キング(Carole King)(読み)きんぐ(英語表記)Carole King

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

キング(Carole King)
きんぐ
Carole King
(1942― )

アメリカのシンガーソングライターニューヨーク市ブルックリン生まれ。本名キャロル・クラインCarole Klein。1960年代はレコード業界のヒット曲生産システムの裏方として数々のヒット曲を作曲し、1970年代は女性シンガー・ソングライターとして表舞台で大成功を収めた。それ以降の女性アーティストたちに指針を与えた、女性シンガー・ソングライターの先駆者である。

 キングは4歳からピアノを学び、幼なじみのニール・セダカNeil Sedaka(1939― )に刺激され、高校生のころから作曲を始める。ニューヨークのクイーンズ・カレッジで夫となる作詞家のジェリー・ゴフィンGerry Goffin(1939―2014)と出会い、その後コンビを組む。1960年にドン・カーシュナーDon Kirshner(1934―2011)が設立した音楽出版社アルドン・ミュージックの専属ソングライターとして雇われると、すぐに数多くのティーンエイジャー向けヒット曲を手がける売れっ子となった。

 ゴフィン&キングの出世作となったのは、1961年に全米ヒット・チャート第1位になった黒人女性コーラス・グループ、シュレルズの「ウィル・ユー・ラブ・ミー・トゥモロウ」で、それからの5年間に2人は100曲以上のヒットを作り出した。代表曲には、ドリフターズの「アップ・オン・ザ・ルーフ」、シフォンズの「ワン・ファイン・デイ」、リトル・エバLittle Eva(1943―2003)の「ロコモーション」、アレサフランクリンの「ナチュラル・ウーマン」などがある。ビートルズも、大きな影響を受けたソングライターとしてゴフィン&キングの名前を上げ、実際にクッキーズのヒット曲「チェインズ」をカバーしていた。

 1968年、ゴフィンと離婚したキングはロサンゼルスに拠点を移し、シンガー・ソングライターに転向する。シティというグループでアルバム1枚を発表後、1970年に『ライター』でソロ・デビュー。このアルバムはヒットしなかったが、翌1971年に2作目の『つづれおり』を発表すると、シングルの「イッツ・トゥー・レイト」が全米ヒット・チャート第1位にまで昇り詰め、アルバムも15週間第1位を占める大ヒットとなった。その後も『つづれおり』は302週もチャート内にとどまり続ける記録的なロングセラーとなり、2000年までに全世界で2200万枚以上を売り上げた。

 この『つづれおり』には、過去のゴフィン&キングのヒット曲をあらためて自演した録音も収められているが、大半は歌詞も自分で手がけた書き下ろしである。けっして美声とはいえない歌声で非常に私的な内容を、なまなましい感情をぶつけながら歌うキングの姿は、職業作曲家という前歴を知るものには衝撃的ですらあった。しかし、さすがに名作曲家だけあり、歌詞を運ぶメロディはどれも忘れがたいものばかりで、収録曲の大半はたちまちスタンダード曲となり、多くの歌手に繰り返しカバーされている。

 そして、『つづれおり』の大ヒットに加え、同アルバムに収録されていた「君の友達」が友人のジェームズ・テーラーJames Taylor(1948― )に取り上げられ、全米ヒット・チャート第1位の大ヒットとなり、このころ頻繁に共演していたキングとテーラーは1970年代前半のシンガー・ソングライター・ブームに火を付けることになった。

 その後もキングはつぎつぎとヒット・アルバムを発表していく。1971年の『ミュージック』は前作に続いてナンバー・ワン・アルバムになり、200万枚を売り上げ、1972年の『喜びは悲しみの後に』もヒット・チャート第2位を5週間維持するヒット作となった。1973年の『ファンタジー』は、リズム・アンド・ブルース畑のミュージシャンを起用して新たな音楽的方向を目指し、よりよい社会への「ファンタジー」を歌の主題とした社会批評的な意欲作だった。1974年の『喜びにつつまれて』からは大ヒット曲「ジャズマン」が生まれ、3枚目のナンバー・ワン・アルバムに輝いた。

 1977年からキングは再婚したリック・エバーズRick Eversと共作を始め、環境問題やニュー・エイジ思想への関心を深めていく。1980年代前半にはアイダホ州の田舎に住み、環境保護の運動家としても活動した。1980年代以降はアルバム発表のペースが極端に落ちたが、マライア・キャリーMariah Carey(1969― )など、彼女を尊敬する若い歌手に請われて、ときおり一緒に曲を書く。また、1990年にはゴフィンとともにロックン・ロールの殿堂入りをした。

[五十嵐正]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android