ザンジュの乱(読み)ザンジュのらん

改訂新版 世界大百科事典 「ザンジュの乱」の意味・わかりやすい解説

ザンジュの乱 (ザンジュのらん)

869-883年にイラク南部のサワード地方で起こった反乱。反乱軍の兵士の多くがザンジュzanjと呼ばれた黒人奴隷であったため,一般にこう呼ばれる。サワード地方では,灌漑,排水,地表の塩分除去が農耕に不可欠で,その作業を奴隷にさせる大農場経営がササン朝時代から盛んであった。農場奴隷は東アフリカのザンジュやスーダン人,マグリブ人などさまざまであったが,ザンジュが最も多かったと考えられる。サワードのザンジュはイスラム時代になってからこの乱以前にも2度反乱を起こしたことが記録されている。

 9世紀末のこの反乱の指導者は,アリー`Alī b.Muḥammad(?-883)で,第4代カリフ,アリーの子孫と称するアラブ貴族であった。彼はアラビアのバフラインで宗教改革運動を始め,信徒を得て863・864年に武装蜂起したが失敗した。869年,彼はバスラで反アッバース家の蜂起を試みたが再び失敗し,バグダードに隠れた。彼はこの時に,サワードの奴隷農場労働者に注目し,彼らを反乱のエネルギー源として組織していった。彼を支持する軍は,871年にはバスラを陥れ,サワードのかなりの部分を支配するにいたった。彼はバスラの近くにムフターラMukhtāraという城塞都市を築いて,そこを首都とし,行政・軍事機構を整えて小国家をつくった。ザンジュを主力とするその軍は,2度アフワーズに進攻し,また中部イラクのワーシトを一時占領した。当時のアッバース朝はマムルーク軍団が政治を壟断し,軍閥間の対立抗争が絶えず,無政府状態に近かったが,カリフの弟で将軍ムワッファクal-Muwaffaq(?-891)が実権を握るに及んで立ち直ってきた。ムワッファクは自ら軍を率いて反乱軍に反撃し,反乱軍はしだいに追いつめられ,首都ムフターラの陥落とアリーの死をもって反乱は終わった。反乱は,アラブ貴族が指導する反アッバース家の新国家建設運動であったが,ザンジュなどの農場奴隷労働者のエネルギーを吸収しようと試みた点が注目に値する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ザンジュの乱」の意味・わかりやすい解説

ザンジュの乱
ざんじゅのらん

イスラム初期の時代に、イラク南部で起きた黒人奴隷を中心とする反乱。東アフリカ沿岸出身の黒人(ザンジュzanj)は、イラク南部で地表の硝酸塩を除去する耕地造成に過酷に使役されていた。ウマイヤ朝のとき総督ハッジャージュ(661ころ―714)に対し、ザンジュのライオンと称したリヤーフ指導下の反乱が起きた。またアッバース朝時代には、テヘラン近くのライ出身のアラブでかつて宮廷に仕えていたアリー・イブン・ムハンマドは、第4代カリフ、アリーの子孫と称し、864年バフライン(現ハサ)で商人やアラブ遊牧民を味方に、868年にはバスラ市内で市民に支持を訴えて挙兵したが政府軍に倒された。ついでザンジュなど黒人奴隷を味方につけ、バスラの一部有力者の協力も得て869年挙兵し、バスラを占領し、近くのムフターラに都を建て、政府軍やサッファール朝と戦って、一時アフワーズやワーシトを奪い、国家体制も整えた。しかし、883年カリフの弟ムワッファクの軍は2年の攻撃後ムフターラを陥れ、アリーは服毒自殺したらしい。

[余部福三]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ザンジュの乱」の解説

ザンジュの乱(ザンジュのらん)
Zanj

アリー・ビン・ムハンマドが,アッバース朝下の南イラクで起こした反乱(869~883年)。ザンジュはアラビア語で「黒人」を意味し,反乱に貧農階級のほか,黒人奴隷の逃亡者が多く参加したことからこう呼ばれている。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「ザンジュの乱」の解説

ザンジュの乱
ザンジュのらん
Zanj

アッバース朝の支配を動揺させた黒人奴隷の反乱(869〜883)
ザンジュはアフリカ東岸の黒人奴隷の意。イラクのバスラで酷使に反抗。首謀者アリー=ビン=ムハンマドはカリフの軍に鎮圧されて自殺。

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