天使(読み)テンシ(英語表記)angel

翻訳|angel

デジタル大辞泉 「天使」の意味・読み・例文・類語

てん‐し【天使】

天界にあり、神の使者として人間に神意を伝えたり、人間を守護したりすると信じられるもの。ユダヤ教キリスト教イスラム教などにみられる。エンゼル
心の清らかな、やさしい人のたとえ。「白衣の天使
天子の使者。勅使。
「かかる事は、我が朝の―を待たせ給ふ所といへども」〈折たく柴の記・中〉
[補説]書名別項。→天使
[類語]ゴッド

てんし【天使】[書名]

三好徹による短編小説シリーズ名一匹狼新聞記者主人公とするハードボイルド作品。「汚れた天使」「天使の葬列」「黒い天使」など、いずれの作品もタイトルに「天使」を含む。

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精選版 日本国語大辞典 「天使」の意味・読み・例文・類語

てん‐し【天使】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 天子の使者。朝廷の使者。勅使。
    1. [初出の実例]「天使また食を再送して師を尋見するに」(出典:正法眼蔵(1231‐53)行持上)
    2. [その他の文献]〔史記‐趙世家〕
  3. 地獄からの使者。閻魔王の使い。
    1. [初出の実例]「終に天使にめされて地獄に堕ぬれば」(出典:海道記(1223頃)東国にさまよひ行く子)
  4. ( [英語] angel の訳語 ) キリスト教で、神の使者として天界から人間界へ派遣され、神と人間との仲介をするもの。天界にあっては神に仕え、神の心を人間に、また、人間の願いを神に伝えるといわれる。エンジェル
    1. [初出の実例]「年甫て十八自から天使と称し」(出典:西洋事情(1866‐70)〈福沢諭吉〉二)
  5. 天からの使い。神からの使い。また、そのようにやさしくいたわり深い人や、心が純粋な人。
    1. [初出の実例]「恋慕の眼鏡をかけると〈略〉其人は天使(テンシ)に見えると詩人がいふてあるが」(出典:露団々(1889)〈幸田露伴〉一四)

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改訂新版 世界大百科事典 「天使」の意味・わかりやすい解説

天使 (てんし)
angel

人間よりも上位の存在として創造された純粋に精神的な実体をいう。西欧語は〈使者〉を意味するギリシア語angelosに由来する。その起源は旧約および新約聖書にしばしば登場する〈主(神)の使い〉であり,ヘブライ語ではmal'ākという。たとえば,アブラハムがその子イサクをいけにえとして献げようとしたときに主の使いが介入し(《創世記》22:11~18),ヤコブは夢で神の使いたちがはしごを上り下りしているのを見(同28:12),モーセは燃える柴の中に現れた主の使いと出会う(《出エジプト記》3:2)。紅海を渡り,荒野を旅するイスラエルの民を導き,守護するのも神の使い(同14:19,23:20)であり,宣教の開始に先立って荒野での試練を終えたイエスのもとに来て仕えたのも神の使いたちであるとされている(《マタイによる福音書》4:11)。ただし,聖書において語られているのは主の使いの役割あるいは使命だけであって,彼らが独立の存在であるのか,あるいは神の語りかけ,働きかけを擬人化したにとどまるのかは,かならずしも明確ではない。

 中世のスコラ神学者は,主の使いに関する聖書の教え,天球層sphaeraおよび天体の運動の原因としての精神的・知的実体に関するプラトン,アリストテレス以来の宇宙論的・天文学的理論,および人間よりも上位の純粋に精神的な存在に関する形而上学的思弁などの源泉から,天使(およびその堕落した集団=堕天使としての悪霊ないし悪魔)に関する神学的・哲学的理論を展開した。その中でもっとも体系的かつ包括的な天使論を構築したのはトマス・アクイナスである。彼の天使論は《神学大全》のかなりの部分(第1部50~64,106~114問題)および《定期討論集--精神的被造物について》《分離的実体についての論考》において展開され,天使は純粋形相であって質料を含まない,と主張したことによって保守的神学者と対立した。なお,詳細をきわめる彼の天使論においては,針の先端に何人の天使が立つことができるかという問題(スコラ哲学を揶揄(やゆ)するのによく用いられる例)は論じられていない。
執筆者:

