一般にはコリンエステル(コリンと脂肪酸が脱水結合したもの)をコリンと脂肪酸に加水分解する酵素をさす。コリンエステルを加水分解する酵素には、(1)脂肪酸部分が酢酸であるものを主として分解する酵素と、(2)酢酸以外にもいろいろな脂肪酸を分解する酵素がある。(1)はアセチルコリンエステラーゼ(常用名)といい、国際生化学連合(現在は国際生化学・分子生物学連合)の酵素委員会が制定した酵素番号はEC3.1.1.7である(酢酸CH3COOHからOHをとったCH3CO-をアセチル基という)。(2)は狭義のコリンエステラーゼ(常用名)で、酵素番号はEC3.1.1.8である。
(1)のアセチルコリンエステラーゼは、別名として真正コリンエステラーゼ、特異的コリンエステラーゼ、コリンエステラーゼⅠなどとよばれる。高等動物神経組織、赤血球、コブラ毒、デンキウナギ・デンキエイの電気器官、ヤリイカ神経節に存在する。アセチルコリンによる化学伝達を行うシナプス(神経細胞間、あるいは神経細胞と筋などの接合部位)の前膜、後膜に存在し、シナプス間隙に放出されたアセチルコリンを分解して、神経伝達物質としての作用を消す作用をもつ。アセチルコリンを加水分解する酵素のうち、反応速度は最高であり、アセチルコリンのほか、アセチルチオコリン、フェニル酢酸、D-β(ベータ)-メチルアセチルコリンなども加水分解する。
(2)のコリンエステラーゼは、別名として偽コリンエステラーゼ、非特異的コリンエステラーゼ、コリンエステラーゼⅡ、ブチルコリンエステラーゼなどとよばれる。ヒト肝臓、膵臓(すいぞう)に存在する。ブチリルコリンがアセチルコリンよりよい基質であること、D-β-メチルアセチルコリンに対してほとんど作用しないことなどがアセチルコリンエステラーゼと異なる。血中のコリンエステラーゼは肝障害、有機リン製剤中毒で低下、ネフローゼ症候群、脂肪肝、糖尿病、甲状腺機能亢進で上昇することから、臨床検査に用いられる。アセチルコリンエステラーゼ、コリンエステラーゼともに有機リン製剤により阻害を受ける。
[徳久幸子]
基準値
200~450U/ℓ(JSCC勧告法)
コリンエステラーゼ(ChE)とは
コリンエステルと呼ばれる物質を加水分解する酵素で、肝細胞で合成される。
肝硬変になるとコリンエステラーゼをつくることができなくなり減少
肝臓や腎臓、甲状腺などの異常を調べる検査です。低値のときは肝臓病の終末像、肝硬変が強く疑われます。
肝硬変で低値に
コリンエステラーゼ(ChE)は、肝細胞で合成されて血液中に分泌される酵素で、肝硬変を調べる検査のひとつです。
肝硬変は、肝臓全体の変化の終末期で、肝細胞が破壊されつくして肝臓が硬くなり(線維化)、肝細胞が働かなくなってコリンエステラーゼがつくられなくなり、血液中の値は低くなってしまいます。
コリンエステラーゼをはじめとして蛋白質、アルブミン(→参照)、コレステロール、血液凝固因子(→参照)など、肝細胞でつくられている物質を調べて、これらが低値になっていれば肝臓の働き(合成能力)がかなり低下している状態(肝硬変の状態)の証しになります。
その他、劇症肝炎でも低下し、日ごとに低下が強くなる特徴があります。慢性肝炎では、軽度の低下となります。
ネフローゼ症候群では高値に
コリンエステラーゼは脂質代謝と関連しているため、栄養のとり過ぎや肥満で高値になります。
ネフローゼ症候群では、血液中のアルブミンが低下し、尿蛋白(→参照)が陽性になり、脂質代謝の異常のためにコリンエステラーゼは上昇します。
また、甲状腺ホルモン(→参照)は、コリンエステラーゼの合成を亢進させる働きがあるため、血液中のこのホルモンが高値になる甲状腺機能亢進症ではコリンエステラーゼも上昇します。
有機リン剤中毒では異常に低下
コリンエステラーゼは有機リン剤中毒では異常に低下します。この代表である農薬やサリンは、コリンエステラーゼに作用して活性を阻害するためです。
また、先天的にコリンエステラーゼ活性が低値、あるいは欠損している人がいます。このような人は、手術時に使用する筋弛緩薬であるサクシニルコリンが分解されず、無呼吸状態が持続しますので注意が必要です。
診断上は低値のときが重要
血清を用いて、自動分析器で測定します。測定法により基準値が異なります。日内変動や運動の影響はありません。検査当日の飲食は普通にとってかまいません。
コリンエステラーゼの異常としては、低値のときが重要で、肝細胞での合成能力が低下していることを反映しています。
肝臓病であれば、肝硬変が進行している状態で、肝硬変に関する種々の血液検査や腹部超音波(→参照)、腹部CT(→参照)などの精密検査が必要です。肝硬変では、コリンエステラーゼが正常に回復する望みはありません。
また、消耗性疾患(悪性腫瘍末期、低栄養)でも低値になるため、これらの鑑別、確定診断のための検査も重要になります。
疑われるおもな病気などは
◆高値→脂肪肝(過栄養性、アルコール性)、ネフローゼ症候群、甲状腺機能亢進症など
◆低値→肝疾患:肝硬変、劇症肝炎、慢性肝炎、肝臓がんなど
その他:有機リン剤中毒(農薬、サリンなど)、悪性腫瘍による悪液質、低栄養、先天性ChE異常症など
医師が使う一般用語
「コリンエステラーゼ」「シーエッチイー」=cholinesterase(コリンエステラーゼ)およびその略ChEから
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報
EC 3.1.1.8.正しくはアシルコリンアシルヒドロラーゼという.アシルコリンエステルを加水分解し,コリンと脂肪酸に分解する反応を触媒する酵素.
[(CH3)3N+-CH2CH2OCOR]X- + H2O →
[(CH3)3N+-CH2CH2OH]X- + RCOOH
アセチルコリンエステラーゼと異なり,アセチルコリンエステルには作用しない.血清,膵臓,そのほかの組織に存在し,ウマ血清のものは分子量8.4×104,ヒト血清のものは3×105 である.[CAS 9001-08-5]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…例えば環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼやプロテインホスファターゼは,それぞれ基質となるリン酸エステル結合を分解する作用を通じて,環状ヌクレオチドが仲介する細胞の代謝応答の制御に寄与している。またコリンエステラーゼは,シナプス前膜から放出されるアセチルコリンを分解して興奮の後始末をする。 ある種のタンパク質加水分解酵素(プロテアーゼ)は特定のタンパク質分子の特定のペプチド結合のみに特異的に作用(限定分解)し,均一な高分子量の断片を生じさせる。…
※「コリンエステラーゼ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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