd
(1645?―1701)

イギリスの海賊。通称キャプテン・キッド。スコットランドに生まれる。アメリカに渡って船長、船主となり、1689年から2、3年間私掠(しりゃく)船長として海軍のために働いた。95年たまたま商用でロンドンに赴いた際、インド洋方面の海賊掃討船の船長に選ばれ、96年アドベンチャー(冒険)号を率いて出航、マダガスカル島近海を経て、97年インド洋に入ったが、成果は思わしくなく、かえって自ら商船を襲って海賊行為を働くに至った。98年海賊の根拠地マダガスカル島で乗船をかえ、翌年カリブ海に入り、ボストンに上陸したところを捕らえられ、本国で裁かれたうえ処刑された。彼が隠匿したとされる財宝に関しては小説などによく取り上げられている。

[松村 赳]

『別枝達夫著『キャプテン・キッド』(中公新書)』


キッド(Thomas Kyd)
きっど
Thomas Kyd
(1557?―95?)

イギリスの劇作家。エリザベス朝時代、「復讐(ふくしゅう)悲劇」流行の端緒となった『スペイン悲劇』(1592初演)の作者として知られる。1580年スペインの対ポルトガル戦勝利を背景に、息子ホレイシオをその恋敵(こいがたき)に殺された将軍ハイエロニモの半狂乱の悲嘆と、劇の演出に見せかけて行われる復讐と彼の死とを骨子に展開するこのドラマは、筋立て、性格描写ともに優れ、好評を博した。この作品にはシェークスピアの『ハムレット』のモチーフに似通ったところがある。キッドには、現存しないが、ハムレットを扱った戯曲(普通「原作ハムレット」とよばれる)があって、シェークスピアはそれをヒントに『ハムレット』をものしたとする説もある。ほかにR・ガルニエからの翻訳劇『コルネリア』(1594初演)などがある。

[冨原芳彰]


キッド(なめし革)
きっど
kid

子ヤギやそれに類するもののなめし革であり、キッド・レザーの略称。羊皮より繊維の密度が大でじょうぶだが、子牛皮よりは粗である。表面(銀面)も子牛皮ほどではないが耐摩耗性もあり、優雅な感じがあり、柔軟でもある。高級靴の甲革や手袋、袋物などに用いられる。原皮の産地は、中央ヨーロッパ、中央アジア、インドなどが有名。二浴法クロムなめしによるものや、卵黄、オリーブ油、ミョウバンによる結合なめしのものをキッドといい、スマック・タンニンによるなめし革をモロッコ革、渋とクロムの結合したものをドンゴラ革とよび区別している。また、まだなめさない原皮、キッド・スキンの略称もキッドという。キッド製の靴や手袋のことをキッドと称することもあり、子ヤギや子カモシカをさすこともある。

[田中俊子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キッド」の意味・わかりやすい解説

キッド
Kyd, Thomas

[生]1558.11. ロンドン
[没]1594.12.30. ロンドン
イギリスの劇作家。 1565年マーチャント・テーラーズ校に入学,古典の教養を身につけた。そのすぐれた演劇感覚によって,『スペインの悲劇』 The Spanish Tragedy (1587~88頃) でラテン劇をイギリス化することに成功,公共劇場で大当りをとり,以後 15年間繰返し上演されて,エリザベス朝における復讐悲劇流行の端緒を開いた。この劇でキッドは,復讐の主題や亡霊,黙劇,劇的朗読法による長ぜりふや独白などをセネカから借用しているが,そのほか,題材を古典の神話や伝説的なイギリス史にとらずに,当時のスペインを舞台に物語を虚構し,筋の構成も副筋を用いて複雑にし,人物の行動に動機を与え,性格には陰惨な心理的屈折を加えて,ハムレットに通じる主人公の狂気や遷延,イアーゴーに発展するイギリス文学史上最初のマキアベリ的な悪党を創造した。また殺人や狂乱を舞台にのせ,復讐の遂行に劇中劇を用い,目的に応じて散文と韻文,無韻と押韻を使い分けるなど,独自の趣向を考案,以後の復讐劇の道具立てを完成した。他方,セネカの抒情的,内省的な美を高め,筋の残忍性を一掃したネオ・セネカ派の R.ガルニエの作の翻案『コーネリア』 Cornelia (94) がある。そのほか『ハムレット』の原典になったと思われる現存しない『原ハムレット』 Ur-Hamletの作者と推定されている。