イスラムでも,神と人間の中間的存在として,シャイターンサタン)やジンと並んで天使(アラビア語でマラーイカmalā'ika)の存在が認められている。コーランはさまざまな役割をもった天使に直接・間接に言及している。たとえば,〈聖霊〉〈誠実な霊〉ともいわれて預言者ムハンマドに啓示を伝え,イエスを強化したガブリエル,それに匹敵する地位にあるミカエル,終末のらっぱを吹くイスラーフィールIsrāfīl,またマーリクMālikと呼ばれる地獄の番をする天使,ザバーニーヤZabānīyaと呼ばれる地獄での責め苦をつかさどる天使たち,神の玉座を支え,またその周辺にあってつねに神をたたえる天使たち,各人の両側にいてその人の行為を逐一記録する天使,墓場で死者を審問して苦しめるムンカルMunkarとナキールNakīrの2天使などである。コーランでは天使の神への絶対的従順性が強調されており,後にはその無謬(むびゆう)性が強調されてくるが,コーランはまた性的誘惑に負け,人間に妖術を教えたハールートHārūtとマールートMārūtの2天使にも言及している。
執筆者:

天使は一般に,一対の翼をもつ人間の姿で表される。これは古代ギリシア・ローマの有翼の女神ニケが原型になったものと考えられる。またセラピムは3対の翼,ケルビムは2対の翼をもち,ともに1対の翼を身体の前面で交差させて頭部と足首だけを見せる。初期キリスト教時代から中世にかけては,天使は普通トゥニカとパリウムを着た青年の姿である(大英博物館蔵の象牙彫刻,6世紀)。初期には翼のない表現もある(《ウィーン創世記》の〈天使とヤコブの格闘〉,6世紀)。ビザンティン中期以降,豪華なクラミュスchlamysや宮廷風の衣装をまとった天使もしばしば見られる(《ヨハネス・クリュソストモスの説教集》挿絵,1078ころ)。国際ゴシック様式の時代(1400前後)からルネサンスにかけては,少女のような優美な顔だち,典雅な服装の天使が好んで描かれた(フラ・アンジェリコらの多くの〈聖告(受胎告知)〉図)。また,やはりこの時代から,古代のプットー(童子)やアモルのような,裸体の幼児姿の天使も描かれるようになった(ラファエロ《天蓋の聖母》,1508)。セラピム,ケルビムも幼児の顔が多い。バロック以降でも,ルネサンスまでに成立したこれらのタイプが踏襲された。

 美術作品で,天使はおもに次のような場面に登場する。(1)旧約・新約聖書の説話場面,(2)〈玉座のキリスト〉など《ヨハネの黙示録》や典礼にもとづく場面,(3)聖人伝の諸場面や寄進者伝の場面。(1)では,天使は文字どおり〈主の使い〉の役割を果たし,アブラハム,ロト,処女マリア,ヨセフ,ザカリア,キリスト降誕の際の羊飼い,聖墳墓を訪れた女たちに現れて神の言葉を告げる。また神意の代行者として楽園追放などの仕事を行う。(2)では,〈最後の審判〉においてミカエルが人間の魂を計り,天の軍勢としてサタンと闘う。また天上においてキリストの周囲に従い,護衛や奏楽を行う。(3)ではおもに聖人の殉教場面に現れ,聖人に力を授け,魂を抱きとる。また宝物や教会堂などの寄進や献呈を行う皇帝や貴族,聖職者らを,守護天使としてキリストや聖母に紹介する。
悪魔
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「天使」の意味・わかりやすい解説

天使
てんし
angel 英語
ange フランス語
Engel ドイツ語

神に仕え、神と人間とを仲介し、人間の守護にあたることもある霊的存在。英語のエンジェルangelの語源となったギリシア語のággelosは使者の意味。ペルシアの宗教に始まり、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教に入った。動物が神の使いを果たす例は諸宗教にもみいだされるが、神と人間との中間的な存在として天使の観念が発達するのは、前記の宗教のように神と人との断絶性が強い宗教の場合である。天使は、神の意志を伝える役割を果たすものの、人間にかならずしも好意的とは限らず、神に反逆し人間に悪事を働く天使もいて、これが、いわゆる悪魔になる。

[鈴木範久]

