翻訳|swing state
「揺れる州」の意味。アメリカ大統領選挙のたびに勝者が共和、民主両党のどちらにも振れる激戦州(バトルグラウンド・ステート)をさす。
大統領選挙では各州に人口に応じて選挙人(持ち票)がそれぞれ割り当てられている。1票でも多くとった候補が、その州の選挙人を「総取り」するのが原則である。二大政党制が長いアメリカでは、たとえば西部カリフォルニア州や東部ニューヨーク州では伝統的に民主党が強く、逆に南部のアーカンソー州やテネシー州は共和党が盤石である。
近年、アメリカ社会はかつてないほど二つに分断されている。保守層とリベラル層の立ち位置が離れていくだけでなく、それぞれの層内での結束(イデオロギー的な凝集性)がしだいに強くなっているのもこの現象の特徴でもある。大別すれば、保守層は共和党支持、リベラル層は民主党支持となる。リベラル層が多い東部、西部を中心とした民主党の強い州は「青い州」とよばれ、保守層の多い中西部、南部の共和党の牙城は「赤い州」とよばれている。分極化でほとんどの州の選挙結果が最初から予測できるため、こういった地域では選挙前からだれがその州の選挙人を獲得するのか、ほぼわかっている。ただ、そうした州だけでは過半数の選挙人の数、270に届かない。その結果、選挙のたびに接戦になるような激戦州で勝てるか否かが結果を左右する。
南部フロリダ州や中西部オハイオ州が典型的なスイングステートだが、人口動態の変化などによって、大統領の選挙ごとに少しずつ状況が変化している。近年、スイングステートの数は10州以下で全選挙人の約2割から3割を占めている。とくに、スイングステートのなかでも選挙人の割り当てが多い、人口の多い州での勝利が候補者にとって鍵となる。
注意しないといけないのは、スイングステート内においてもそもそも共和党候補、民主党候補に投票する層はかなり固定化しているため、各州の無党派層に重点を置いた選挙戦術が展開されてきた点である。そもそも大統領選挙の投票率は約6割であり、自分の支持層を確実に固めたうえで、無党派層の一部をとればその候補者は勝ち抜ける。
それもあって、スイングステートのなかでもとくに激戦となる地区(激戦郡、激戦市)には候補者が重点的に遊説するほか、テレビCMの「空中戦」、オンライン広告などの「サイバー戦」も特定の地域に集中する。全米の有権者人口総数からすれば、わずか7%程度のスイングステートの無党派層が、最終的に大統領を決める。
2016年の大統領選挙では、激戦のペンシルベニア、ミシガン、オハイオ、ウィスコンシン各州など、東部から中西部にまたがるラストベルト(錆(さび)ついた工業地帯)でトランプが軒並み勝利し、この4州の白人層の獲得が当選の原動力となった。
2020年の大統領選挙では、ラストベルトのうち、オハイオ州はトランプが死守したが、3州はバイデンが勝利した。2020年の選挙ではこのほか、それまで共和党が強いとされていたものの、激戦州となった西部アリゾナ、南部ジョージア両州でもバイデンが競り勝った。バイデンがひっくり返したこの5州の合計の選挙人数は両候補の選挙人の差、74のうちのほとんどとなる73人だった。この事実をみても、スイングステートでの勝敗がいかにアメリカ大統領選挙に大きな影響を与えているかがわかる。
[前嶋和弘 2021年6月21日]
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