キッド
Kidd, Benjamin

[生]1858.9.9.
[没]1916.10.2. サウスクロイドン
イギリスの社会哲学者。官吏生活後社会調査のため世界を旅行し,1898年にはアメリカ,カナダを,1902年には南アメリカを訪れた。彼の社会学は H.スペンサーの社会進化論の系譜に立つもので,1894年に『社会進化論』 Social Evolutionで社会進化のもつ逆説,すなわち社会進化と理性の矛盾を指摘した。社会進化は非理性的過程の進展を常に伴うので,理性の進化と矛盾するというのである。理性はこのような非理性的過程の進展に反逆するが,その結果理性が勝てば,次に理性そのものの進展が停止してしまうと考え,この考え方を『西洋文明の諸原理』 Principles of Western Civilization (1902) で,歴史によってさらに裏づけようとした。彼の社会思想は世紀の転換期を迎えつつあったイギリスにおいて相当の反響を呼んだが,その学問的構成は薄弱であった。

キッド
Kidd, William

[生]1645頃.スコットランド,グリノック
[没]1701.5.23. ロンドン
キャプテン・キッドの名で知られるイギリスの海賊。 1696年から北アメリカにおいて海賊討伐の任にあたっていたが,翌年海賊の根拠地マダガスカル島におもむいてみずから海賊となり,99年ニューイングランドへ戻ったとき逮捕され,テムズ河畔で処刑された。

キッド
kid

子やぎのことであるが,普通子やぎのなめし皮 (キッドスキン) をさす。キッドスキンは柔軟で表面 (銀面) が美しく,靴の甲革,手袋用革の高級品として用いられる。また,めん羊ややぎの皮からつくった類似の革のことをいう場合もまれにある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「キッド」の意味・わかりやすい解説

キッド
Thomas Kyd
生没年:1558-94

イギリスの劇作家。フランス語やイタリア語からの翻訳・翻案のほかに,数編の悲劇,喜劇をものしたとされるが,確実ではない。演劇史上彼の名は《スペイン悲劇》(1585ころ初演)1作によって記憶される。スペインの将軍ハイエローニモが,政略結婚の犠牲になって暗殺された息子ホレーシオの復讐を誓い,辛酸をなめて犯人を探し当てたのち,宮廷で演じられる劇中劇に彼らを引き入れ,演技と見せて彼らを殺しみずからも自殺する,という筋。この劇は,悲嘆のあまり半狂乱に陥る主人公の心理描写に加えて,劇中いく度も現れて血の復讐を促す亡霊,誇張された朗誦体で語られる独白,といったローマのセネカの劇作の流れを汲むセンセーショナルな道具立てによって,この後,J.マーストンやC.ターナーらに受け継がれていく流血復讐悲劇の流行の端緒を開いた。シェークスピアの《ハムレット》はこの悲劇に構想の多くを負っていると考えられるが,ことによると,1580年代末に上演されて人気を博し,《ハムレット》の粉本となったとされるいわゆる《原ハムレット》の作者はキッドであるのかもしれない。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「キッド」の意味・わかりやすい解説

キッド

キャプテン・キッドCaptin Kiddの名で知られた英国の海賊。初め対仏植民地戦で西インド諸島で私掠(しりゃく)船船長として活動。1696年政府から海賊討伐を命ぜられマダガスカル島に行ったが,逆に海賊の首領となり,1699年捕らえられて本国に送還,絞首刑になった。その財宝にまつわる伝説が多い。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

367日誕生日大事典 「キッド」の解説

キッド

生年月日:1858年9月9日
イギリスの社会哲学者
1916年没

出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のキッドの言及

【駆逐艦】より

…主機は航空機転用型ガスタービンの開発に伴い,これを各種組み合わせた方式の推進機関が多用されるに至った。1980年代前半の代表的な駆逐艦として,ソ連の〈ウダロイ〉型(8500トン)に対応して,西側ではアメリカの〈スプールアンス〉型(満載7810トン)および同型改装の〈キッド〉型(満載8300トン)が挙げられる。【佐倉 俊二】。…

【ヤギ(山羊)】より

…モヘアは毛長15~18cmで,光沢と弾力にすぐれ,薄地の夏服地,肩掛け,高級ビロードなどの原料とする。このほか皮革も利用され,羊皮よりもじょうぶで,銀面の模様が美しいので,キッドと呼ばれ手袋や防寒衣料,袋物に利用される。
[飼養管理]
 ヤギはじょうぶで温和な家畜であり,食性も広いので飼いやすい家畜である。…

※「キッド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android