諸宗教の天使と階級

ペルシアのゾロアスター教では、神アフラ・マズダーのもつさまざまな力を分有する7人の天使がいる。ユダヤ教では、ミカエルをはじめラファエル、ガブリエル、ウリエルの4天使がよく知られている。キリスト教では、プロテスタント教会においてはほとんど顧みられないのに対し、ローマ・カトリック教会では重要視され、天使は次の9階級に分けられている。熾(し)天使angeli seraphim、智(ち)天使angeli cherubim、座天使angeli throniの上級三隊、主天使angeli dominationes、力(りき)天使angeli virtutes、能天使angeli potestatesの中級三隊、権(ごん)天使angeli principatus、大天使archangeli、天使angeliの下級三隊である。イスラム教ではユダヤ教の影響を受け、ムハンマド(マホメット)にコーランを伝えたジブリール(ガブリエル)以下、ミーカーイール、アズリール、イスラフィールの諸天使が四大天使とされてとくに重要な位置を占めている。

[鈴木範久]

天人・天女と天使

もともと天使にあたる存在は、風や光として感じ取られることもあったが、美術作品などでは翼をもつ人間の形で表現されるようになり、神に背いた天使である悪魔を除くと、人間を守り善を勧める天使は女性や子供の形をとるものがしだいに多くなっている。『竹取物語』のかぐや姫などの伝説で知られる天女や天人は、天(月世界)の住人であったものが、一時的にせよ人間界に身を置いて、その住む家に幸福をもたらす。かぐや姫がやがて天の王の迎えに伴われて天に帰らなければならないように、地上を訪れる天女や天人には、天の意を帯びた天使のおもかげがみられる。

[鈴木範久]

『真野隆也著『天使』(1995・新紀元社)』『ピーター・ミルワード著、松島正一訳『天使VS悪魔』(1995・北星堂書店)』『マルコム・ゴドウィン著、大瀧啓裕訳『天使の世界』新装版(2004・青土社)』『ジョルジュ・デジュメジル著、丸山静・前田耕作編『デュメジル・コレクション3』(ちくま学芸文庫)』

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百科事典マイペディア 「天使」の意味・わかりやすい解説

天使【てんし】

神の〈使者〉たる霊的存在。悪魔の対。英語angelなどはギリシア語angelos(〈使者〉)に由来し,ユダヤ教,キリスト教,イスラムで信じられている。中世スコラ神学では,ディオニュシウス・アレオパギタ,トマス・アクイナスらを代表者とする精緻な天使論が展開された。上級3隊に熾(し)天使(セラフィム),智天使(ケルビム),座天使,中級3隊に主天使,力(りき)天使,能天使,下級3隊に権天使,大天使(ミカエル,ガブリエル,ラファエルなど),天使の階層秩序をなし,人間に種々の働きかけをするとされる。図像作品多数。有翼,裸体,童形の典型像はルネサンス以降のもの。
→関連項目ガブリエルミカエル

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「天使」の意味・わかりやすい解説

天使
てんし
angel

宗教において神と人間との中間におかれる霊的存在。 angelの語はギリシア語 angelos,すなわち「使者」に由来するように,一般に神意の伝達者をいう。このような中間者としての天使の観念は多くの未開宗教にみられるが,ことにグノーシス,ゾロアスター教などペルシア宗教で発展し,ユダヤ教,キリスト教 (その直接的影響によってイスラム) に取入れられた。ユダヤ教では天使に階層がつけられ,ミカエル,ガブリエルなど七柱の大天使のもとに職能別に分けられた。キリスト教における天使崇敬は4世紀ごろ盛んになり,多くの天使論が著わされたが,近代にいたって下火になった。

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デジタル大辞泉プラス 「天使」の解説

天使

桜沢エリカによる漫画作品。うっかり天使をナンパしたら自分の部屋に棲みつかれてしまった男の話。『CUTiE』1997年12月発売号、『FEEL YOUNG』1997年8月号増刊~1999年10月号に連載。祥伝社FEEL COMICS GOLD全1巻。2006年、深田恭子主演で映画が公開された。

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世界大百科事典(旧版)内の天使の言及

【飛天】より

… 飛天のように虚空を飛ぶ霊的存在は,キリスト教やゾロアスター教にも認められており,仏教独特のものではない。仏教以外の飛天の類は,古代アッシリアから見られ,背中に翼を持つ天使像として表現され,グレコ・ロマンの神であるニケやエロス,キリスト教のエンジェルもその例である。遺品にはイランのターク・イ・ブスターン大洞入口上方の真珠の環を持つニケ像や,中央アジアのミーラーンの壁画(東京国立博物館)の有翼天使像などが名高い。…

※「天使」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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