改訂新版 世界大百科事典 「シャチ」の意味・わかりやすい解説
シャチ (鯱)
killer whale
Orcinus orca
ハクジラ亜目マイルカ科の哺乳類。サカマタともいう。また学名からオルカとも呼ばれる。世界中の海に分布する高い背びれをもつ大型イルカ。背面は黒褐色で腹面は白色。目の上の楕円形の白斑と腰部の斑紋が目だつ。背びれの後ろには鞍状の淡色斑がある。頭部はとがり,短いくちばしに移行する。歯は直径3~4cmで,上下左右に各10~13本。成熟した雄は体長9.5m,体重8t以上。背びれの高さは1.8mに達し,遠方からでもよく見える。雌は小さく(7m以下),背びれも幼体と同様ふつうのイルカの背びれに似る。少数の成熟雄と多数の母子よりなる数頭~数十頭の母系の血縁集団で生活する。バンクーバー島周辺の定着性のいくつかの群れでは,雌雄とも成熟後も母親の群れにとどまり,群れによって鳴声が異なる。群れ間での構成員の出入りはなく,群れ数の増加はまれに起こる群れの分裂による。繁殖はときおり複数の群れが合流したときに行われるといわれるが,近親交配もまれではないらしい。しかし,その沖合にいる回遊性の群れでは,雄は成熟後に母親の群れを離れる例が知られており,本種の社会構造の多様さをうかがわせる。妊娠期間は17ヵ月,体長2.1~2.4mの子を秋~冬に出産する。1産1子。雌は数年で成熟し,3~10年に1回繁殖する。コビレゴンドウと同様,雄は雌より短命で,雌には長い老年期があると推定されているが,歯による年齢査定が困難なため寿命などの詳細は不明。おもな餌はニシン,サケ,マグロ,アザラシ,イルカなど。ときには大型のヒゲクジラも集団で襲う。英名はこのような食性に由来する。寒帯から熱帯まで広く分布するが,寒冷域に多い傾向がある。季節回遊は著しくない。ノルウェーでは,小型捕鯨業で年間数十頭が捕獲されている。姿が特徴的なことと,芸をよく覚えるので,水族館で好んで飼育される。日本ではこのために,和歌山太地の追込み漁法で少数が捕獲されている。熱帯には,本種に似て大型魚を捕食するオキゴンドウが分布する。
→クジラ
執筆者:粕谷 俊雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報