旧約聖書に登場する存在で,〈智天使〉と訳される。アダムとイブが追放されたのちの楽園(エデン)を守った(《創世記》3:24)。預言者エゼキエルの幻には,人間,獅子,牡牛,鷲の4個の顔と4枚の翼をもち,黄金の眼がしるされた自転する4個の車輪をもった姿で現れた(《エゼキエル書》10)。また預言者イザヤが幻にみたセラピムSeraphim(熾(し)天使)も6枚の翼をもち,そのうちの2枚で顔を,2枚で足をおおい,残りの2枚で飛びかけつつ神の玉座を守護するものであった(《イザヤ書》6)。人間の姿をして神の使者たる職能をもった他の天使たちとは異なり,稲妻のような閃光を発して飛びかけるこの神秘的な2天使は,古代バビロニアの雷の閃光の擬人化に由来するものと考えられている。ディオニュシウス・アレオパギタに帰せられる著作《天上階序論De coelesti hierarchia》は天使の群を3群に,そして各群を三つの位の9位階に秩序づけ,トマス・アクイナスもそれを継承している。それによれば,セラピムが最高位を占め,ケルビム,トロニThroni(座天使)がこれに続いて第1群を構成する。キリスト教美術においては,セラピムもケルビムもともにイザヤの幻想をもとに図像化された。基本的には他の天使たちと同様に人の姿をしているが,セラピムは6枚の翼を,ケルビムは4枚の翼をもち,そのうちの2枚を身体の前面で交差させて頭部と足首のみを見せている。両者の違いは色彩にも現れ,セラピムは火の色である赤,ケルビムは天空の色の青に塗り分けられるのが原則である。ビザンティン美術では特に中期以降,教会の内陣周辺の天井に,神の玉座の周りに守護者として飛びかう両天使が描かれることがある。西欧中世においてもロマネスク美術以降,特に教会入口の外壁面を飾る彫刻にしばしば現れる。
→天使
執筆者:名取 四郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これは古代ギリシア・ローマの有翼の女神ニケが原型になったものと考えられる。またセラピムは3対の翼,ケルビムは2対の翼をもち,ともに1対の翼を身体の前面で交差させて頭部と足首だけを見せる。初期キリスト教時代から中世にかけては,天使は普通トゥニカとパリウムを着た青年の姿である(大英博物館蔵の象牙彫刻,6世紀)。…
※「ケルビム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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